魔法生物管理局を追放されたので、夢だった魔法生物カフェを開いてまったり暮らします~なんか管理局長が土下座してきてるけど、そのポーズはグリフォン種に威嚇だと思われるのでやめた方がいいですよ~
第5話 『魔法生物カフェ』ラブコメ編、閉幕!!
第5話 『魔法生物カフェ』ラブコメ編、閉幕!!
「はい、フィート。あーん♡」
「あ、あーん……」
カフェの一席で、ロナと僕のいちゃいちゃは続いていた。
『くう゛ぁあああぁあ~…………!!』
『みゃ……』
怒り狂ってぐいぐいとロナの体を押してくるサニーと、どこか呆れた様子で見物しているデザートムーンが観客だ。
天馬部隊で鍛えた体幹で押してくるサニーから耐えながら、ロナはにこにことフォークですくったケーキをフィートの口に運ぶ。
「……ええと、ロナ」
「うん。どうしたの、フィート♡」
「ロナはたぶん、僕のことが異性として好きなんだよね」
「………………………」
にこにこしたままロナはケーキを僕の口に運ぶ。
「どう、おいしい?」
「……うん。おいしいよ。我ながらうまくできたと思う」
「砕いたクッキーがさくさくしてるのがアクセントになってていいよね。これは防水魔法を使ってるのかな? だからクッキーが湿気らないんだ。面白いアイデアだよね」
「そうだね。原価を抑えつつおいしいものを作るには、魔法を使うのが一番だってことに気付いたんだ。魔力はタダだからね」
「あはは。そんなセリフ、フィートにしか言えないよ。ほんと常識外れな魔力量してるなぁ」
「え、そうかなぁ」
頭を掻く僕の胸を、まったくもうとロナが小突く。
もしこの光景を人間が見たら、きっと僕らのことをとても仲の良いカップルだと認識するんだろう。そのくらい僕たちの間を流れる空気は和やかで、
「いつから気付いてたの?」
「え。ああ、ケーキに食感のアクセントを付けたいっていうのはわりとずっと思ってたことで……」
「じゃなくて、あたしがフィートのこと、その、好きだってこと」
『くうぁああ、あ、あぁ~………?』
空気の変化を感じ取ったのか、サニーがロナを押すのをやめて一歩下がった。
「……いや、まあ。天馬部隊にいた頃から、やたら体をくっつけてくるなぁとは思ってたんだよ。クレール隊長に相談したら、それは人間のメ……女性の求愛行動の一種だって教えてくれて」
「絶対に隊長はそういう言い方してなかったと思うけど」
「でもある時期から求愛行動をしなくなったから、僕のことが好きじゃなくなったんだと思ってたんだ」
「求愛行動って言うな。恥ずかしいから」
フォークを置いてロナは立ち上がり、僕の向かいの席に座り直す。『いちゃいちゃ大作戦』はどうやら中止になったらしい。
『くうぅあ、あ~~……』
サニーはとても戸惑った顔をしていた。
「ごめんねサニーちゃん。実はあたしは、きみをダシにしてフィートといちゃつきたかっただけなんだ」
『くう゛ぁぁ~~……』
「急に昔みたいにひっついてきたから驚いたよ」
「……んー。あたしがある時期から求愛行動をしなくなったのはさぁ。フィートはクレール隊長と恋仲だと思って諦めてたんだよね」
「へえ」
「でもこの間隊長とカフェに寄ったとき、帰り道でちょっと話してさ。隊長はフィートのこと、自分の子供みたいに思ってるって言ってたんだ。だからあたしも、フィートのことを諦めなくていいんだ……って思って」
「……! そっか。隊長がそんなことを……」
「めっちゃ嬉しそうな顔するなぁ」
実際すごく嬉しい。僕としてもクレール隊長のことは本当の親のように思って……。
いや、今はそこじゃないか。僕は正直人間の恋心の機微についてはよくわからないんだけど、ここでロナの話をないがしろにするのはとても失礼な気がする。ちゃんと聞こう。
「でさ、フィート。どうなの?」
「どう、というと?」
「や、まあ。あたしはフィートのことが好きなわけだけど。フィートはあたしのこと、どう思ってるの?」
……うーん。
「ロナに対して好意は持ってるよ。性格には好感が持てるし、仕草もすごくかわいらしいと思う。でも、うん。異性としての好き、ではないかな」
「……そっかぁ」
ロナがため息をつく。
「まあ正直、わかってたんですけど。そういえばあたしがフィートを諦めた理由、もうひとつあったんだった」
「え」
「ほら。天馬部隊自体、事故でキスしちゃったことあったでしょ。あのときのフィートが本当になんとも思ってなさそうだったから、完全に脈ナシなんだなぁって思ったんだよね」
