第四話 二つの戦線
結論から言えばメーエルを巡る一連の戦闘はリーフラント側の完全敗北だった。
グライペダ軍管区における基幹戦力の三割を損耗した挙句に得るものは何も無かった。
いや、得るものが何も無いというのは語弊であり、正確には今次大戦において魔導騎兵が絶大なる効力を発揮するということを確認したのだった。
―リーフラント公国軍参謀本部会議室―
「ふん、先のメーエルは完全な失策だったな。だから機甲部隊ではなく自走砲若しくは砲兵部隊を投入しろとあれほど言ったのだ」
参謀のレングヴェニス少将が鼻で笑うと面白くなさそうに言った。
「我々参謀本部詰めが無能のタダ飯ぐらいだと喧伝するいいプロパガンダになったな」
皮肉混じりに参謀本部次長たるアドマイティス准将は、葉巻の煙を
「とはいえ手をこまねいている時間はない。早急に次の手を打たねばなるまいて」
レングヴェニスは何としても次は参謀総長や上級将校の同意を得るぞ、とアドマイティスに視線を送った。
「無論だとも」
アドマイティスはそれに同意を示すと地勢を確認すべくメーエル周辺の地図に目を向けた。
「現在の状況について今一度、確認したい」
アドマイティスの要求に居合わせた参謀将校連の一人が前へ出た。
「現在は、メーエルを半包囲下に置くべく、北はクレチンガ、東はガルグジュダイ、南はプリエクレの各街において防衛戦を構築しつつ戦力の再集結を図っています」
「敵情に関しては?」
「現状、友軍観測班によれば連隊規模の歩兵部隊の揚陸、駆逐艦と潜水艦の進出及び、ライン級軽空母の進出が確認されております。加えてメーエル郊外の一部を整地にしているとの情報もありました」
アドマイティスの質問に参謀本部情報課長であるランベルク大佐はよどみなく答えてみせた。
「どうみても橋頭堡にするつもりだな」
占領地の要害化ととれる帝国の動きに、会議室の空気は一層重くなった。
「ならば、徹底的に妨害するしかあるまいて。砲兵部隊をガルグジュダイに集めてメーエルへの攻撃を敢行、あわせて要害化している帝国軍に対して魔導騎兵部隊によるハラスメント攻撃というのはどうか?」
アドマイティスが議論を進めるべく参謀将校一同に提案した。
「メーエル川の防衛戦での帝国軍の攻撃が活発化している今、それは厳しいと思いますが……」
メーエルを帝国に奪われた今、リーフラントは二つの戦線を抱えていた。
一つは帝国の飛び地である東プルーシア領ケーニヒスベルクと接するメーエル川の防衛線、そしてもう一つがメーエルを半包囲する防衛線だった。
「確かにランベルク大佐の言う通りだな。強襲上陸によるメーエル侵攻は助攻でしかない。身動きの出来ぬように包囲を継続し、打撃力たる魔導騎兵は敵の主攻であるメーエル川の防衛線に投入するべきだろう」
アドマイティスより一階級上のレングヴェニスの言に参謀将校連は同意を示した。
「だが航空基地建設を黙認するわけにもいくまい」
アドマイティスは航空劣勢を何よりも危惧していた。
「航空戦力を主戦線に投入するのなら、そこは郷土防衛隊に頼む他ないだろう」
正規軍の他にリーフラントには、元軍人や短期訓練を受けた民間人による武装組織があった。
二線級の軍隊の投入がどういう意味を持つのかをよく理解しているアドマイティスは、渋面を浮かべたのだがレングヴェニスに
「今さら国民にこの窮状を隠すことは無理だろうよ」
と言われてしまえばそれまでだった。
◆❖◇◇❖◆
‡レポート‡
発 第701特務魔導騎兵大隊指揮官
アルジス・シャロン少佐
宛 参謀本部次長 アドマイティス准将
先の戦闘において帝国魔導騎兵部隊と戦闘せり。増強大隊規模の戦力を確認し市街地での戦闘に持ち込み包囲に成功。
撃破確実15騎
未確実 7騎
加えて市街の敵歩兵及び敵軽装甲車両に対し絶大なる効力を発揮す。
今次大戦における勝敗の決着に魔導騎兵は多大なる影響を及ぼすと確信したり。
さらなる部隊拡充を願う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます