第8話 相談部 活動の場合
古川から調子に乗るなと何故だか敵視されたその日の放課後、結局的に「ずるい!!!私も行きたい!!!」と駄々をこねた夏宮も放課後一緒に連れ。そしてこれまた何故か、機嫌の悪くなった冬篠を一生懸命にご機嫌を取り、和菓子屋や最近出来たと噂のカフェやスイーツ巡りを行い財布を空っぽにし涙した日からはや2日後がたっていた。
そうして迎えた今日の放課後。
そうこの日はようやく先送りにしていた待ちに待った相談部の活動再開の日である。
「茂さんすいませんでした・・・。相談を受けたのにこんなに遅くなってしまって・・・」
「ふぉふぉふぉ・・・。ええよええよ!陸君にはいつも世話になっとるし、それに数日前に何やら怪我したのだろう??そりゃあ仕方ないさあ!!」
そう言って俺の肩をバンバン!!と案外力強く叩くのこの男性は長年この学校で事務関係は勿論の事、果ては花壇の手入れや校舎、グラウンドの整備を担うスーパーおじいちゃん
「にしても陸君や・・・、ようやく部員が入ったようじゃのお」
そう言って茂さんの視線が向いた先を見るとそこには体操着に身を包み込んだ夏宮が、なにこれ??と言った様子でこれから花壇に植えるであろう花の苗をつんつんと突く姿があった。
「いやはやめんこいのお・・・。ああいう女の子が入ってくれるだけで部活動でも楽しくなるじゃろ??」
「ははは。まあそうですね・・・、1人の時とはやっぱり違いますよ?」
まあ労働的な意味でだけど。
何なら彼女の幼馴染に買われるはずのない恨みみたいなのを、買われてしまったけれど。
ふぉふぉふぉっと何処か愉快そうに笑う茂さん。
その声に気が付いたのか何処か気恥しげに、前髪をスッスと直した夏宮はごほんとひとつ咳払いを行った。
「この度相談部に入部しました!夏宮 瑠奈です!今日はよろしくお願いします!!」
ビシッ!と夏宮は何処かの警察官の如く敬礼を行う。これなら1日警察署長も夢では無いだろう。
「元気があってええのお・・・。瑠奈ちゃんだね覚えたぞい。もしかして陸君のこれかい??」
そう言って小指を立てる茂さんは何ともいい笑顔だろうか・・・。
はははこの人何をやっとんじゃ。
こういうお年を召した方って男女でいると直ぐにそういう関係に結びたがるよなあ。
「ふえ?小指・・・?や、約束事か何かですか!?」
何やら分かってないように小指と人差し指、果ては親指もあげる夏宮さん。
待てそれは海外ではアイラブユーを意味してるんだぞ!!
やるならもう片方の手で、親指をあげながら相手を指差し、とあるポーズを取って欲しい。
何なら「月に成り代わってお仕置ししちゃう!!」、と言えばなおよし・・・!!
「なんと!?陸くんや!!この小指の意味を最近の若者は分からなんのか??」
「俺は分かりますけど・・・。まあやっぱり人によるとは思います。でも最近の高校生でそんな事やる生徒は恐らく1人もいないんじゃないですか?」
小指を立て、これで会社を辞めたというCMフレーズがあったらしいが・・・、それももう約30年前の1985年の時らしい。新語・流行語大賞にもの選ばれたそうだが、時代が時代であり知っている若者は中々いないのでは無いだろうか??
まあ知らんけど・・・。
「へえ??因みにどんな意味があるのかな??」
夏宮は俺達の会話を聞き、興味を持ったのかキラキラとした目で聞いてくる。
そしてニヤリという効果音が出るように、何処か意地の悪いイタズラ心のような笑みを浮かべた茂さんはちょいちょいと夏宮を手招きして、何やらこしょこしょと彼女へ耳打ちをする。
「ふえ!?お、お似合いだなんて!!そのえっとふ、夫婦っていうのは段階を飛ばしすぎでしてわ、私と新山くんはまだそういう関係には至っていないというかぁ!!ていうかそんな意味があったの!?!?」
ここでも分かるくらいに顔を赤くする夏宮の反応を何やらニタニタした顔で見る茂さん・・・。
そして今度はこちらを見ながら夏宮は茂さんにごにょごにょと耳打ちをして行く。
「そうじゃの〜。陸くんは前々からそういうのだけは鈍感だから苦労するのお。他は非の打ち所が無いくらいにはすごいんじゃがなあ・・・」
「そうなんです!!私が何をやっても流されちゃうし!!」
「まあこれから頑張っていきんしゃい!!大丈夫瑠奈ちゃんは可愛いからのお。翼ちゃんに負けない様にわし応援するぞ」
「はい・・・!!茂おじいちゃんありがとうございます!!て・・・!会長の事まで知ってたんですか!?」
「ふぉふぉふぉっ」
2人が仲良くなったのはとても喜ばしい事だが・・・、なんだろうすごい馬鹿にされているような感じがするから素直に喜べない・・・!!
「よっしゃ!!話はここまでにしてそれじゃあそろそろ始めるとするかの!ほんじゃまず瑠奈ちゃんはこれとこれじゃな!」
「えっと・・・。軍手とスコップですね!でも新山くんの分は??」
そう言って、夏宮が茂さんに手渡されたのはどこにでも売っていそうな白軍手とこれまた百均で売っていそうな小さなスコップ。その1組の白軍手を装着しながら夏宮はそう問いかける。
ん?俺の事呼んだか?
「ああ俺?俺は自分専用のもう持ってるから」
そう言って俺は農芸用他多種多様な場面で使用できる黒手袋をパチンと手にはめ、自分専用の折りたたみ式のステンレス製スコップを手に取った。
さあ準備は整った!いざゆかん、戦場へ!
