第7話 負けヒロイン 冬篠 翼の場合Part2
「え、えっと・・・。あ、あの冬篠さんですよね・・・?お、俺の事覚えてませんか?数年前に冬篠さんの家で開かれたパーティに出席して貴女のパートナーを任されたんですけど・・・」
そう言って目の前の灰色の髪を目元まで伸ばした少年は、何処か気恥しそうな様子で冬篠へとそう話しかける。
その様子を唖然とした表情で見ていたのは、俺こと新山 陸。そして彼の幼馴染であり、つい先日に負けヒロインに昇格?降格?した美少女 夏宮 瑠奈 である。
その表情はあまりの予想外の出来事に、思考が絶賛停止中となっていた。
「いやなんでこうなった」
思わず呟いたその言葉を聞きようやく脳の活動が再開した夏宮は、俺に掴みかからんとする程に詰め寄って件の2人をチラッチラッと見ながら相当テンパっていた。
「本当になんでこんな展開になってるの!?はあ!?2人って幼馴染だったの!?!!」
そうそれはつい10分前の事に遡る。
誤って頭を撫でたら顔を赤くし怒って先を行ってしまった冬篠を追いかけて、ようやく許して貰った頃には学校へ着いたのだが・・・、その校門には2人の先客者がいた。
「む?りくあれはまさか夏宮じゃないか?」
そう言って指を指す方を見ると・・・、うむ確かにあの可愛い美少女は夏宮さんのものだ・・・。
そしてその隣にいるのはまさか・・・!!
まずい、非常にまずい状況になってしまったぞおお!!!
その隣にいたのは眠いのかはたまた不貞腐れているのか分からないが、顔を歪めている 古川 界人 の姿で間違いないだろう・・・!!
あの状況を見る限りでは俺への謝罪の為、いつ何時来るか分からないから朝早く校門で俺の登校を待っていた。ということなのだろう。
確かにその気持ちはとてつもなくありがたいのだが・・・・。
た、タイミングが最悪だあああ!!よりにもよって・・・、
チラッと横で不思議そうに首を傾ける冬篠を見る。
「ん?りくどうしたんだ?」
神様!!!よりにもよって冬篠さんがいるタイミングじゃなくても良かっただろうよお!!彼女がこの傷を付けた古川に何するか分からないんだぞ・・・!!!
思わず頭を抱えてこれからどうするか、どうやってこの窮地を脱することが出来るのかと必死に考えるが・・・、何を思ったか俺が痛みで頭を抱えていると勘違いしたのだろう。冬篠が慌てた様に駆け寄ってくる。
「り、りく!!!だ、大丈夫か!?まさか急に頭が痛くなったのか!?!?待っていろ!ボクが直ぐに医者を・・・」
「待つのは貴女ですよ・・・!!」
一体どこに連絡しようとしているんですかあ??あの医者は嫌だあの医者嫌だ!!あの医者だけは嫌だあああ!!!!
そして現実というのは無慈悲なもので、どうやら冬篠の声が大きかったらしくそれに気が付いた夏宮はタタタッとこちらに駆け寄ってきた。
「ま、まさか新山くん!?あ、頭にほ、ほ、包帯が!!昨日ので切ったの??どこか切ったのかな!?!?」
夏宮は急に俺の頭を両手で掴むと、傷は何処だあああ!!!と言いながら必死に探す。
夏宮氏・・・。心配してくれるのはありがたいのだが、首が・・・、首があらぬ方向へ行こうとしている!!!
そして頭へ微かにEカップ・・・!微かにEカップの感触がああ!!!!
と俺が興奮したように息を荒くすると。
「む・・・。りく??脇腹に虫がいるぞ??」
冬篠の声が聞こえたと思った瞬間。
「ふっ!!」
「はがああああ!?!?!?」
横腹に衝撃が駆け巡った!!!
あまりの痛みで脇腹を押さえ、恐らく犯人であろう、我が校の生徒会長に目を向ける。
「ちょっと翼さん??」
俺の呼びかけに彼女はまるでゴミ虫を見つめるが如く、冷えきった眼差しを向けて恐ろしく黒黒しい笑顔を浮かべた。
「ボクがいるのにも関わらず、他の女子に君が鼻の下を伸ばすのが行けないと思うのだが?」
いやいや貴女、他の生徒の前で素を隠しきれてないんよ・・・。
「え・・・?ええ??」
ほら見ろ夏宮さんが混乱したように俺と冬篠を交互に見始め・・・、って俺の事は別に見なくてもいいのではないか??
俺が不思議そうな顔を浮かべると夏宮は冬篠の方へと近づき・・・、
「あ、あの会長・・・。もしかしてもしかしなくてもその・・・、新山くんの事が好きなんですか・・・??」
「な!?!???」
小声でこちらからは何を言っているのか皆目見当もつかない訳なのだが・・・、夏宮の話を聞き、冬篠が相当に驚いていると言うことは、相当変な事を言ったのだろう・・・。
美少女の口から出る言葉で驚く物か・・・、うむ例えばそうう○ことかかな・・・??
・・・・。何だろう自分がすごく虚しく見えてきた。
「!?!?な、何故わ、分かったんだゃ!!」
周りにも響き渡る大声が冬篠から発せられる。
幸いなのはこの時間帯では殆どの生徒がまだ登校していないので、彼女があんな取り乱す姿を他の生徒に見られないことだろう・・・。
それより俺を見ながら何をあんなに慌てているのだろうか・・・?
「う、ううん!!ま、まあそうだな・・・。ずっとボクの片思いだけど。そ、その夏宮もそうなのか??」
「あ、あの私は、失恋していた所をその、慰めてくれたと言いますか・・・。その時にすごい魅力を感じてしまったというか・・・」
先程から2人が何故かこちらを滅茶苦茶チラ見しているのをよそに、痺れを切らしたのか古川がこちらの方へズカズカと歩き出して来るではないか!!
来ちゃう??本当にこっち来ちゃうの??
「瑠奈・・・!さっきから誰とそんなに話してるんだ??さっさと謝罪して俺は早く教室に戻って本が読みたいんだが??」
うっはああ・・・!!素直!!そしてなんと自分の欲に忠実何だろう・・・!!いっそ清々しいぞ!?
話に聞いていた古川のイメージ像が、音を立てながら崩れて行く中、
「えっと古川くん?何でそんなに偉そうなのかな!?君があんなに強く引っ張ったから新山くんが頭に怪我しているのが見えてないの??」
夏宮もその古川の態度に少し戸惑いを覚えていたらしいのだが・・・。
ああ・・・。もうしーらね。遂に言っちゃいましたぜこの人・・・。
「ほほう・・・?すると何か??君がりくに怪我をさせ、それをあまつさえ反省もせず、本が読みたいから早く謝罪させろ?とそう言っているわけだ・・・?いささかそれは人間としてどうなんだ??」
夏宮のその言葉を聞き、冬篠はギラッギラに目を見開き、睨み付けるように古川へ威圧を送り始めた。
「えっ・・・、あ、あのえっと・・・」
その余りの威圧と正論にやってしまったっといった面持ちの古川。
まあそりゃあそうさなあ・・・。
勘違いで起こった事件とはいえ俺はこんな怪我してる訳だし・・・、それなのにさっさと謝罪して本読みたいとか言っちゃうんだもの、俺がもしそいつの友達だったならば恐らく速攻で縁を切るぐらいのレベルだ。
「貴様名を何という??その腐った精神を叩き直してあげよう・・・」
ふつふつと怒りが湧いてくるのか先程から腕を組み、古川の方を絶対零度の視線で威圧している冬篠をアワワッ!とハラハラした様子で見つめる夏宮。
「ふ、冬篠会長・・・。そ、その辺で許してやってください・・・」
威圧に当てられてか、それともコミュ障が発動したのか、古川の顔が真っ青と青ざめて行き、胸の辺りをキュッと握り始めた。
その様子を見た夏宮は流石に可哀想になったのか、そう冬篠に声を掛けるが聞こえていないのかはたまたはなから聞く気がないのか更に視線を強める。
「翼さん流石にやりすぎですよ!てい!」
その行き過ぎた威圧に流石の俺も泣きそうになった古川が可哀想になってきたので・・・。冬篠にチョップをかました。
「にょ!?!?!?」
なんか可愛い声が出た。
「り、りく!!急に何をするんだ!!ボクがいまこの男に分からせようとしている時に!!」
「可愛い声でしたね」
「か、かわいい!?!?い、一体何の話をしてるんだ!!!」
「ええ・・・。私の言葉には反応もしなかったのにい??」
「翼??冬篠??まさか・・・、いや」
肩をガックリと下げて信じられないような物を見た夏宮に対し、うん?なんか古川のやつが先程からブツブツと呟き始めたのだが?
「古川くん?会長は3年生で名前は冬篠 翼さんだよ??」
古川の呟きを聞き取ったのか何故か会長のフルネームを答えた夏宮に、その答えを聞いて 確信した!!! と言ったように先程の青ざめた顔から一転して、何処か気恥しそうに頬を少し染めた様子で冬篠へ近づく。
「え、えっと・・・。あ、あの冬篠さんですよね・・・?お、俺の事覚えてませんか?数年前に冬篠さんの家で開かれたパーティに出席して貴女のパートナーを任されたんですけど・・・」
そして時は初めの場面に戻るのである。
確かに数年前・・・。
と言うか俺がまだ小学生6年生の時に冬篠家主催の名家の交流パーティーが会ったはずだが・・・、まじか・・・!!古川ってその時からいたのかよ!!
