魔法生物管理局を追放されたので、夢だった魔法生物カフェを開いてまったり暮らします~なんか管理局長が土下座してきてるけど、そのポーズはグリフォン種に威嚇だと思われるのでやめた方がいいですよ~
第17話 全国民の愛を一身に受ける、かっこよくて素敵な王太子殿下さん
第17話 全国民の愛を一身に受ける、かっこよくて素敵な王太子殿下さん
「エルフキャットはもともと、もっと魔力が豊富な土地で生息する魔法生物だろう? それが人間の都合で王都に連れてこられて邪魔になったら排除なんて、勝手すぎると思うんだ!」
ハルトール王太子は拳を握りしめて憤る。
「1年前に君にガイドを受けてから、僕も魔法生物が好きになってね。特にエルフキャットのことは大好きだよ」
「……そうだったんですか。それは光栄です」
「だから僕はずっと、エルフキャットの『魔物』認定を避けるために尽力してきたんだ。でも『魔物』認定を決定する評議会は数十人からなる大所帯で、彼らの説得は難航した」
「え。さっきは賄賂でなんとかできるって話じゃ……?」
「実際に賄賂で決議を動かそうとすれば、『魔封棺』数十個分のお金が必要になるだろうね。君の考えを知りたくて、ちょっとした誇張表現をしたことを許してくれ」
「……なるほど」
「ともかくだ! そんな時、メルフィリアから聞いたのが君のカフェのことだったのさ」
ハルトール王太子はデザートムーンを撫でる手を止めることなく、もう片方の手でぐるりと店内を指し示した。
「エルフキャットをテーマにしたカフェ! 震えたよ。君のカフェは世論を変えられる。いや、実際に変えつつある! ツイスタを見たかい? デザートムーンの愛らしい姿は、今や王都のトレンドを席巻しようとしているぞ!」
「それは……ありがとうございます」
「今日実際に来てみて、このカフェのクオリティの高さと君の目的への意思の強さも確認できた。あと少しの推進力があれば、このカフェは評議会の決断を動かすだけの十分な材料になる!」
僕がこのカフェをオープンしたのは、そもそもエルフキャットの『魔物』認定を回避するためだ。
ハルトール王太子いわく、その目的はまもなく達成できるのだそうだ。とても喜ばしい。デザートムーンの可愛さが世論を動かす。まさに僕の想定通りだ。
……だけど。
『みゃぅ……?』
「あと少しの推進力、と言いましたね。王太子殿下」
「言ったよ」
「つまり議決を動かすには、現状のままだともう一押し足りないということですね」
「そうだね! 今後のこのカフェの成長を加味しても、議決が下される日までに十分世論を変えられるかは怪しい」
「そして王太子殿下。あなたはその『推進力』に心当たりがあるんですね? いやむしろ、それについて話すためにここに来たのでは?」
ハルトール王太子は満面の笑みでうなずいた。
「素晴らしい! フィート君、君は実に聡明だよ! なあフィート君、このカフェの広報を僕に任せてくれないか?」
「……広報、ですか」
「王太子の僕がバックアップするお店! きっと今以上に話題になる! 君とデザートムーンの関係についても、多少脚色すれば素晴らしいストーリーになるよ。愛する飼い猫を守るため、カフェを開くことを決意した青年の話だ!」
「………」
「僕が『推進力』だよ、フィート君! 僕の力があれば、このお店はエルフキャットの『魔物』認定を退けられる存在になれる! ぜひ君の店をプロデュースさせてくれないか!」
『ぅみゃああああああっ!!!!』
机の上で丸くなっていたデザートムーンが飛び起き、ハルトール王太子に毛を逆立てて威嚇した。空中にいくつもの魔法球が形作られる。
「……おや。急にどうしたんだい?」
「落ち着け、デザートムーン。大丈夫だから」
『みゅぐるるるぅ……』
背中を撫でてやると、デザートムーンは少し落ち着いてくれた。魔法球がしぼみ、空気中に溶けて消える。しかしそれでも銀色の毛は逆立ち、赤い瞳はハルトール王太子をにらみ付けていた。
「おやおや、困ったな。さっきまで懐いてくれてたのに、嫌われちゃったかな?」
「……気にしないでください。それより王太子殿下、先ほどの話ですが」
