遠すぎた橋④

 『中隊ごとに突撃隊形を形成、反復攻撃を敢行する。敵の横っ腹を突いてやれ!!』


 アルジスは中隊ごとにいわゆる鶴翼の陣形を逆さにした偃月の陣形を組ませた。

 Λ形の陣形は指揮官が先頭となり敵に切り込むため士気も高く攻撃力も突破力も高い。 

 敵の集団を分断することに特化したこの陣形は機動戦を前提としており、まさに魔導騎兵のための陣形とも言えた。

 駆動音を響かせ雪煙を巻き上げながら河畔を爆走する魔導騎兵の姿は、絵に描いたような勇猛果敢な騎兵を彷彿とさせる。

 

 『右翼にて敵魔導騎兵の接敵を確認!!』


 第103魔導騎兵大隊を壊滅の瀬戸際へと追い詰めていた帝国軍魔導騎兵は、その姿を目視で視認したときにはかなりの近距離までの接近を許してしまっていた。


 『防御隔壁、全周展開!!』


 魔力による身体と機体の防御は魔力の消費が多く、反復攻撃を企図したアルジスは少しでも魔力の消費を抑えるために接敵寸前のタイミングを見計らって展開させた。


 『自由射撃、放てェッ!!』


 前方の敵を追い詰めることに固執していた帝国魔導騎兵は防御隔壁を前方にしか展開していなかった。

 それが持久戦を想定した魔導騎兵の戦い方の常なのだが、第701特務魔導騎兵大隊による突撃はそんな常道をいとも容易く覆した。


 「て、敵襲!!」

 「どっから湧いて出た!?」

 「友軍による誤射を気にしないだとっ!?」


 撃ち合いの渦中に新手が全速で突っ込んで来たのだからたまったものじゃない。

 一部の兵達の視界に入っていたとはいえ、帝国軍魔導騎兵たちは面食らった。


 「やっと来てくれたか援軍ッ!!」

 「仲間の仇だ、くらえ!!」


 アルジスらの突撃に呼応するかのように壊滅の憂き目をみていた第103魔導騎兵大隊も心做しか息を吹き返し始めた。


 「後退しろ!!」

 「前を食い破れ!!」


 矛盾する命令が帝国軍魔導騎兵部隊の指揮系統を蝕んでいく。


 『ふふふ、他愛もないわ!!』


 アルジスの隣に位置するクニッツはティッカコスキ工廠製のKP/-31短機関銃を乱射しながら屍の山を築いてゆく。

 本来、対歩兵集団用の火器であるそれを、しかし帝国軍魔導騎兵が側面に防御隔壁を展開させていないことをいいことに撃ちまくっていた。

  4個中隊の突撃の後に残るのは敗残の魔導騎兵ばかりだ。


 『鴨撃ちだァっ!!』

 『祖国を守れェッ!!』


 各々めいめい好き勝手なことを口走り、突撃を敢行する第701特務魔導騎兵大隊の隊員たちは意気軒昂そのもので、連戦の疲れなど微塵も見せない。

 そんな部下たちの様子を気にかけつつアルジスもまた敵を狩り続けていた。


 「これで四騎撃破か……」


 通り過ぎた後には手榴弾の置き土産を落としていき、更なる敵の撃破を狙う。

 そんな調子で敵を蹂躙しつつアルジスたちは敵部隊を引き裂いた。


 『各中隊、反転して再度攻撃だ!!』


 敵は未だ混乱状態にある。

 一部の敵は迎撃のために纏まりつつあったが、それはごく少数であり脅威にはなり得なかった。


 『集団になった的は中隊長の先導に従って回避しろ』

 

 リーフラント軍魔導騎兵の中で最精鋭たる第701特務魔導騎兵の面々の中にはアルジスほどではないにしろ急速回頭クイックターンが可能な兵もおり、部隊の方向転換は極めて迅速に行われた。

 そして鯨波の如く敵を飲み込まんと、彼らは再び火中に身を投じるのだった。

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