魔法生物管理局を追放されたので、夢だった魔法生物カフェを開いてまったり暮らします~なんか管理局長が土下座してきてるけど、そのポーズはグリフォン種に威嚇だと思われるのでやめた方がいいですよ~
第7話 野生の動物を相手にするときは、常に最悪の事態を想定しよう
第7話 野生の動物を相手にするときは、常に最悪の事態を想定しよう
そういえば、昔ルークが話してたなぁ。
以前ルークがいた世界には、『ウォータースライダー』なる施設があったそうだ。
水の流れるすべり台が付いた巨大な塔。破廉恥なカップルがくっつきながらすべり降りて、恋人と密着しながらのスリルを楽しむ施設だったとのこと。
ちなみに『じゃあルークも恋人と一緒にすべったの?』と聞いてみたところ、彼は丸1日ほど口を効いてくれなくなってしまった。
あれはいったいなんだったのか、今でも謎のままだ。
ともあれ。僕がふとそんなことを思い出したのには理由がある。
「うわわわわわっ!! フィート、絶対離れないでね!」
「うん。ここまでしがみつかれてたら、離れようと思っても離れられないけどね」
ぬるぬるとすべる筒の中を、ロナにしがみつかれながらものすごい勢いで滑り落ちていく。
この状況が、ルークの話していたウォータースライダーとよく似ていたからだ。
違いといえば……そうだなぁ。あたりが異様に真っ暗なところと、1度離れたら合流は難しいだろうな、ってくらいに筒が巨大だってところかな。
「てかさフィート、これ!! これ、いったいいつまで続くわけ!?」
「うーん……。俗説では永遠に続くとか言われてるけど」
「永遠!? えいえいえい、永遠!?」
ロナには悪いことをしたな。まさかこうなるとは思ってなかった。
……そう。最初はただ単に、非番のロナに調査を手伝ってもらっていただけだったんだ。
●
「……おっけ。確認終わったよ」
「どうだった?」
「んー。上空から隅々まで確認したけど、直射日光が倉庫内に差し込む経路はなさそうだね。たぶん保管する食料の都合上、意図的にそうしてるんじゃないかなぁ」
「やっぱりか。ありがとう、ロナ」
脳内のメモ帳にあった『レイウルフ』の名前を二重線で消す。
……ううん。透明人間連続盗難事件の犯人候補も、だいぶ絞られてきたな。
「レイウルフもファントムゴートもランドシーホールもテラダイバーも違った。……うーん、本格的にスケールスネーク説が濃厚になってきちゃったなぁ」
「ふーん? 候補が絞られてきたなら良かったじゃん。ギルドからの依頼も達成間近ってことっしょ?」
『ぎゅるぉぉ~ん』
シルフィードの首元を撫でながら、ロナが首を傾げる。
もっともな指摘だ。だが僕は首を横に振る。
「候補が絞られてきたこと自体じゃなくて、その候補がスケールスネークってところが問題なんだ」
「へぇ。なんかヤバい生き物なの?」
「かなりね。人間にとって有用な性質があるから魔法生物に分類されてるけど、野放しの状態ではそこらの魔獣よりはるかに危険だよ」
正直なところ、本当にスケールスネークが犯人なのであれば、まだ被害が食料だけで済んでいるのは奇跡だと言っていい。
……いや、もしかしたら、もう犠牲者は出ているのかもしれない。なんせスケールスネークはその性質上、死体を残さないわけだから。
「とにかく、警戒は怠らないようにしよう。この倉庫で盗難があったのはつい最近だ。まだ近くにスケールスネークがいてもおかしくない」
「りょーかーい」
「それじゃ、次は倉庫の中を調べてみよう。所有者の許可を取っておいたから」
「おっけ。シルフィードはここで待って……あ、いや。そんな危険な生物がいるんなら、こんなところにひとりで待たせてちゃ危ないか」
「だね。ちょっと安全なところに預けてこよう」
『ぎゅるおぉぉ~~~ん』
というわけで。シルフィードを倉庫の所有者である男の家の庭に預けたあと、僕とロナは倉庫に入った。
「……ん~~。やっぱヘビが入ってこれるような隙間はなさそうだけどなぁ。窓は全部閉まってるし、換気扇もそんなに大きなものじゃない。唯一の出入り口近くにはずっと人がいた。やっぱ透明になれる生き物の仕業じゃないの?」
「透明になる生き物といえばランドシーホールだけど、あれは移動するときに音が鳴るからね。スケールスネークなら、たぶんその換気扇からでも侵入できるよ」
「え。スケールスネークってそんなちっさいの? 食い荒らした食料はけっこうな量だけど……」
「いや、基本的にはかなり大きなヘビだよ。ほら、ちょうどそこ、ロナのすぐそばにある太いロープみたいな感じ」
「へぇ、めちゃくちゃ大きいじゃん。じゃあやっぱ換気扇からなんて……待ってフィート」
不意にロナが言葉を止めた。
「どうしたの?」
「あのロープ、なに? こんな太いの、ふつうこういう倉庫に置いとくっけ?」
……あれ、言われてみればそうだな。
積み荷のそばに無造作にうち捨てられたそのロープは、たしかに資材の梱包用にしては異常に太かった。
あと暗くてよく見えないけど、なんか緑と黒のまだら模様になっている気がする。
『SHHHHH.....』
「珍しいね、フィート。ロープが鎌首をもたげてるよ?」
「ロナ。ロープから目を離さずにゆっくりと下がるんだ。できるだけゆっくりと、相手を刺激しないように」
こくこくとうなずいて、ロナがゆっくりと後ろに足を運ぶ。
……大丈夫。あのロープは食事のあとで、ある程度は満足していると思う。すぐに攻撃態勢に入るような状態ではないはず――
『SHHHHHHHHHH!!!!!!!!』
ロープが、その口を大きく広げた。
「ロナ! 全速力でこっちへ!!」
「ああもう、ゆっくりなのか全速力なのか!」
大蛇にくるりと背を向け、ロナが駆け出した。僕も大急ぎでそちらに向かう。
逃げ去るロナの背中にスケールスネークは、その大きく開けた口から数個の小石を吐き出した。
数個の小石。そう、数個の小石だった。
スケールスネークの口から飛び出した直後の数瞬だけは。
「――――えっ」
振り返ったロナが息を呑む。
直径にしておよそ5メートルほどだろうか。
人を押し潰すのに十分な質量を持った3つの巨岩が、ロナの頭上から降り注ごうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます