第5話 負けヒロイン 夏宮 瑠奈の場合 part4

放課後。


「よっしゃぁぁぁ部活だああああ!!」


「あ!あーしカラオケ行くけどどうする?」

「おおーいいね!!ネクワンでも行っちゃう??」

「「「さんせーい!!!!」」」


「藤田氏・・・!ここはう○娘の水着ガチャのためジュエルを貯めねば後悔することになりますぞ・・・・!!!」

「賢者 田中よ・・・!俺の左目が言っているのだ引くべきタイミングは今なのだと・・・・!!!!」

「藤田氏ぃぃぃぃぃ!!!それは絶対に出ないフラグですぞぉぉ!!!」


今日も今日とて放課後でもまるで、セミが鳴き始めるまでは俺達がになっていくぜえ!!と言った如く騒がしいくらいの我がクラスの2年1組は元気が有り余っているご様子。


そんな日常の喧騒を耳にしながら、どれ俺も部室に行こうか、はたまた生徒会に少し顔を出してから行こうか・・・?と悩んでいると・・・。



「ああー!!陸、今日暇??なんなら一緒にネクワン行くべ!!」


そう誘ってくるのは、見れば明らかにクラスの上位に位置するであろう一軍女子メンバー達、その集団のまとめ役であり先程の声は腰にパーカーをまきつけた黒髪ポニーテールの小鳥山ことりやま杏豆奈あずなその人であった。


「いや俺は今日部活だから」

「ええー!いいじゃんかよお!!部活ぐらいちょっとくらい休んだってさあ!!」

「今日は事務員の先生の手伝いをしなきゃならんの!てか先週遊んだばっかだろうよ」

「えええ!!1週間前の事っしょそれー」


「おいおいおいおい小鳥山!そこまでにしてもらおうかあ!!」


野球部の練習着を見に纏い、短髪に爽やか男子と言う言葉がおそろしく似合う男子生徒が会話に割り込んできた。



「陸には今日俺のトレーニングメニューを考えて貰おうと思ってたんだ・・・!だからお前らの願いは聞くことは出来ない!!!!」

「はあ???そんなん何時でも出来るっしょ??てか翔太郎こそはよ部活に行けし!」

「いや俺普通に部活いくからな?」



そう言って小鳥山と言い争いの火種を切って行くのは2年で既にエースで4番を背負っているイケメン男子 大空おおそら 翔太郎しょうたろう




「に、新山殿!新山殿!!拙者聞きたいことがあるでござるが・・・」

「うん?田中どうしたよ?」

「こ、今回の水着ガチャ新山殿は引くのですかな??」


ぐるぐるメガネをクイッと上げ、Theオタクの様な少し小太りのこの男子は田中 まさるくん。


「た、確かに!!我らが勇者 リクはどうするんだい?」


人の事を勝手に勇者扱いし、先程ガチャで爆死し床に倒れ込んでいた彼は藤田 獅音レオンくんである。


「俺?俺はサポカの方は引くぞ??」




いつの間にか部活に行こうかとそうこうしている内に囲まれてしまったのだが・・・??



「あ、あにょ!に!にいにゃまくん!!」


目をギュッと瞑り顔を真っ赤にさせ、赤ぶちメガネを少しずらした緩いお下げが特徴的な金髪の女子生徒が、俺の名前を呼んだ。


・・・。

噛んだな、でもなんだろう・・・。その恥じらう姿めっちゃいい・・・!!

ナイスです!



こう言ういかにも委員長をやっているような雰囲気の彼女は、まさにこのクラスの委員長である 音咲おとさき アンナさん。


まあ名前と見ての通り彼女はハーフらしく地毛が金髪なのだとか、しかも海外の血が入った影響かスラッとした身長に結構大きな2つのものをつけて・・・、しかも顔も可愛いというかキレイなので、男子生徒の間では「七姫」に対抗し得る逸材達の1人。とかで隠れファンが多いらしい・・・。


そんな彼女が俺に何用かな・・・?


「どしたのアンナさん?なんか相談ごとかい?」

「ううう・・・。え、えっと新山くんにねお客様がきてるよ?」



そう言って教室の入り口の方をチラッと見る音咲の視線を辿ると・・・、そこには恐る恐ると言った様子で入り口の影に隠れてこちらを伺う夏宮の姿があるではないか・・・!!


「お、おい夏宮さんじゃあねえか・・・!だ、誰か声掛けろよ!!」

「ざけんなお前が行けや・・・!声掛けて嫌われたら軽く3回は死ねるぞ??」

「うっほおお・・・!!めっちゃいい匂いするわあ・・・くんかくんか」


おい最後のやつ今すぐ名を名乗れ・・・。


そんなことをされている事など露知らず、というか眼中に無いのかただただ何処か飼い始めた猫がこちらの様子を警戒しながら伺うかの如く、俺の方を見ている夏宮。



昼との態度が違いすぎでは・・・?と不思議に思っているとその様子を見ていた女子2名、委員長の音咲と陽キャギャル小鳥山が俺の方へとズイッと近寄り何やら、こいつやらかしやがった・・・!見たいな表情を浮かべているではないか。


「陸・・・?正直に答えな?夏宮に何かしたっしょ?」

「新山くん・・・?怒らないで聞いてあげるのでさっさと吐いちゃって下さい!」

「いや人の事疑い過ぎでは!?」


いやまじで心当たりは・・・、いやあったわ・・・!もしかしてあれのこと気にしているのか・・・??


「この顔は何かしたな・・・」

「しましたね・・・」

「いや俺じゃなくて夏宮がだけどな・・・、まあ本人に聞いてみるのが早いだろうさ。おい!夏宮さん!!隠れてないでこっちに来なよ!!」


そう声をかけると飛び上がるような勢いで、肩を跳ね上げた夏宮はよそよそと教室へとに入り、少しキョロキョロと室内の様子を伺うと側まで近寄ってきた。


そしてギュッと俺のワイシャツを掴むと、まるで内緒話をするようにグイッとっ耳元に口を寄せる。


「に、新山くん!!は、早く部室に行こうよ!!いつまでも新山くんが話してるから近寄りずらかったじゃない・・・!!」

「新山さん実は人見知り???」

「そ、そそそ、そんな訳ないじゃーん!!ただその・・・、中々他のクラスの人とかとかって、か、関わりがないじゃない?だからいつもより緊張しちゃってるよ・・・!!」

「意外と神経質だったりするのか??俺はてっきり昼の事気にしていると思ったんだけど・・・?」


そうしてピタリと夏宮の動きが止まり、バッ・・・!と夏宮こちらを向くことで顔同士が近くなる・・・。



数秒の沈黙見つめ合う目と目・・・。

夏宮の完璧な造形とも言える小さな顔が、トマトすら生易しい程の朱色に染め上がり、彼女は何を思ってかギュッと目を瞑る。


イヤ何故に!?!?


立ち上がる歓声と悲鳴。

そうしてあと1歩・・・、前に踏み出せばキスしてしまうのでは?と言う距離になった時の事だった!!


「おい!誰だお前!!」


と言う怒号が聞こえズンズンと教室内に誰かが歩いてくる音が届き・・・。


「お前瑠奈に何やってんだああああぁぁあ・・・・!!」

「な!?ぐえええ!!!」


見知らぬ男子の声と共にいきなり後ろ襟を引っ張られ、夏宮の傍から引っ剥がされたのである。


そのあまりの勢いにメガネは宙を舞い、バランスを崩した俺は机や椅子に頭を打ち付け巻き込みながら、派手な音を鳴らし床へと尻を強く打った。



あったまいってえええええ・・!!!!ケツが割れる!!てかやば・・・!!不意打ちで後ろ襟を引っ張られた所為で喉が詰まって息が・・・。



「瑠奈・・・。お前何やってんだ。真央と3人で一緒に帰ろうって言ったのに。いきなり教室からいなくなったと思えば、ここにお前がいるって聞いて探しに来たらこんな訳分からん奴と・・・、そ、そのキスされそうになってるとか意味が分からんぞ・・・?」

「ふえ?」



「ゲホゲホゲホ・・・!!!」


相当変な風に入ったらしい・・・。

いやあやっべー、咳止まらん・・・。



「だ、大丈夫ですか!?新山くん!!」

「おい!お前!あんな強く引っ張ることないだろ!陸大丈夫か!?」

「あんた一体何様なん??」



クラスの皆が俺を心配して駆け寄り、小鳥山に関しては青筋を浮かべて俺を引っ張った男子生徒にメンチをきるなか、ようやく呼吸が出来るようになった俺は涙目になりながら眼鏡が無いので目を細め、その引っ張った張本人を見て思わず目を見開いてしまった。


なんせそこにはいかにも陰キャの代表格とも呼べる容姿を持つ見知った男子生徒がいるのだから・・・。



「な、なんで古川くんがここに・・・!?」

「いやさっき説明したろうが、それにその・・・、古川君て他人行儀な呼び方は辞めてくれ・・・。前みたく名前で呼んでくれよ」


皆が口々に古川 界人を非難する中・・・、当の本人はその事を全く意に介さずに聞こえてないかの如く真っ直ぐに夏宮を見つめる。


流石は主人公見たいなやつだな・・・。あんなタイミングで割り込んで来るとは最早狙ってるとしか思えない。

と言うか人として見ればあんなに強く引っ張る必要などないし、せめて謝罪の1つはあってもいいだろう・・・。


そして・・・。

その言葉は彼女を余計苦しませるような呪いの言葉だと自覚しているのか・・・??もしかしてワザとか??