「え!?どういうこと!?に、新山くん!!な、何か知ってるの??何か知ってるのかな!?!?」
「ああ、多分・・・。因みに聞くけど古川って良い家柄の出身だったりする?」
一瞬キョトンとした顔を浮かべた夏宮はうーんと頭に指を当て思い出すようにムムと唸なる。
「あ、思い出した!!確か古川くんのおじいちゃんが結構有名な所の出身だって聞いたことがあるよ!苗字は確か
「ああ・・・、それでか!てか俺のばあちゃんと同じ古代豪族の家系だったのか・・・」
「古代豪族・・・・??」
「今は説明している時間がないから後でグー○ル先生にでも教えて貰いなさい!!」
因みに俺のばあちゃんの家系は
話を戻すが、そのパーティーには当然俺たちと同じ位の年齢の子供達も集められた訳で・・・、俺と冬篠との出会いもそこで行われたわけなのだがそれはおいおい話すとしよう。
恐らくその中に古川が居たのだろうが、なんせ小学生6年の時だろう??
冬篠のように明らかに高嶺の花のような少女達ならばそれもわかるが・・・。普通の子供では皆が皆同じような顔をしていることしか覚えてねえ・・・!!
「うむ・・・?私のパートナー・・・?」
思い出すように首を傾げるが全く思い出せないのか、冬篠は俺へ少し困ったような視線を向けてくる。
いや俺にそんな視線を向けれても困るて・・・。
一応記憶を辿ってみよう・・・。
確かにあの時は冬篠の傍に誰かがいたような・・・。
いや・・・、確かにいたわ!!
あの時確か灰色の髪・・・!なんか珍しくね!?すっげなんかアクセ○レータみたい!!とか思って見てた記憶があるもの・・・!!
俺が冬篠に向け、いたわまじいたわと親指をあげ、何度もコクコクと頷くと冬篠はそうなのか・・・?と首を傾げる。
そしてじわじわと近付いてきた古川に少し恐怖を抱いたのか後退りして俺の傍に陣取った・・・。
何故ここに来るの!?!?
「すまないが。生憎あの時の記憶はここにいるりく・・・、新山 陸との出会いで埋めつくしてしまっている・・・!!!
君のような者は残念ながら思い出す事はできない!!」
ふすん!!と自信満々に、そんな事を恥ずかしげも無く言ってのける我が幼馴染。
「そんな事よりもだ。私に覚えている覚えていないと言う話をするよりも先ず、昨日君が怪我をさせた新山 陸に詫びを入れるのが先だと思うが??」
そう言ってまたも目が細くしているのをていっとチョップして防ぐ。
「・・・・・!!!!そ・・うですね。」
冬篠の君なんて知らん発言が余程応えたのか・・・、はたまた怒られた事か又はその両方か・・・。
哀愁漂うような雰囲気を醸し出す古川くん・・・。
どんまい・・・。後で彼女さんにでも慰めて貰いな。
「そ、その昨日はすまん・・・。ついあんたが瑠奈にキスをしようとしてるって勘違いしちまったんだ・・・。早とちりしてすまなかった・・・」
「いや・・・。俺だってあの状況だったら古川と同じ事をしたかもしれない。だからさ俺の頭の傷は気にせず、ここはこれで手打ちとしようじゃんか」
そう頭を下げる古川に俺は笑顔で右手を差し出す。
「ああ・・・」
そう言って古川は握り返してきたが・・・。
その直後グイッと俺の方へと体を近づけてきて・・・。
「てめえ調子のんなよ・・・!!」
ボソッと俺の耳にそんな言葉を吐き出したのだ。
「これでいいだろう??瑠奈、冬篠さん」
俺からパッと離れた状態で2人にそう笑顔を向けて聞く古川。
「そ、そうだねこれで一安心かな!!」
「まあ謝罪は受け取るとするよ。さありく行こうか?」
そう言って古川、夏宮、冬篠と校舎へ歩を進める中、未だあの言葉に唖然とし・・・、俺はその場から動けないでいた。
「りく??どうしたんだ?」
「新山くん?早く教室へ行こ??」
立ち止まったままの俺に不思議そうにそう声を掛ける2人とは真逆に。見えぬ位置をいい事に何故か敵意を剥き出しにこちらを睨みつける古川・・・。
前途多難とはまさにこの事か・・・。こんな事だったらあのまま会長に睨ませるんだったかな・・・。
俺はこれから起こるであろう見えぬ未来に不安を募らせつつ・・・、これからどうしたものかと頭を悩ませながら、歩き出したのだった。
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