EP.5
「おら! 掛かって来いよ節足動物どもが! 収穫祭じゃあっ!」
叫び声に反応したアリが一斉に飛び掛かる。
「
現れた剣を地面に突き立てる。
剣の柄を足場に跳躍。
ほんの一瞬、遅れてアリが殺到。
黒いアリ団子が出来る。
キモい。
「宣言:関数 早業 大戦槌」
振り上げた両手に出現したのは、
「デカい鉄の塊に棒を生やしました」
といった風情のハンマだ。
重りの部分だけで既に俺よりも大きい。
もちろん、こんな重量物を扱う筋力は無い。
しかし、後は重力が仕事をしてくれる。
武器による一撃、というよりか「落石」という表現が正確。
最早、災害。
アリ団子目掛けて、墜ちる。
新聞紙を丸めて握り潰す感覚に近い。
この大槌にかかればアリの装甲もその程度。
アリ塊から茶色い汁が噴き出す、が、一息吐く時間も無い。
その屍を乗り越えて、次から次から新規のアリが殺到する。
「しっかし数が多い……」
それだけ儲けも多いが、殺されたら元も子も無い。
「勿体ないけど、
後ろ向きに跳躍。
「――早業 愚者の剣」
瞬間、この手に出巨大な剣が出現する。
それを手放す。
直後、再び剣が出現。
それも手放す。
繰り返すこと5回。
折り重なる巨大な剣が即席の柵になる。
殺到したアリたちが柵に詰まる。
押し寄せるアリの流れが緩んだ。
これで戦える。
潰したアリから飛び散る体液に萎えそうになる気持ち。
しかし、妹を思い浮かべて鼓舞。
「兄さん、頑張るからな」
こうして独り、地下で巨大な節足動物を潰し続ける。
◆
「うーん。段々、コツを掴んできたぞ。基本は潰すに限るな。虫だし」
斬撃や刺突は利きにくい。
甲殻の滑らかな曲線が刃を滑らせる。
だから、ひたすら叩き潰す。
とは言え、巨大なハンマを振り回す筋力も体力も、俺には無い。
そこで関数:早業の出番だ。
まずは短剣を構える。
そのまま、アリ目掛けて振り落とす。
最も速度の乗ったタイミングで
「宣言:関数 早業」
関数を宣言。
瞬間、短剣が巨大な槌に変わる。
そして、その速度は元々の短剣と同じ。
筋力は要らない。
ただ、勢いのまま昆虫に叩き込めば良い。
ハンマで叩き潰しては、短剣に持ち変える。
そして、再び叩き潰す。
その繰り返し。
二時間も経過する頃には、戦闘は「作業」になっていた。
時折コンソールを開く余裕すら有る。
「しかし、妙だな……」
ログによれば、
[>>> lake ant defeated. 38.8(JPY) aquired]
とある。
「
ということだ。
つまり、俺が現在進行形で叩き潰しているMOBは湖蟻と言うらしい。
「
Lakeという英単語に湖以外の意味が有ったか。帰ったら調べてみ
「――っぶねえ!」
いつの間にか、足元にアリがいた。
紙一重、身体を捻って
空を噛むアリの大顎。
その胴体を蹴り飛ばし、距離が開く。
槌の間合い。
「宣言:関数 早業」
ハンマーが出現。
粉砕。
「危なかった」
ログを確認する。
1分あたり2匹を上回るペースで駆除し続けている。
「5000円」
悪くない。
しかし、この金額は売上だ。
そのまま利益にはならない。
関数とは世界を書き換えること。
つまり、計算をすること。
計算には金が必要だ。
だから、アリを倒すのに使用した関数の分、俺は金を消費している。
しかし、それでも時給換算で千円は超えるか。
「兄さん! すごいのです!」
と喜ぶ妹の顔が浮かんだ。
単純作業も続ければボロが出る。
ここらが潮時だろう。
集中が切れる前に帰ろうか。
そんなことを思った時だ。
「まあ、そう上手くもいかねえんだろうな」
群がっていたアリたちが一斉に引く。
代わりに一匹のアリが群れの中から歩み出る。
巨大アリの中にあって、一段と大きい。
普通の個体の二倍は有るか。
異様に肥大化した顎。
牙はもぎ取ればそのまま包丁に使えそうなサイズ。
黒く艶めかしく光る。
「お前さんは兵隊アリってことか?」
確かに風格が有る。
戦士の風格。
アリのくせに。
「なるほどな」
複雑な敵ほど多くの計算量を持つ。
だから、敵が複雑であればあるほど、倒した時の報酬(現金)も多くなる。
ざっくりと言えば、
「強い敵ほど、倒せば沢山の金が手に入る」
と言うことだ。
この点が非常に重要だ。
働きアリ一匹でモヤシ一袋(※注 特売ではない)。
ならばコイツは。
「お前さん、卵1パックくらいは有るんだろうな!?」
洞窟の暗闇。
それを塗りつぶす別の黒。
ひしめく巨大なアリの群れ
押し寄せる黒い波だ。
ぶっ殺してやるぜ。
—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
総資産:97,224(日本円)
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