第4話 夏宮 瑠奈 本人の場合

私はなんて事言ってんじゃああああ!!


廊下をバタバタと走り、歯を食いしばった私は先程自分が言った事を思い出し・・・・。


ぬおおおおおおお!!!!!


顔を両手で覆って廊下を走った。



「なっ!?夏宮!!廊下は走るなあ!!!」

「ごめんなさーーーいい!!」


体育教師の注意が私へ飛ぶ中、走るのをやめて早足で廊下を歩いて行く・・・。

体というか、顔が物凄く赤くなっているのがわかる・・・!!


なぜ私がこんなにも顔を赤くしているのか、それはついさっきまでいた空き教室の番人?であるとある男子の所為ではあるのだが、まあ自業自得と言うのも多かった・・・!


「なんであんなこと言っちゃったんだ私は・・・!!おかしい!!絶対におかしい!!絶対絶対おかしいよ・・・・!!!」


そう口走ってしまったあの言葉。


''部活に入ったら夏休みはずっと新山くんと一緒に入れるって事だよね?''


言葉だけ見れば、まるで新山くんと一緒に居たい。とも取れるそんな発言に。



私はチョロインか何かなんですかああ!!

あんなの傍から見れば恋する乙女じゃんか!!



などと心の中で叫んでしまう。



「私はそんな惚れっぽくない・・・!こ、これはあれだ・・・!!変な空気に当てられたのさ!!やっぱりあの置物は呪いかなにかの類だったに違いないよ!!」



うんうんそうだ・・・!そう思えば納得が行く・・・。



でも・・・。思えばあの数日の初対面の時から少し変わった印象を受けていた。



まず初めに言うが私は超がつくほどの美少女だ・・・!


大切な事だからもう一度言うけれど、私はとっても可愛い超絶の美少女なのだ!!



入学当初から、学校内でも特に人気で有名な美少女達に送られる栄誉のようなモノ「七姫」に選ばれたし・・・。


大抵の男子生徒は声を掛けるだけで歓喜し「可愛い・・・!!」と小声で呟きながら赤面してくれる。そしてズッーと私の事を鼻の下を伸ばして見て来るのさ。


それはイケメンだったり彼女持ちの子だったり、明らかに女性慣れしている男子でさえその様な態度になるのだから嫌でも自身の容姿に自信がつく・・・。



でも・・・。今まで出会った男子はいつも私の容姿や身体目当ての人が殆どで・・・。私個人という人を見てくれる人が1人しかいなかった。



それが界人だったのである。


中学生時代。

悲しい出来事があって・・・、学校では気丈に振舞っていつも以上にニコニコと笑顔を振り撒いていた私・・・。


女子も男子も「いつもより機嫌いいね!なんか嬉しい事でもあった?」と私に聞いてくる中で、私は絶望する。



そんな訳ない・・・!!!なんで誰も私を見てくれないの・・・!!!



この時私は初めて、皆が私という個人を見ているのではなく私の外側ブランドだけを見てるのだと気がついた・・・。気が付いてしまったのだ。



その事実に猛烈に悲しくなった私は逃げるように屋上へと行き・・・。



そして界人と出会ったのだ。


灰色の髪を目元まで伸ばした所謂陰キャ・・・、クラスには1人や2人は居るであろうそんな容姿の人物は1人静かに本を読んでいた。その時1人になりたかった私はいつものように甘えてそれとなく彼を退けようとしたのだが・・・。



「なんでお前そんなに辛そうなの・・・?」



一言で救われたような気がした。


その時は恥も忘れて泣き崩れてしまい・・・、慌てたように界人が寄り添ってくれたのは今でも鮮明に思い出せる・・・。


そこから邪魔者が入る高校時代まで、まるで夢のような時間を界人と過ごす訳なのだけど、それはおいおい又次回に語り尽くすとして・・・。




要はつまり。今まで私と言う個人を見てくれる男子は良くも悪くも界人1人だったのが、この数日で2人に増えたという事・・・。しかも相手は文武両道でイケメン、生徒会の副会長までやってるという優等生。



私の今までの経験では、相手がイケメンほど私の外だけを見ている人が多かった。



大人数で出かけた時でも2人になりたいと言って告白しきたり、何だったら身の危険を感じたりとしばしばあったのだが・・・。



彼──、新山 陸くんからはそんな邪な感情の一切を感じないのである。


私が甘えるような言葉を掛けても・・・、上目遣いで見あげようと、イケメンだねっ!と最高の笑顔で言おうとも・・・。


苦笑いや呆れた様にあざといなあなど口にして・・・、気の毒そうに涙を浮かべあまつさえ自身をイケメンではないと否定する始末。


界人でさえ私がアプローチすれば赤面したり、慌てふためいたり、何だったらチラチラっとイヤらしい視線が飛んでくるのだが、そう言うのが一切ない。


もしかして枯れてる・・・・?


と思うのだがどうやらそう言うのとも違う感じがする・・・。


ただただそこに居る私を見出すように・・・。ジッと私の目を見てその中の心を、本音を覗き込もうとする・・・。


数日間しか彼とは関わっていないはずなのに、まるで長年の知り合いのように・・・、そう感じるほど。


数日前、初めて会った時もそうだ。

私がフラれて泣いてたあの日・・・、彼は片手に猫もう一方にアイスの棒を持つと言う一体どういう状況・・・??という姿でその場に居た。

その顔は面倒事に遭遇したように外から見ても明らかに嫌そうで、それでいて私の事を哀れそうに慰めるかどうか迷っているようなそんな雰囲気を持っていた・・・。


噂でイメージしていた何事にも優等生のお堅い人物像とは何処かかけ離れていたのである。


そしてフラれた事を口封じするために色々と話していたのだが、いつの間にか彼に愚痴を聞いてもらい・・・、あまつさえその日に寄ったお店の代金を全て支払ってくれたのだ。


私は何度も払うと言ったのに頑なに自分が払うと言って結局財布の中身を空にして涙を浮かべていた時は、失礼ながらこの人は馬鹿なの?っと不覚にも大声で笑ってしまった。


そうたったそれだけしか会っていないのに・・・。彼は私に欲しい言葉をくれて、この界人へ対する不満の思いを受け止めてくれていたのだ。



だからまた会いたくなってしまった・・・、何だったら土日の間はふと気がつけば新山くんはこう言ったらどうゆう反応をするのか、どうすれば私の事を可愛いいって言ってくれるのか・・・。


そんな事ばかり考えていたのだ。



ああそうか・・・。



私は自分の教室の前で丁度立ち止まり、今は考えたくはなかった思いがその身に小さく小さく宿るのを感じた・・・。


この感情はつい先日敗れてしまったことで暫くはいいかな・・・。なんて考えていた最中だったのに・・・。



どうやら自分は自分が思っているよりもはるかに惚れっぽい性格らしい。



私夏宮 瑠奈は少しばかり新山くんの事を異性として気になってしまったようである・・・。

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