第3話 負けヒロイン 夏宮 瑠奈の場合Part3
修羅場騒動から土日を挟んだ月曜日・・・。
いつもなら長い1週間の始まりというわけもあり、憂鬱な生徒が多いだろう。しかし間近に迫った夏休みを前に、クラス中は月曜にも関わらず異様な活気に湧いていた。
そんな中で俺はというと1人とある空き教室にて優雅な昼食を取ろうと弁当箱を広げている最中であった。
今日のお弁当のサンドイッチはなんせ力作だ。
昨夜、知り合いからお高めのハムセットなるものが届いたためそれをふんだんに使い、自作のパンとハムに合いそうなソースを1から作ったのである。
厳選した鹿児島黒豚をドイツ人シェフが手作りした物だそうで・・・、ハム類はもちろんの事ソーセージやベーコンまでも入っており、相当なお値段がする品らしい。嗚呼ようやくコイツにありつけるぜえ・・!
「いただきまーっす♪」
あーん・・・!
「たのもー!」
サンドイッチを頬張ろうとした瞬間に教室のドアが大きく開かれる。
「やっと見つけた!!やっハロー新山くん遊びに来たよ!!」
フワリと肩まで伸びた髪型に程よく健康的な手足、顔は神に愛されたとしか言えない完璧なる大和撫子・・・。
そんな美少女 夏宮 瑠奈 は数日前にフラれたとは思えないテンションで、にししっ!。とまるでイタズラが成功した子供のように無邪気に笑った。
あなたは一体何ヶ浜さん??
「夏宮さんまた来たのか・・・」
思わず出てしまった言葉に、しまったと思ったがもう遅い・・・。
夏宮はあああ!!と少し頬を膨らませると俺の対面にある椅子にドカッと座り込む。
「また!?またって何さ!!またって!ここに来るの今日が初めてだよ!」
ぷりぷり?と怒りながら自らのお弁当を広げて行く夏宮。
「よく見つけたね・・・」
「うん生徒会の人が教えてくれたんだ!」
「わざわざ生徒会まで行ったのか・・・!」
その行動力に遺憾の意を表明・・・!
「それにほら今日わたしは新山くんと一緒にご飯食べたかったんだ〜・・・」
上目遣いでまるで甘えるような声と鼻に女子特有の甘い花?の香りが漂ってくる・・・。
あっはは!あざとーい。
他の男子であれば、あまりの可愛さに速攻で好きになっちゃうようなそんな姿に・・・、数日前に彼女はフラれているんだよなあと思い出して俺は思わず口元を抑えて一筋の涙を流した。
「うう・・・。よっぽどストレスを感じているんだな・・・」
「ええぇ・・・、なんか思ってた反応と違うんですけど・・・。ていうか哀れみなんていらないよ!!」
箸を握りブンブンと振ってそう抗議する夏宮を無視し、お預けだったサンドイッチを1口・・・。
うんっまあああああああああああああ!!
いつもの安いハムさんとは全然違うじゃあないか!!噛むだけで肉の旨味が口中に広がり、自作のソースとパンにベストマッチしている・・・!!