だがそうして始めようとした矢先、グッと肩を掴まれ阻まれる。
「ああああ!!なんか新山くんだけずるい!!私なんて昔ながらの白軍手装備なのに!!しかも何そのスコップ可愛い!!!こんなに装備が違うのはなんか不公平だよ!!」
俺の装備を指さしながら、何か難癖をつけてくる夏宮さん。
うん?俺達はいつの間にかファンタジー世界の中にでも放り込まれたのかな?
「だってしょうがないだろう?夏宮さん今回初めてだから無難の方が良いと思ったし、それに準備してくれた茂さんの好意を無下にする気ですかい?」
そう夏宮の今身につけてる農芸用道具は全て茂さんが用意したものだ・・・。
そんな好意を無駄にすることなどあってはならないだろう。
まあ俺は受け取ったとしても速攻で返して自分の使い慣れたモノを使うけど。
いやだってねえ・・・。白軍手ゴワゴワして作業やりずらいんだもん。
俺は生まれてこの方はめるのはピタッリピチピチとしたやつ出なければ満足出来ないのだ!!
・・・・。変な意味じゃないからね??
「そ、そうだけどさあ・・・」
と俗に言うあひる口で少し不貞腐れる夏宮さん・・・。
「ええんじゃよ・・・。ええんじゃ、そうじゃなあやはり白軍手はもう古いかあ・・・。ふふふ時代は変わるもんじゃなあ」
と言いながら茂さんも多分ワー○マンで買ったであろう俺のやつよりも高そうな農作業用の布?皮?の黒手袋をスチャと装備する。
・・・・・。
「ぬおおおおお!!!!!やってられるかああ!!」
その様子をまじかで見た夏宮は大きく目を見開くと、白軍手を地面に叩きつけた!!
「なんで茂おじいちゃんもそんな良さそうなの使ってるのさ!!流れ的にそこは白軍手でしょ!!それにやるのはあくまで花植えだよね!?何で2人ともそんな本格的なの!?!?」
「瑠奈ちゃんや・・・。白軍手は確かに便利じゃがな・・・。この黒手袋を知ってしまった今ゴワゴワの白軍手を使う気にはなれんよ!!それに形から入るのはとても大切じゃぞ??」
やっぱり嫌なのか白軍手・・・。
俺は思わず共感して何度も頷くと、夏宮はううっと少し涙を目に貯め始める。
「皆して私をいじめて何が楽しいのさ・・・!!もう知らない!!私だって自分専用のが欲しよぉ・・・」
まるでグズる子供のように体育座りで、叩きつけた白軍手を夏宮はスコップで突き始める。
「うむ。少し弄りすぎてしまったの・・・」
「やり過ぎですよ茂さん」
「いやどちらかと言えば陸くんから始めたんじゃろ?」
「まあそうなんですけどね・・・」
いかせん夏宮は弄りがいがあるからんなあ・・・。
俺はそっと近付くと彼女の肩に少し触れる。
「ごめんよ夏宮さん・・・。機嫌を直してくれないかい?」
「つーん」
しかし彼女はそっぽを向いてしまい許してくれそうにない・・・。
「夏宮さんお願い・・・・」
先程よりも少し真剣に頼むと彼女は少しちらっとこちらを見た。
もうひと押しかな・・・。
「実はちゃんと夏宮さん専用の手袋とシャベル用意してるんだよね・・・」
予め用意していた農業女子の声で作ったという腕カバーもある手袋、そして俺と同じ種類のスコップを彼女にそっと見せる。
「この腕カバー付きの手袋とか、夏宮さん肌とか綺麗だしあんまり日焼けとかもしたくないと思って用意したんだよね。あとシャベルは俺とお揃いだよ?」
少しこちらを見る夏宮さんに、俺は少し頬を染め口元に笑みを浮かべた。
するとその顔を見た途端、彼女はすぐに顔を埋めてしまう。
「うう・・・。そんな顔されたら許すしかないじゃん!!!」
しかしそのくぐもった声は俺に届くことは無く・・・。
ガバッと顔をあげた彼女は、俺の手元からその手袋とスコップをひったくるとスチャッとそのまま身に付けた。
「あ、あるんだったら先に出してよ!!もう拗ねてたのが馬鹿みたいじゃん!!」
「いやーごめんね。夏宮さん弄りがいがあって困っちゃうよね!」
「そんな褒め言葉か分からないような言葉全然嬉しくないよ!!」
そう言ってプリプリと怒る彼女だったが・・・、
「でも・・・、ありがとう!!大切にするね!!」
そう言って笑う彼女は眩しく、まるで向日葵の様に・・・、不覚にも少し見惚れてときめいてしまった。
そしてそのやり取りを見ていた茂さんは、懐かしいモノを見たように目を細める。
「ふぉっふぉっ。わしにもあんな時代があったのお・・・。まあそれはさておき仲直りも済んだことでお二人さん早速花植を始めるとするか!」
「「はーい!!」」
その声で現実に戻った俺とふふふ!とスコップを見て、何やら嬉しそうに笑う夏宮は揃って返事を行い。
茂さんはその返事に嬉しそうに笑うとひとつ頷いた。
「ほいじゃあ陸くんはある程度のやり方は分かっておるだろうから・・・、ワシは瑠奈ちゃんに教えよう。ある程度の花の配置は決めておるから、陸くん順番に植えてっておくれ」
「了解です。んじゃ夏宮さん俺は先にやってるから頑張ってね!」
「う、うん!」
そうして俺は慣れた手つきで花植を開始し始めのだった。
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