第11話 登場!! ねこまるとねこじろう!!
「チック。お昼ご飯は食べ終わったのか?」
「うん! パパ、今日は遊べないの? おしごと休みだよね?」
「ああ。パパは今日ちょっと大事な話に行かなきゃいけないんだ。悪いがチック、ひとりで遊んでてくれるか?」
「えー……。まあいいや。じゃあ外で遊んでくるねー!」
「あまり走り回って人に迷惑をかけるんじゃないぞ」
パパの言葉を聞き流しながら、ぼくはテント(カセツジュウタクとか言うらしい)を出て走り出した。
僕はチック。ちょっと前に5歳になった。今まで住んでいた家がなくなって、テントに住むようになってからもう2週間ほどが経つ。
近くに住んでいた友達ともなかなか会えなくなったけど、でも心配はご無用だ。ぼくはチック・ターキース。コミュリョクってやつにはちょっと自信がある。
テントとテントの間をすり抜けながら1分ほど走って、ぼくは目的地にたどり着いた。ここに来てから新しくできた友達の家だ。
「おーい、遊びにきたよー」
呼びかけてからしばらくして、僕の友達はめんどくさそうにのそのそと現われた。
『みゃ~~~』
『みゅ~~~』
「ねこまる、ねこじろう、ちょっと太った?」
ねこまるとねこじろうとは、ここに来た最初の日に出会った。立ち並ぶテントの中を探検しているときに猫の鳴き声が聞こえてきて、こっそりテントをのぞいてみるとねこまるたちがいたのだ。
ちなみにテントの中には他にもこんすけがいるんだけど、この子はなかなかテントの外に出てきてくれない。ざんねん。あのしっぽ、さわってみたいのに。
『みゃ』
「わ、ねこまる!」
銀色の毛のねこまるが、今日も頭を僕の手にこすりつけてくる。なでろ、ってことだな。よし、なでてやろう。ぼくはチック・ターキース。ねこをなでるスキルにはちょっと自信がある。
なでりなでり。ぼくが背中をなでると、ねこまるは気持ちよさそうに目を閉じた。
ふわふわしたてざわりが気持ちいい。ぼくのパパは動物が好きじゃないから、こうやってねこをなでる時間は貴重だ。
黒い毛のねこじろうは、そんな僕とねこまるを少しはなれたところでじっと見つめている。ねこじろうはだいたいいつもこんな感じだ。ねこまるとちがって、あんまりなでさせてはくれない。
『みゃぁ~~……』
しばらくそうしていると、不意にうしろの方から騒がしい声が聞こえてきた。
「で、ですから困りますって! もめごとは勘弁してくださいよ!」
「うるさい! お前たち冒険者ギルドがいつまで経っても対応しないのが悪いんだろうが! それで結局、そいつのテントはどこにあるんだ!」
「個人情報ですよ、教えられるわけないでしょう!」
「そればっかりだ。まあいい、おおよその場所はわかっているんだ。隠したってすぐに見付かるだろう!」
「その通りです。あなたたちに出来ないなら、我々が直接その常識知らずにひとこと言ってやりますよ!」
「避難所の安全は、我々の手で守るんだ!」
その中にが聞きおぼえのある声がまじっていたので、ぼくは立ち上がってうしろを振り返った。ねこまるがおどろいたようにこちらを見上げる。
「パパ?」
「……チック? ここで何をしてるんだ?」
そこにあったのは、今朝おわかれしてきたばかりのパパの顔だった。
●
「チック!! お前、なんて危険なことを!!」
「きけんじゃないよ! ねこまるもねこじろうも、ゼンゼンきけんじゃない!!」
「いいやチック、お前はわかってないんだ! そいつらはエルフキャット。なんの罪もない男の子を瀕死にまで追い込んだ、とんでもなく凶暴な生き物なんだぞ!」
『みゃ?』
『みゅ~?』
「なん……そんなにかわいく鳴いてみせても私は誤魔化されんぞ! 猛獣どもが、私の息子に手を出すなんて!!」
なんかよくわからないけど、とにかくパパはものすごく怒っていた。ねこまるとねこじろうと遊ぶのは、実はよくないことだったらしい。
パパと一緒にいる10人ほどの人たちも、みんな恐ろしいものを見るような目でねこまるとねこじろうをにらみ付けている。
「チメン・ターキースさんは我々のリーダー的存在。そのお子さんが、すでにこんな危険な目に遭っていたとは」
「やはりこのエルフキャットたち、ええと……」
「ねこまるとねこじろう」
「そう。ねこまるとねこじろうは、今すぐこの避難所から追い出すべきだ!!
