第6話 負けヒロイン 冬篠 翼の場合

「まさか縫う事になろうとは・・・」



昨日の騒動から一夜明け早朝。

念の為に額に包帯を巻かれた俺はそっと無意識に、傷が出来た額に手を置いた。


保健室に運ばれたと同時に急に出血したおかげか、あれよあれよと言う間に緊急で総合病院へと運ばれた。


医師による判断でいい笑顔で軽く「縫っちゃいましょう」と言われた際は猛烈に恐怖を感じ、


「いやだ!!!嫌だ嫌だ嫌だああああああああぁぁぁ!!!!!」


と抵抗したのだが、それも虚しく麻酔を打った状態で縫うこととなった・・・。



あの医者ぜってえやべえよ・・・。

針を通す度にビクッと身体が反応するのだが、なんか面白そうに滅茶苦茶クスクスクスクスって笑ってるんだもの・・・。



もう二度とあんな病院行ってなるものか・・・!!!と確固たる決意を胸に刻んだ俺は疲れた様に大きく溜息を吐くと気を取り直して今日のお弁当作りに取り掛かる。


何時もなら昨日の夜の内に今日の弁当を作るのだが・・・、結局昨日は帰りが遅くなってしまったため、久しぶりに何某ら牛丼屋チェーンへと外食したのだ。


ちなみに俺は牛丼の始祖の吉○家派だが皆はどうだろうか・・・?


まあそんなこともあり、何時もよりかなり早く起きて朝食とお弁当の用意をしている訳なのだが・・・。


ここで皆は先程から疑問に思っていることがあるのでは無いだろうか?



そう俺に親はいないのか・・・?と。



よくある物語の様に俺の親は交通事故で亡くなった・・・。という訳ではなく。


悲しかな俺の両親は妹も連れて、ただ今絶賛長期の海外出張中なのだ。


期間は3年で確かオーストラリアに行くのだとか・・・。


当初は俺も着いていくような話も出たのだが、俺も高校生になるし自立心も植え付けるため!という理由から一人暮らしが決定し、アパートの一室が今の家となったのである。


本当ならば一緒に行きたかったし何ならコアラを抱っこしてみたかった・・・。



まあ最初の頃は俺ぁはラブコメ漫画の主人公だったのか・・・!!!とテンションが上がったが、家に招き入れる人間などそんなにいなかったし、何なら母がやっていた家事を自分ですると言うのは一人暮らしとはいえ、小さなこの室内であっても色々と気疲れする事が多々あったため、それ以降は現実逃避のために友達の家には何度か言ったのは今では懐かしい思い出である。



まあ人は適応する生き物なので、面倒な家事は1年以上過ぎてしまえば、もう慣れてしまう。何だったら趣味が料理になったしそれはそれで良かったのかもしれない。



「ほっ」



完成しただし巻き玉子を皿へと移し冷ましてる間に、多めにたこさんウィンナーを焼き上げる。



「金平ごぼうは作って・・・。あとはほうれん草とブロッコリーかな」


どうせなら鶏胸肉入れよ・・・、とさっさと金平ごぼうが完成。


「朝はお味噌汁欠かせないよね〜」


電気ケトルでお湯を沸かせて、手作りの味噌玉をお椀に乗せお湯を注ぐとテーブルに今日の朝ごはんを並べてゆく。



部屋中に味噌汁のいい匂いが立ち上る中、後は弁当の盛り付けと朝食を取るだけだなとなった状況で。



ピンポーン♪



部屋内にインターフォンが高らかに鳴った。



「は?今何時よ?」



思わず時計を確認すると今は6時15分・・・。



いやいやめっちゃ早いな?誰がこんな時間に??


と箸を置いた俺はエプロン姿のままにドアを開けた。



「どちらさまー?」

「やあ、おはようりく。久しぶりだな昨日病院へと運ばれたと聞いていたのだが・・・。大丈夫か?」



鼻へほのかにアンバーの香りが漂う。

まるでモデルをやるために生まれてきた様に、美しくスラリとした綺麗な手足が夏用の制服から覗き込み、黄金比の取れた体型と出るとこは出ているという女性が羨む様な身体。

しかも腰あたりまで伸びた白銀の髪でさえ、見たものを魅了してしまうよう・・・。

顔に関して言えば言わずもがなであるだろう。


朝日に照らされて映るその人物は、正に麗人という言葉がよく似合っていた。


一つ一つの所作でさえまるで貴族であるかのように錯覚してしまう程の美しさを持つ彼女こそが、我が俊成高校のきっての秀才にしてスポーツ万能、絶対的な生徒会長にして、俺にとっては幼馴染と言っても過言では無い美女。


『七姫』の1人にして【薔薇姫】の2つ名を持つ彼女3年の 冬篠ふゆしのつばさは、俺の顔を見るなり途端に人々を魅了してやまない笑顔を咲かせた。


「げ・・・。会長か」



しかし俺の口から勝手に出てしまった言葉によって、彼女は一瞬ピキッと青筋を浮かべたかと思うとニコニコと笑いながら耳を引っ張って来る!!!



「りくぅ?貴様はボク自ら君の様子を見に来たにも関わらずそんな言葉を吐くのか?ん!?」

「取れちゃう!!耳取れちゃうから!ゆ、許し下さい会長!!」

「会長!?!?そんな他人行儀に幼馴染の名前を呼ぶよう育てた覚えはない!!そして朝から大声を出すな!!近所迷惑だろ!!」



あんたにだけは言われたくねえぇぇぇぇ・・・!!!!


「つ、翼さんすいませんでした・・・!!だから早く離してぇえ!!」

「まあいい・・・。君に免じて許してあげよう。それより早く部屋に入れてくれないか?今日は君の料理を食べたいがためにロバートには朝食を準備させなかったんだ」

「いや俺1人分しか作って・・・「失礼する」、いくら幼馴染でも礼儀があるだろ!!」



痛む頭を抑えて俺は思わず溜息を吐き出した。

この人、冬篠 翼は俗に言う財閥令嬢で海外の方でも冬篠の名はかなり知られているそうで、父親の資産は世界のお金持ちベスト30に入るほどらしい。



そんな彼女の家の朝食を俺も1度食べに行った事があるのだが・・・、まず形式がバイキングでその一つ一つの料理がはっきり言って上手すぎて正直飛んだ。


そんな一流シェフ達が朝早く起きて作るであろう美味しく健康にも気を使った料理を断り、俺の朝食を食べに来るなどはっきり言って切腹モノだし万死に思うのだが・・・?本当にこの人の考えていることは昔から理解が出来ないなあ。



「ふふふ!流石はりくだな!ボクの好きなだし巻き玉子と金平があるじゃないか・・・!」


普通に何の抵抗も無く、そのまま俺の席へと座った冬篠は目を輝かせながら並べられた料理を見る。



「いや翼さん?そこ俺の席ですししかもそれは俺の朝食!!」

「うん??りくは面白い事を言うじゃないか。ここはいつもボクの席だっただろう?そこに朝食が並んでいると言う事はこれはボクの朝食だろうに・・・」


えええ・・・!横暴すぎる!!てかそんな可哀想な目で見て来ないで!!明らかにあなたの方が間違ってるからな!!



「それよりも君の分の朝食を早く持ってこないか、早く一緒に食べよう!」


そんな心の反抗も虚しく、キラキラとした顔を向けて既に朝食を堪能し始める冬篠さんを尻目に、取り敢えずご飯と味噌汁を用意した俺は仕方ないと冷蔵庫からタッパーを取りだした。



「うう・・・。一昨日お隣の菊さんから貰った肉じゃが・・・!!本当は今日の夜に食べようと思ったがしょうがないか・・・」



そうして冬篠の前に俺の朝食を並べて、いざ食べようとした時に向かい側から箸が伸びてきたではないか・・・!!!



「なあっ!!翼さんこれは正真正銘俺の朝食なんですからそっちを食べてくださいよ!」

「むう。りくは目の前に絶対に美味しそうな料理があった場合、絶対に食べないという自信があるか?」

「そ、それはないけど!これだけはダメです!!」

「ふむふむ。そうだろう!そうだろう!!つまりはそういうことだ!」


美しい所作のまま目にも止まらぬスピードで俺の目の前の皿からジャガイモと肉とサヤエンドウを奪われる。


「うむうむうむ・・・!食べる度染みでる完璧なバランスの出しにジャガイモのこの程よく残る食感。実に素晴らしい。ありがとうりく・・・!」



太陽すら青ざめる様な輝かんばかしの笑顔を向けられ、一瞬心がキュンとなった俺は少し恥ずかしくなり、それを隠そうと無言で味噌汁を啜り朝のニュースへと視線を移した・・・。


『続いてのニュースです・・・。今月末世界で活躍する17歳の歌姫。アイリス・エストレータが・・・・』


この人は中学の時からいつもそうだ・・・。

周りに人がいる時は正に完璧の言葉が似合いすぎるほど完璧で、男女問わず学年に年齢関係なく全ての人間が憧れる存在と言っても過言ではないのに・・・。


俺と2人きりになった途端に完璧とはかけ離れた所謂残念になってしまう。


しかし冬篠家に使える執事のロバートさんによればこっちが素と言うのだから、どれだけこの人は俺に心を許しているのだろうか。



「ふう・・・。素晴らしい朝食だった。だし巻き玉子、金平、味噌汁にご飯、肉じゃが、どれも私の口に合いすぎて毎日作ってくれと言いたいところだな!」



口元をナプキンで拭きながら、頬を染めながらこんなセリフを言ってしまう彼女。

知らない人間からしたら、何処か告白の様にも聞こえるだろうが、素を知っている俺にとっては文字通りそんな関係になってくれという意味でなく、マジで作ってくれというのが分かってしまう・・・。


「口にあって良かったです。やはり俺と翼さんの味覚は近いんでしょう。でもダメですよ?わざわざ翼さんの家に行って作る暇俺には無いんですから」


そう言って俺はおもむろに立ち上がると彼女と自分の食器を片付けて洗い始める。



「そうだな・・・。そうだが違うんだりく・・・。私が言いたいのはもっと別なことなんだよ」



前半のそうだよは聞き取れたが、もう半分の内容が声が小さすぎて全く聞こえない。

だが何故だか冬篠の顔が少し悲しそうな顔をしているのは気のせいだろうか・・・?



「???翼さんすいませんがもう一度言って貰えませんか?」


カシャカシャと食器を洗って置き場へ置くとタオルで手を拭く。


「ふふふ・・・いや何も無いさ。それは残念だよ。それより真面目な話をするが・・・」



スっとイスから立ち上がり、音もなく俺の側へと寄ってきた冬篠は目を細めると俺の額へと手を伸ばし、そっと優しく触れた。



「君にこんな傷を付けた愚かな馬鹿の話をしたいのだが・・・。一体誰にやられたんだ?」



そこにあった感情は言うなれば怒気なのだろう・・・。

細めた目から冷気が出るような・・・、そんな錯覚をさせるほどに周りの空気がピリピリし始め、怒りを向けられていない俺ですら寒気を覚えてしまう。



ああ。この人相当怒ってるなあ・・・。

この怒りはあれだ。中学2年の時に不良から少女を守ろうとした時に俺が怪我した時と全く同じ感じがする・・・。



俺は昔から古武道を学んでいて、大人であっても引けを取らない実力を持つ自信があったのだが・・・、不良が複数いたのと相手がガタイのいい高校生と言う事、そして決め手に少女を人質に取られた俺はサンドバックの様にやられてしまった事がある。



その時はアバラは愚か内蔵も少し傷ついてしまい完治に1ヶ月以上掛かるとの診断を受けたのだが、その時の冬篠の怒りは凄まじかった・・・。


まず彼女は自身が持つ家の権限をフル活用し、その不良高校生を特定、更にはその親の会社に圧力をかけ親達を解雇、そしてそれには飽き足らず社会的にも高校生達を抹殺しようとしたのだから相当だ。



その時と同じ様なこんな状態で、傷を付けてしまった張本人 古川の名前を出そう物なら・・・、想像しただけで何か恐ろしいな。


そんな目覚めの悪いことヤラされてたまるか・・・!!それに古川の奴はただ勘違いしただけなのだから流石にそうなっては可哀想すぎる。




「会長少し落ち着いて下さい・・・。

これはまあ俺の所為・・・?でも無いですけど、誤解と勘違いが産んだ怪我なのでその生徒を責めては行けないです。それに俺は全く気にしていないので」



落ち着かせるように肩に手を置き、笑みを浮かべると段々と冬篠の冷気は引っ込む。


「りくがそういうなら仕方がない・・・。でもボクをカイチョーって呼ぶな」



少し頬を染めボソッと呟く彼女が可愛くて、思わず笑みを浮かべた俺を少し怒っったように睨む冬篠。


「むう笑うな・・・!それはそうとりく・・・。お、お前眼鏡はどうしたんだ?」


そう言って俺の顔をガン見して、そんな事を言う冬篠の顔は何故か赤い・・・。



「ああ・・・。実は眼鏡が割れてしまったんです。まあスペアはあるんですけどまた壊れたりしたら嫌なので今日からコンタクトにしようかと・・・。どこか変です?」

「い、いや変ではないんだ・・・!そ、そのかっこよすぎて直視ができない・・・!こ、これがギャップ萌え??」



また最後の方が聞き取れないのだが・・・、まあ大した内容では無いのだろう。



しかし、コンタクトっていうものは恐ろしいなあ・・・。要は目に異物を突っ込むのだろう??絶対に目へ入れるのに時間がかかると思ったから今日は4時半位に目覚めて30分くらい格闘したぞ・・・。



「ただでさえりくの場合は周りからイケメンと言われているのに、これではもっとモテてしまうでは無いか・・・!!!」



何やらまたブツブツと言っている冬篠に怪訝な目を向けながら、出発準備を整えた俺は冬篠と共に学校への登校を開始する。


が、俺は唐突に思い出したように、彼女が他の生徒へは秘密にしている・・・、とある隠し事について聞いてみることにした。



「翼さんそういえば良かったんですか?」

「ん?何がだ??」

「いや何がって・・・、1年の小海君ですよ。翼さんと付き合っている彼氏さん!こんな所見られたら絶対にややこしい事になっちゃいますよ??」



そう今までは、


彼氏と一緒に登校することになったから、君の家には行けない


と彼女に言われていたので久しぶり来た彼女に面食らったのだが・・・。



その俺の言葉に今まで見た事ないような表情を浮かべた彼女は、その目を大きく大きく見開くと少しオドオドとした態度を取り始める。


「あ、あああ・・・・。うん小海くんだろ?小海おみ 永治えいじくん!うんボクの彼氏だった彼だろ??」

「うん!?!?ちょっと待ってください?今だったておっしゃいました??」



俺がその言葉に反応して彼女を穴が空くようにジーッと見つめると少し体をモジモジして何かを思い出したかのように、目元にほんのちょぴっと涙を溜めた姿を見た瞬間俺は大きく大きく天を仰ぐ・・・。


「一応聞いときましょう・・・。彼とはどうなったんです?確か翼さんから告白したんですよね??」


冬篠は小さくこくりと頷き、ボソッと呟くように言い放った。



「えっと・・・、その彼とは別れた。と言うか振られてしまったんだ・・・」



ああ・・・・、負けヒロインよお前もか!!!!!



「すいません理解が追い付きません・・・。もう一度言って下さい。さあワンスアゲイン?」

「君が余程混乱しているのがよく分かったよ・・・。だから振られたんだ小海くんに」

「いや意味が分からん・・・。だってあの会長ですよ??俺の前だけは残念ですが他の生徒の前であれば完璧な・・・!」

「・・・。君が普段から私をどんな目で見ているのかは伝わったよ・・・」



俺の頬をぐりぐりぐりと綺麗で真っ直ぐな指で押し付けてくる冬篠さん。


その様子からは振られた事など一切気にしている素振りを見せないが、この人は昔から辛いことがあるとそれを溜め込む癖がある。昔もそれでやらかしているので彼女の心の内はどうだか分からない・・・。



「翼さん・・・、ほんとに振られたんですか?辛くないですか??もしそうなら言ってください俺が相談に乗ります。何だったら今日俺オススメの和菓子屋さんがあるので一緒に行きます??」



その言葉を聞いた途端ピタッと指のグリグリ攻撃が止み、煌めかんばかりの表情が俺の目を襲った!


目があああぁぁ!!目があああああ!!!



「そ、それは本当か??本当にボクと君だけで今日の放課後・・・。そ、そのデートへ行けるのか!?!?」

「え、ええ。男女のお出かけがデートと言う考えであればそうですね」



あまりの輝きに目をやられ、擦っているとそんな嬉しそうな声が聞こえてくる。


何がそんなに嬉しいのかよく分からないが・・・。



「ふふふ・・・!あの本に書かれていた事はホントの事だったんだな・・・!!

あの本によると''気になる相手が自分に振り向かない時は、相手を嫉妬させるべし"と書かれていた・・・。

互いに好きな人がいる同士小海くんにも了承を取って利害が一致したから丁度いい予行練習のつもりで付き合った訳だし・・・。何もわかんない状態でりくと付き合って何の経験もないボクに失望されたくなかったからな・・・。

それにしても最初はどうなる事かと思ったぞ・・・。りくにこの事を話しても良かったですねと笑顔で応援してくるだけだったんだから・・・、まあ結果オーライという奴だろう・・・!

しかし小海くんとのデートはとても楽しかった。手なんか繋いじゃったりして・・・。ドキドキしたのは間違いじゃない・・・、もし互いに好きな相手がいなければ卒業までずっと付き合ってたかもしれなかったのは間違いないだろう・・・」


何やら先程からブツブツと真剣な表情で呟く会長。


これは・・・、どうやら相当に振られた事がショックだったらしい・・・。



そりゃそうだよな・・・。


この人自分から告白したそうだから小海くんに相当気があったのだろう。

ああダメだ・・・。こうやって見ると滅茶苦茶泣くとこ我慢しているようにしか見えない・・・!!



「翼さん。相当振られたのが辛かったのですね・・・。そんな真剣な表情で泣くのを我慢して・・・!ううっ」



どうしようなんかこれデジャブだ・・・。

つい最近もこんな体験をしたようなしてないような・・・・?まあ今は彼女を慰めることが先決か。



「り、りく?何をそんなに泣いてるんだ?私は全くこれっぽっちも振られた事は気にしてないからそんなに泣くな!?」



この人はまたそんなこと言う。

俺は無言で彼女の傍によるとそのまま彼女の美しい髪を撫で付ける。


「部活が終わった後で今日は行こうと思ってましたが・・・。気が変わりました!翼さんホームルームが終わり次第向かいに行きますから待っててくださいね??」


いやこれやばいな・・・。

妹を慰めるように思わず頭を撫でてしまったが、何という手触り・・・。

癖になってしまいそうである。


「翼さん??」


しかし反応がない。

一体どうしたのだろうっと思わず彼女の顔をのぞき込むと、


「ひうっ」



と体をビクッと震えさせ顔を真っ赤にしながらモジモジと体を動かす冬篠が俺をキッと睨みつけてきた!!



「りくぅ!!!!い、いい加減にボクの頭から手を離せえええ!!!」

「あいた!!」



ベシッと頬を叩かれ俺は涙目になって叩かれた部分を擦する。



「ひ、酷いですよ翼さん!父さんにも打たれた事無いのに!!」

「う、うるさい!!さっさと学校へ行くぞ!!」



俺を尻目にズンズンズンと怒ったように歩き始めて行く冬篠さん・・・。


何処かいつもの日常が戻ってきた様な・・・、そんな何だか感慨深い気持ちへとなっていたのだが、まさかこの後にあんな事になろうとはまだ誰もこの時点では分からなかったのである。

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