「ああ! どうかなフィート君、君にとっても悪い話じゃないと思うんだけど!」
「ええ。とても良い話だと思います。ぜひお願いしたいですね」
「本当かい! それは良かったよ! だったら……」
「だけど1つだけ条件があります」
「……条件?」
「ええ」と僕はうなずく。「教えておいてもらえませんか。あなたの本当の目的を」
ハルトール王太子の表情から、笑顔が消えた。
「……なんのことだろうか」
「あなたは魔法生物なんて好きじゃないですよね。エルフキャットにも大して興味はないはずだ」
「……どうしてそんなことが言えるんだい?」
「なんとなく。僕、魔法生物好きな人のことはなんとなく分かるんです。あなたからはその匂いがしなかった」
「なんとなくって……!」
「それにあなたは、デザートムーンがなぜ怒ったのか気付いていなかった。エルフキャットは尻尾の付け根を触られると嫌がります。1年前に話したことだ」
「……1年前のことを全部覚えていろって? いくら好きな生き物の話だって、ちょっとは忘れるさ」
「さっきあなたの手が尻尾の付け根近くに触れた時、デザートムーンは嫌がる素振りを見せました。気付いていなかったようですね。無理もない。あなたの手はずっとデザートムーンを撫でていたけれど、目はほとんどそちらを向かなかった」
エルフキャットを撫でていてその反応を楽しむことをしないなんて、僕からすれば信じられないことだ。おそらく、ハルトール王太子にとってデザートムーンを撫でることは、僕の信頼を得るための手段でしかなかったからだろう。
ハルトール王太子は一瞬だけ黙り込み、そしてため息をついた。
「……うん。どうやら、君を侮りすぎたようだね。世間知らずではあるけれど、頭と勘は悪くないみたいだ」
「………」
「分かった、話そう。と言ってもつまらない話だよ。僕の本当の目的は、金だ」
「……金?」
「そもそもエルフキャットが、富裕層のペットとして王都に持ち込まれたことは知っているね? 一部の人間は扱いきれずに捨ててしまったが、全員がそうだったわけではない」
ハルトール王太子が語った話はこうだった。
富裕層の中には、今でもエルフキャットを飼っている者が大勢いる。それも正しい取り扱い方も分からず流行のペットに飛びつく成金連中とは違う、本物の金持ちたちだ。
ハルトール王太子はそういう連中と契約を取り付けた。エルフキャットの『魔物』認定を阻止する代わりに、彼らから大金を受け取るという契約だ。
「彼らも、君と違うベクトルで面白い人たちだよ。『子供と仲良くしているペットを引き離したくない』というそれだけの理由で、とんでもない大金をぽんと支払うんだからね」
「面白い、ですか? すごくまっとうな理由だと思いますけど」
「ああ……。君はそう思うだろうね、うん。ともかくそれが、僕の本当の目的だ。第六王子なんて立場だと色々と入り用でね。大金が手に入る機会は逃したくないのさ」
……なるほど。
納得はできる話だった。
「さ、フィート君! 僕は正直に話したよ。君はどうする?」
「………」
「確かに僕は、本当の目的を君に話さなかった。エルフキャットが大好きだって言ったのは、まあ、嘘だ。その上で考えてほしい。僕の提案を受け入れるかどうか」
「受け入れます」
「もちろん君の気持ちは分かるよ。自分を騙そうとした相手の話なんて聞けるか、ってね。だけど冷静になって考えてみてほしい……あれ、今なんて言った?」
「受け入れますと言いました」
エルフキャットの『魔物』認定を阻止したいという点が事実であった以上、断る理由がなかった。
ハルトール王太子は目を白黒させ、ため息をつき、そして微笑んだ。
「……まったく。交渉術とか心理誘導とか、そのへんの技術を駆使するのが馬鹿らしくなるな。ま、ともかく良かったよ。それじゃフィート君、契約成立だ」
「はい」
『みゅぐるる……』
そんなわけで。
我らが『desert & feed』はその日、王太子殿下という後ろ盾を得たのだった。
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