「その通り。おい、ねこまるとねこじろうの飼い主はどこにいる!!」
「……見当たらないな。どうやら留守にしているらしいぞ。おいギルド職員、どうなってる!」
「ぼ、僕に言われても。あ、でもそういえば、この時間は新店舗の設営で留守にするって聞いてたような……」
「こんな凶暴なねこまるとねこじろうを放置して出かけているのか? 管理責任はどうなっているんだ!!」
さわぎが大きくなってきて、周りのテントからも何人かが顔を出してこっちの様子をうかがっている。
ねこまるもねこじろうもいい子なのに、パパたちはなにかカンチガイしているみたいだ。どうしよう。このままじゃねこまるたちが追い出されちゃう……。
「ねえチメンさん、やはり前に話し合った通り、冒険者ギルドに訴訟を起こしましょう!」
「それがいい。もはや言葉だけで解決できる状況じゃありません!」
「そ……そんなぁ。待ってください、冒険者ギルドとしても避難民の皆さまの安全のことは第一に考えて……」
「うるせえ! 本当に考えてるなら、エルフキャットなんかをずっと放置しとくはずないだろ!」
ヒートアップする大人たち。
だけどパパは、ゆっくりと首を振った。
「……いいや。訴訟は起こさない」
「えっ?」
「訴訟には時間がかかる。避難所の安全のためには、今すぐ事態を解決できる方法が必要だ。そして私は思い付いている。今すぐにねこまるとねこじろうを避難所から排除する方法をな」
「な……なんですって! その方法とは一体!?」
「なに、簡単なことさ。……フィート・ベガパーク氏をこの場所にお呼びするのだ」
すこしのチンモク。
そしてすぐに、おお! というどよめきがみんなの中に広がっていく。
「それはいい! あのベガパーク氏なら、きっとこんな状況放っておかないはずだ!」
「素晴らしいアイデアですね。さすがはチメンさん!」
「ふ。私はチメン・ターキース。アイデア力には少々自信がある」
「……あのう、みなさん、何をおっしゃっているんです?」
みんなの中にひとりだけいる、ギルドの制服を着た人が首をかしげる。
それに対して、パパは大きくため息をついてみせた。
「やれやれ。冒険者ギルドの職員は本当にレベルが低いな。まさかフィート・ベガパーク氏を知らないのか?」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「少しは自警団の広報誌に目を通すといい。ベガパーク氏は民間人でありながら、無能な管理局に代わって王都からエルフキャットを一掃した方だ」
「魔法生物にとても詳しいんだ。なんでもあの
「
「それなのに、当の冒険者ギルドに属する君がベガパーク氏のことを知らないとは……。まったく、呆れて物も言えないな」
「いや、知らないというわけではなくですね……」
ギルドの人がなにか言っているけれど、パパたちはもう聞いていない。ベガパークという人を呼び出す話でもりあがっている。
「しかしチメンさん、そんな大物がここに来てくれますかね?」
「心配無用だ。私はチメン・ターキース。管理局とのコネクションには少々自信がある」
「さすがチメンさんだ! 本当に頼りになる!」
「我々はベガパーク氏に状況を伝えるだけでいい。噂通りの高潔な人柄なら、きっとそれだけでここに足を運んでくれるはずだ」
「い、いやですから皆さん。フィートさんはですね……!」
「あのう、すみません。僕のテントの前でどうかしたんですか?」
パパたちもぼくも、それにねこまるとねこじろうも、いっせいに声のした方をふり向いた。
そこには立っていたのは、大人の男の人ひとり。ちょっと寝グセがのこった黒髪に、まるで2つの小さな穴みたいなまっくろな瞳。
「レイククレセントはまだ大勢が大声で喋ってるのに慣れてないので、あんまりうるさくしないでいただけるとありがたいんですが……」
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