「ああ……。それはまあ、うん。そうだね」
僕がロナとキスをしても、特別に感情は抱かないと思う。
というより。
「ロナに限らず、僕が人間の女性とキスして特別な感情を抱くことはないんじゃないかな」
「え……ええ?」
「これ、あんまり人に言ったことないんだけど。僕、人間に対する性欲がないんだよね」
沈黙が流れる。
たっぷり10秒ほど硬直したあと、ロナは口を開いた。
「は、反応に困る……」
「ごめん」
「いや、謝ることでもないけどさぁ……」
「人間に対する、というか。どの生き物に対しても性的欲求らしきものを感じたことがないんだ。だからその、ロナに特別魅力がないというわけではないということを知ってもらいたくて……」
「……いや、なんとなくそういう傾向は感じてたけどね」
人間の、というか生物の恋愛感情というやつは、性欲と強く結びついている。なんなら、過去の偉大な文豪たちができる限り美しく『性欲』を飾り付けたものが恋愛感情だ、とすら言えるかもしれない。
そんな恋愛の根本たる性欲を、僕は持ち合わせていない。
「あたしってさぁ。自分で言うのもなんだけど、かなりの巨乳なわけじゃん」
「そうだね」
「もしフィートが小説の主人公だとしたら、その情報はきっと地の文で描写されないんだろうね」
だろうね。
それどころか。たぶん登場人物の顔の美醜ですらろくに描写されないはずだ。胸の大きさとか、顔の美しさとか、そういう情報を認識することは僕にもできる。できるけれど、それが重要度の高い情報だと感じることができないんだ。
人間のロナから好意を寄せられることと、グリフォンのサニーから好意を寄せられること。僕にとって、そのふたつに本質的な差異はない。
「……はぁ~~~。残念だねサニー。あたしら、どうやら完全に脈ナシだってさ」
『くう゛ぁあ……』
サニーの頭を撫でるロナ。明らかに戸惑った様子で、サニーはされるがままになっていた。
申し訳ない、とは思うんだけど。でもだからといって、僕にはどうすることもできない。ここで嘘をつくのも違うだろうし……
『きゃんっ! きゃんっ!!』
「……ん」
どうしたんだろう。お店の入り口の方で、急にレイククレセントが吠えはじめた。
「ちょっと見てくるね」
「うんうん。気持ちわかるよサニー。報われない思いってつらいよね……」
『くうぁああぁ~~っ』
ふたりに声をかけて席を立ち、鳴き声の方に向かう。
『きゃんっきゃんっ!! きゃんっきゃんっきゃんっ!!』
「お……おいおい。そう吠えんなよ。ちょっと様子を伺ってただけだろーに」
『きゃんっ! きゃんっ!!』
だいぶ人に慣れてきたとはいえ、やっぱりレイククレセントにはちょっと臆病なところがある。どうやら、お店の入り口を開けて中を覗いた男性に吠えかかっているらしい。
「うちの子がすみません。ほら、レイククレセント。こっちにおいで」
『きゃんっ!!』
とてとてとこちらに走ってきたレイククレセントを抱き上げ、来訪者の男性に目を向ける。
ずいぶんとガタイの良い男性だ。すこし灰色に近い金髪が肩の下あたりで切り揃えられている。……なんとなく、どこかで見た覚えのある顔だ。
「こっちこそ邪魔して申し訳ねえ。今日は休みなのか?」
「ええ、そうなんですよ」
「そりゃあ残念だ。この店に来たくて王都を出る日程をズラしたっつうのに、間が悪ぃな」
明らかにがっかりした様子の金髪の男性。
……うーむ。そういう事情なら、このまま帰してしまうのも気が引けるなぁ。
「あの。よかったら、ちょっとだけ休憩していきますか?」
「え……いいのか? そりゃあ本当にありがたい! 特にエルフキャットのデザートムーンってのとキリンのニャアってのに会いたかったんだが、そいつらもいるのか?」
「ええ。魔法生物たちはみんなここで暮らしてるので、休みの日でもお店にはいますよ。あ、でもいつも調理を担当している店員がいないので、フードメニューは期待しないでくださいね。さっき作ったチョコレートケーキの残りくらいしかないんですが……」
「ああ、いやいや。そんなことは全然問題ねえよ。急に押しかけた俺を入れてくれるだけでありがてえし、それに……」
金髪の男は嬉しそうに笑う。
「チョコレートケーキは、俺の大好物なんだ」
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