感動のあまり別な意味で涙を流してしまう。
そんな様子に明らかに夏宮は不服そう顔を浮かべた。
「うう・・・。新山くんイケメンだし明らかに女性慣れしてるよね?自慢じゃないけど私結構男子に人気あるし赤面させるの得意なんだけどなぁ・・・?」
いい性格してるなあー。
「イケメン・・・?誰が?」
「いやいや明らかに新山くんの事でしょうよ・・・。まあいいやそれで新山くんは彼女とかいるの?」
「彼女はいないぞ?ああでも中学時代から会長とは知り合いではあるけどな・・・。そしてその手のハニトラ紛いな事は中学校の時に散々とある先輩にやられたぞ?毎回騙される度に教えてくれたんだ。『相手がイケメ〜ン!とか絶対にモテるっしょ!!とか今日暇なんだ♪って言う女は100%信用するな??相手は明らかに君を馬鹿にし、モテるわけないと心の中では悪態を吐き、あまつさえ君を財布でしか見ない性悪の悪魔だからな!!陸よ絶対にそんな女に引っかかるなよ!!!』って・・・。だから俺はそういう事を言う女子はコイツ悪魔じゃないのか・・・?と思いながら接することにしたんだ」
遠い目をしながら中学校の思い出をそう語る俺を若干引いた目で見る夏宮。
「いや流石に偏見が過ぎると思うんですけど・・・??その先輩よっぽどだと思うよ?と言うか会長って新山くんと同じ中学だったの!?!?」
「あれ?言ってなかったか?」
「言ってないし会長からもそんな話聞いてないよ!!」
怒鳴ったり、なんだり本当に夏宮は忙しい人だなあ。
「まあそんな細かいことは置いて本題に入ろう。俺に相談事でもあるんだろう?それで?古川達と昼食を食べるのが気まずい夏宮さん?何で他の友達の所じゃなく俺の所に来たんだ?まあ大方愚痴を吐き出しに来たんだろうけど・・・」
先程からなぜだか肩で呼吸をしていた夏宮は、はーっと少し息を吐くと、箸で弁当のミートボールをちょんちょんと刺しながら口を開いた。
「だって、新山くんって聞き上手だしとっても話しやすいんだよね・・・。それにこんな話友達とか知り合いに話す訳には行かないし」
「そうかな・・・?てか俺はいいのか」
自分では全くわからないがそうらしい。夏宮はコクリと頷くと段々とハイライトが消えた行く目で話続ける。
「聞いてよ2人から報告があったんだけど古川くんと真央ちゃん付き合いだしたんだって・・・。それでねあの2人の周りの空気?が私の心を何回も何回も何回も何回も刺してくるんだあ・・・。ちょっと触れただけでお互いに見つめ合って頬染めて笑い合うし・・・!!ちょっとした言葉だけで通じ合ってるし・・・!あまつさえお揃いのストラップをいつの間にか付けてるんだよお!?付き合い出してまだ数日の筈なのにぃ!!!私後ろの席なんよ!!何回その光景を見せられとるんじゃあ!!!その状態で私にお昼誘うって何なのかな???見せつけたいんですかああああ!!!!」
完全に目から光が消えた状態で、夏宮はフーっ!フーっ!とまるで獣のように息を吐き出し、何度も何度も何度もふたつのミートボールにその鬱憤を晴らすが如く箸でズボズボと刺し続ける。
さ、さっきからミートボールが可哀想すぎるのだが・・!や、や、辞めてあげて!!食べ物を粗末にしちゃあ行けないよ!!!!
その情緒不安定の様子からして、どうやら夏宮は全くもって古川の事を振り切れてないようだ・・・。
そうして彼女は自分の胸をじっと見つめるとふふふっと自虐的な微笑みを浮かべた。
「そうして私は古川くんを見て気が付いたんだよ。やっぱり胸が好きなんだなって・・・・。なら私もいっその事豊胸手術を受ければいいのかなって。それがダメなら真央ちゃんの胸の脂肪を切り落とそうって・・・・!!」
「真面目な顔で何を言っとんじゃ」
「にょ!?!?」
あまりの真剣な顔付きに恐怖で思わずペシッ!と頭にチョップを入れてしまった。
これは・・・、ダメかもしれん。なんかもう関わっていくのが恐怖でしか無くなってきた。
「うう・・・。いきなりチョップは酷いよ!!!まあでもそっか!そうだよね!やっぱり胸は天然モノがいいよね!!これでも私形はいいから!」
「いい笑顔で語っているとこ申し訳ないけど、そういう話をしてるんじゃないし最低だよ!」
あとあなたEカップでしょうよ!もういいだろ!
