激突メーエル②
『防御隔壁貫徹術式弾に切り替えろ!!』
こちらがそうしたように相手もおそらくは防御隔壁出力を最大限にしてくるに違いない。
『それでは継戦能力が低下します!!』
第二中隊を率いるベルギス中尉がアルジスに意見具申をしたが、アルジスは命令を撤回することはしなかった。
理由は単純、なぜなら―――――
『どのみち、長期戦になればこちらに勝ち目はない。というよりもこちらには長期戦に耐えうるだけの備えがない。ゆえに敵の魔導騎兵を相手取るとは言ってもこちらの消耗を抑えつつ、ある程度の敵の戦力を削ることが目的だ』
友軍部隊の撤退支援とは即ち殿軍であるということ。
つまり長居をすれば、それだけ敵中孤立の憂き目を見る可能性が高まるということだった。
『そ、そうですか……了解致しました!!』
消耗抑制ドクトリンを全面的に採用している公国軍において持久戦を想定するのは教本通りではあったが、そもそも魔導騎兵や機甲兵科の殿軍における戦術の根幹たる機動防御戦闘においてそれは例外だった。
『敵、ルート227を速度200で前進中!!30秒以内には射程圏内に入ります!!』
敵情報告にアルジスはニヤリと口角を吊り上げた。
◆❖◇◇❖◆
『敵は街中に後退していきます!!』
ヴァーレンローデは、状況の推移を芳しく思っていた。
『正面戦闘では不利と判断したか。だが街中に逃げ込んだだけでは数的不利な状況が変わるはずもない』
ヴァーレンローデは機体の速度を緩めることなく、むしろ加速させた。
『及び腰の敵に鉛の鉄槌を馳走してやれ!!』
敵魔導騎兵を街へと追い込み、閉じ込めて一方的に嬲る。
この上なく都合のいい戦況にブルグント騎士団の面々は勝利を夢想していた。
そして甘美な夢は、油断を生じさせた。
『一番手柄を立てたやつには女でも秘蔵のボトルでもくれてやる』
士気を高揚させ迅速に敵魔導騎兵を排除し、混乱に終止符を打つべくヴァーレンローデは部下たちにハッパをかけた。
『敵魔導騎兵は、伏撃態勢にあり!!』
やがて通りを驀進すると敵状報告がなされた。
『篭城か?頭の切れる者がいると言ったがあれは勘違いだったようだな。防御隔壁最大出力、構わず突っ込め!!』
ヴァーレンローデの指示は、果たしてアルジスの予想通りだった。
予想外だったのはブルグント騎士団が全力でルート227を進撃してきたことだった。
が、それについての対応は滞りなくなされていた。
『第3中隊及び第4中隊は両サイドの通りから敵の横っ腹を突いてやれ!!』
『『はっ!!』』
初めての実戦、しかし初めてらしからぬ適応力でアルジス達は射撃のときを今か今かと待っていた。
やがて―――――
『防御隔壁貫徹術式弾、撃てぇぇぇッ』
裂帛の気合いと共に放たれるは無数の防御隔壁貫徹術式弾。
魔力消費度外視のそれは狙い
『クッソ、防御隔壁貫徹術式弾だとぉっ!?』
予想外の手痛い攻撃にブルグント魔導騎兵隊の兵たちは失策を悟ったがもはやはあとの祭りだった。
『勢いはまだ我にあり、怯むなぁッ!!』
さりとて己の失策を認めることによる士気の低下及び戦意喪失をヴァーレンローデは恐れた。
ゆえに叱咤激励、怯える心に鞭打ち突撃を継続した。
『怯まないとは……流石に帝国魔導騎兵は精強らしいな』
アルジスは面白くなさそうに鼻を鳴らすと引鉄を引く手を止めた。
既に第一及び第二中隊での敵の撃破数は二桁台となっており、リスクの回避を優先することにしたのだった。
『第一、第二中隊は後退を開始しろ!!』
もはや敵との距離は百を切っており、接触まではあと僅かだった。
だがここで事前に打っておいた布石が功を奏した。
『第三中隊、所定の位置まで進出完了!!』
『第四中隊も同じく!!直ちに攻撃に移る!!』
ルート227の横合いに展開させていた両中隊が攻撃を開始したのだった。
『チィッ……!!挟まれたかッ!!全員、急速離脱だ!!』
他方面から挟撃される形となったブルグント魔導騎兵大隊は即座に撤退を決断した。
『やはり愚鈍では無いか……』
アルジスは思ったほど自身の策がハマらなかったためにつまらなそうに吐き捨てたが、次の瞬間には表情を切り替えていた。
『反転追撃だ!!適度に痛めつけてやれ!!』
踵を返して逃散していく敵の背中へと銃口を向け、今度はこちらから敵を追い立てていく。
擲弾を避けながら帝国軍魔導騎兵の数騎を撃破して、敵の損耗は四割を超えたところでアルスは追撃命令を撤回するに至った。
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