魔法生物管理局を追放されたので、夢だった魔法生物カフェを開いてまったり暮らします~なんか管理局長が土下座してきてるけど、そのポーズはグリフォン種に威嚇だと思われるのでやめた方がいいですよ~
第10話 『魔法生物カフェ』ミステリー編、開幕!
第10話 『魔法生物カフェ』ミステリー編、開幕!
「な……急に現われて、なんなんすかあんたら。この状況、どう考えてもお頭が犯人以外にありえないじゃないっすか!」
「フレッドの言う通りだ。それとも何か? お前らのどっちかが犯人だとでも言うつもりか?」
髭面の男2人にすごまれると、なかなかの圧があるな。
僕が口を開こうとしたその時、先に隣から声が上がった。
「あ……。あたしも分かったかも、真犯人」
「え……?」
「フレッドさん、でしたっけ。犯人はあなたですよね」
びしぃ、とロナが肉を持っていない方の男……フレッドに指を突きつける。
「な、何を言ってんすか! 俺がルビーにそんなことするはず……!」
「最初の違和感はその瓶でした」
「こ……。これすか?」
フレッドが足下にあった瓶を拾い上げて振ってみせる。
茶色と白のまだら模様の液体が、瓶の中でちゃぷちゃぷと揺れた。
『にゃ~~~』
「その中身、コーヒー牛乳ですよね。……明らかにおかしい。愛するルビーちゃんを手にかけるほど飢えていたはずなのに、なぜ栄養たっぷりのコーヒー牛乳がほとんど手つかずで残ってるんです?」
「え? いや、それは……」
「言い換えましょうか。なぜピーターさんがそれほど飢えていたのに、フレッドさんの手元にはコーヒー牛乳が残っていたんでしょうか? ……答えは簡単、ピーターさんとフレッドさんの間に、明確な上下関係が存在したからです」
ロナはすらすらと言葉を紡ぎ、僕を含めた3人はただそれに聞き入るしかない。
己の推理をとうとうと語る彼女は、さながら名探偵といった風体だった。
「『お頭』という呼び方からは、フレッドさんがピーターさんの部下であるような印象を受けます。でもそれが誤解だった。あるいはもともとフレッドさんが部下だったけれど、この胃袋の中で上下関係が逆転したのかもしれませんね。ともかくこの場においてピーターさんはフレッドさんに逆らえない立場にあった。フレッドさんの持つコーヒー牛乳を、一口分けてもらうことすらできないほどに」
「……!」
「そして飢えに耐えかねたピーターさんは、ついにルビーちゃんに手をかけた。……実際に手を下したのはピーターさんです。でもそうせざるを得ない状況に追い込んだ人間はフレッドさんだ。つまりこの事件の元凶、真犯人は……フレッドさん、あなただったんですよ!!」
びしぃ、とロナがフレッドさんに指を突きつける。
なかなか様になっている。情景だけ見ると、本当に難事件を鮮やかに解決した名探偵のようだ。
僕はそんなロナの手をそっと掴み、下におろさせた。
「……フィート? あたしの推理、合ってたよね?」
「全然合ってないよ。あと、そんな薄い根拠で人を糾弾するのはよくないよ」
「あれ?」
「いや……そうすよ。あまりにもめちゃくちゃなことを堂々と話すもんだから、逆にどこから突っ込んでいいか分かんなかったっす」
「つーかこいつが俺より上なわけねぇだろ」
『にゃぁ』
「そ……そんな……」
ロナはがっくりとうなだれた。
わりと自業自得なので放っておくことにする。
「結局なんすか、あんたら! 適当なことべらべら言って人を犯人扱いして!」
「フレッドの言う通りだ。これ以上妄言を並べるなら容赦しねぇぞ」
「あ、いや。すみません、ちょっとだけ僕の推理も聞いてください」
共通の敵を得て、フレッドさんとピーターさんが若干団結してきていた。これはこれで良い傾向なのかもしれないけど、いちおう僕の考えも話しておきたい。
「……僕が違和感を持ったのは、その
「……傷口?」
フレッドさんがこわごわと
「……う。なんすか。これの何が気になるんすか」
「傷口が荒いのが分かりますか? 鋭利な物で突き刺したあと、強引に引きちぎるとこういう傷になります」
「気分の悪いこと聞かせないでほしいんすけど……。もしそうだったとして、なんだって言うんすか」
「凶器はどこにあるんでしょうね?」
顔をしかめていたフレッドさんの動きが止まった。
「鋭利な刃物なんて、ここにありますか? 魔法で攻撃したなら馬車や傷の周りに痕跡が残るはずですが、それもない」
「……お頭が今も凶器を隠し持ってるのかも。それとももしかしたら、証拠隠滅で馬車の外に捨てちまったとか……」
「何のために。凶器を隠すことで自分が犯人であることを隠せるような状況ならまだしも、あなたと2人きりの馬車でそんなことをする理由がない」
「……おい、兄ちゃん。それ以上喋るんじゃねえ」
明らかに苛立った様子で、ピーターさんが僕の目の前に立って威圧してきた。
「お……お頭?」
「俺はずっとナイフを隠し持ってたんだよ。そのナイフでルビーの肉を削ったんだ!」
「ではそのナイフは今どこにあります?」
「……馬車の外に落とした。手をすべらせたんだよ」
「苦しいですね。そんな話を鵜呑みにするよりも、もっと説得力のある仮説があります」
「な……なんすか、その仮説ってのは!」
「くそ、やめろ! その口を閉じやがれ!」
「この馬車の中に存在する唯一の『鋭利な刃物』。……
しん、とその場が静まりかえる。
それはきっと、僕の推理が正しいことの証明だった。
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