「新山くんはやっぱりあった方がいいの?それとも無い方が好みなのかな?」
俺にその話を振るのはどうかと思うが??
まあ俺はないかあるかと聞かれば迷いなくある方がいいかな!って答えるけれど。
「・・・・・あってもなくてもどっちでもいいんじゃないかな!ほら大切なのは性格とか言うでしょ!!」
「その間は何なんだろうね〜・・・?というか前もその答え聞いた気するけど気のせいじゃないよね??」
一体何を言えば正解なのだ・・・。
「まあいいや。ところでさ?この空き教室って一体何の教室なの?なんか物騒な物が置いてあるんだけど・・・?」
その言葉で・・・。俺と夏宮の目はこの空き教室のとある一点に視線が集まった。
俺はもうかなり見慣れたが、夏宮はそのあまりの異様さに身を寒くしたのか夏にも関わらず腕を摩った。
まあそうだよなあ・・・。そこについつい目がいってしまうよなぁ・・・。
そこには左右の目が変な方向を向き、舌を出したまるでどこかの海外産アニメのキャラクターのような・・・、黒い羊の頭がドーンっと妙な迫力で飾られていたのである。
所謂剥製と言う奴なのだが・・・、今にも動き出しそうな雰囲気もあり、かなりおっかない・・・。
しかもその下には何を書いているか読めない何かの書が数冊とロウソクがたっているので余計怪しく見えてしまう。
「いやいや・・・・!気持ち悪すぎるよ!!なんなのあれ!!」
「ああ・・・。ここは元々占い研究部?が使ってた教室でなあ。数年前に廃部になってるんだが・・・、どうやらその時の置き土産らしいぞ?」
「私の知ってる占い研とは全く違うんじゃないのかなそれ?絶対怪しい儀式とかしてたよね??」
「よく分かったな・・・!廃部理由は確か部活動中に何か怪しい儀式をしてるって生徒からの通報だったらしいぞ?」
「絶対やばい奴じゃん!!なんで新山くんここでご飯食べてるの!?!?」
「何でってここが俺の部室だから・・・?」
「意っ味わかんないよ!!教室で食べればいいじゃん!!」
「俺ご飯とか静かに食べたいたちなんでそれはちょっと・・・」
うう・・・、とこめかみを片手でモミモミと揉み込む夏宮さん。
「はあ・・。なんか新山くんといるとこっちが頭痛くなって古川くん達の事何かどうでも良くなっちゃうよ・・・」
それは・・・、褒めてるのか?貶しているのか?
「まあ良かったじゃないか・・・。褒め言葉として受け取っておくよ。そんじゃあこれに簡単に悩み事と名前・・・、ニックネームでもいいから書いてってくれないか?」
俺から1枚の紙を受け取った夏宮はコテンッと可愛く首を傾げる。
「えっと・・・、なんなの?これ?」
「何なのかと聞かれると返答に困るな・・・。まあ簡単に言えば俺の所属する部活動のエビデンスになる物かな?」
「え、えびだんす?」
何を想像したのか・・・、何処か嫌そうな顔を向けて来る夏宮。
一体ナニを想像したの・・?
「エビデンスなエビデンス。簡単に言うと証拠とかまあ記録みたいなもんさ」
「へえ・・・!そうなんだね!!覚えたよ!エビダンス!!」
もう突っ込まないぞ??