「い、いやでも真央に悪いじゃん・・・」

「良いとか悪いとか関係ないだろう。俺とお前は幼馴染だし・・・、それにお前がよそよそしいと・・・ほら俺も調子が出ないんだよ・・・!だからさ・・・界人って読んでくれ」



古川が少し顔を染めてそっぽを向きボソッと呟いた。


その言葉を聞いて彼女は何処か躊躇うようにそれでいてとっても悲しそうで、希望を持つような・・・、そんな顔を浮かべた。




ああ・・・!!

夏宮辞めてくれ・・・。

その顔は、・・・。

それだけは・・・。


その顔を見ると嫌でもの自分の事を思い出してしまう・・・!!!





俺の顔が自分でも分かるよう悲痛な顔へと歪んで行く・・・。

ああダメだ。

思い出すな・・・・。

こんな顔周りに見せられない・・・。

いつもの俺に戻るんだ・・・。

誰にもこの心の中をのぞき込まれないように・・・。


ただただ相手へ寄り添う木のように・・・。


完璧に・・・。誰にでも気兼ねに接することの出来る 新山 陸に・・・。


しかしほんの少しだけ遅かった・・・。

何かを思い出したかのように夏宮は俺の方へと視線を向けると、大きくそれは大きく目を見開いて彼女は何か見ては行けなかった物を見たかのような顔をする。


そして彼女は頬を染めた古川を置いて行き・・・、俺の元へと駆け寄ると自然と俺の目元にいつの間にか溜まっていた涙をハンカチで拭き取った・・・。


「新山くん・・・。ごめんなさい!!私が急に向いちゃったからこんな事になって・・・」

「い、いやいいんだ・・・。俺も変な事を言ったからな。自業自得だよ・・・」

「・・・!な・・んで?なんで瑠奈がそいつに気を使う?そいつはお前に無理やりキスしようとしたやつだろ!?お前は騙されてる!!だからこんな奴は俺に任せてくれ!!」



その古川の言葉に、夏宮はプチンと何か切れたように無表情になり。その顔を見た俺はと言うと無表情の美少女がこんなに怖いのか・・・、これは夏宮を絶対に怒らせないようにしないとな・・・と心に決めた。



「本当にごめんなさい新山くん・・・。今日はこの後とお話しないと行けないから、今日は部活には行けない。だから明日また来てもいいかな??」

「あ、ああ」

「1組の皆もごめんなさい此奴には絶対に言い聞かせるので私に免じて許して下さい」



そう言って頭を下げる夏宮を見て、小鳥山さんは息を吐き出すと1度キツく古川を睨みつける。

その圧倒的な迫力に古川はタジタジになった。


「・・・。まあ夏宮さんがそういうならあーしは別にいいや・・・。陸ほら早く保健室に行こ?」

「夏宮さん絶対に言い聞かせてくださいね・・・??新山くん歩けますか?む、無理だったら私につ、つかまってもいいですよ!?」


そう言って優しい笑顔を向け手を差し出してくる小鳥山を遮るように、音咲がこれまた皆を魅了するような笑顔を向けてきた。


「いいんちょ抜け駆けはずるいて」

「なんの事やら?というか杏豆奈さんには言われたくないです」


何やら2人がブツブツと言い争い?をしている中、俺の身体が宙を舞ったかと思うと大空 翔太郎が俺をいわゆるお姫様抱っこしてきたではないか・・・・!!!!!!!



「陸!!!早く保健室に行くぞ!!!頭を打った状態で放っておくのは怖すぎるからな!!!」

「いやだ翔太郎!!この格好はダメだ!!!」



ふはははは!!!と俺の言葉など聞こえて無いかのように颯爽と保健室へ向かう大空。



「「ああああああ!!!まてえええええ」」


と2人の少女がそれを追いかける中、


「藤田氏・・・!新山殿の荷物を持って行ってあげねば!」

「そうだな!!あ!眼鏡が割れている・・・」


とカバンとメガネを持った田中と藤田が後を追う。


そうして1組に残っていた生徒達がそれを皮切りに部活へ行ったり下校したり、同じく保健室へと行く中、残った2人は・・・。


「古川君・・・。どうせこの後真央と帰るんでしょ?なら今日の夜6時頃に家の近くにある公園に来て?」

「え・・・。いや一緒に帰れば」

「6時に来てね??」


有無も言わせずそう言った夏宮もその場をさっさと離れてしまい・・・。取り残された古川は1人強く拳を握った。


そしてこの後・・・、この2人にどんな話があったかは神のみぞ知る事となったのだ。

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