「うん・・・?でもさ?新山くんって生徒会の副会長だったよね?なんで部活動やってるの?生徒会の仕事とか大変でしょう??」
まあそう思うのも当然だよなあ・・・。
「まず勘違いしているが、別に生徒会に入っているからといて部活動が出来ないという訳では無いぞ?」
「そうなんだ!?」
「ああ。だが・・、どちらも両立して出来る生徒が少ないのが現実なんじゃないか?だから部活を辞めて生徒会に専念するって言う生徒も多いぐらいだそうだし・・・。それが生徒会は部活が出来ないって言う様に勘違いしてしまうんだろうさ」
「へえ・・・。それじゃあ新山くんは両立できてるんだ?」
「いや俺の場合だとちょっと特殊だな・・・。ほらうちの生徒会メンバーはみんな秀才だらけだろ?しかも人数も割と多い方だからな・・・」
「た、確かに会長とか成績上位者が多いイメージだね・・・!!」
その言葉に俺はこくりと頷く。
「そうなんだよ。まあ確かに忙しいは忙しいが、そこまで切羽詰まった状況とかにはなかなかならない訳・・・。そこで先生が新しい部活を設立するから生徒会で人を出してくれ!!と言われて白羽の矢が立ったのが俺なのさ」
「ふーん・・・。まあ何となく分かったけどさ。結局新山くんの部活動ってどんな活動してるのかな?」
「部活動の名前自体は【相談部】っていうものなんだが・・・。まあ名前の通り相談事とか困り事が有ればそれを聞いたり?手伝ったり?解決策を提供したり?する感じの部活??だぞ?」
「なんで疑問形?てかそれは部活動として成立してるのかな?」
「まあ・・・。実際にはボランティア部みたいなものだからなぁ。結構広くは活動してるんだぞ?SNSで募集かけて今年のゴールデンウィークとかも結構忙しかったからな」
いや本当に大変だった・・・。
なんせこの部は設立してまだ半年も経っていないし、部員も今だ俺1人。
ホームページやSNSに専用アカウントを作ったはいいが思いのほか依頼が殺到する始末となり・・・。
町内会のごみ拾いの手伝いだの河川敷の草むしりに引越しの手伝い、蔵の整理の手伝いに果ては大学生の恋愛相談と逆に生徒会の時よりも忙しいまである。
そして・・・、今年の夏休み中にも又、色々と相談事が舞い込む予定なので、夏休み前に部員を1人か2人追加したいのが本音である。
「へ〜・・・。でもなんか面白そうだね!!」
夏宮は興味のありそうに何処かキラキラした笑顔になったので、俺は少しニヤッと笑ってとある提案をする。
「それじゃうちの部入るか?」
「え・・・・?」
何処か驚いたような・・・、何か閃いた様なそんな表情を浮かべる夏宮。
うむここで部員を1人獲得出来れば夏休みの部活動も多少なりとも楽にはなるだろう・・・。まあしかしだ夏宮の場合は仮にも一軍はおろかメジャー級の女子生徒だ。そんな彼女がこんな部活に入る訳無いのだろう。
「・・・。部活に入ったら夏休みはずっと新山くんと一緒に入れるって事だよね?」
は?
なんだその違和感だらけの返答・・・?
それどう言う意味・・・?と聞こうと何秒たったか分からない間が流れた中、シュバッ!と夏宮は俺の残りのサンドイッチを強奪しそのまま豪快に一口で食べてしまったでは無いか・・・!?!?
「なんで食うし!!!!!!!」
「ごめんなんかすごく美味しそうだったからここで取らなきゃ食べられないと思って・・・!!」
そっぽを向いてモグモグと何処か頬を染めて早口でまくし立てる様な口調で言ってくる夏宮さん。
「いやそれでもだよ!!ていうかそれ俺の食べかけなんだけど!?!?」
そう俺が慌てたように言うと彼女はゴクリっ!!と行き良いよくサンドイッチを飲み込む。
「ゴホッ・・・ヴ!・・・グッ!ホッゴホッゴ・・・!」
んーーーーー!!!っと喉に詰まったのか胸を叩き、流し込む様にパックのコーヒー牛乳を飲み込んで、その場でバタバタ、シュッシュと腿を上げたり屈伸したりと奇行する夏宮。
じょ、情緒不安定!?
「んふん!!!!にいやまぐんん!!私部活入るから!!!顧問の先生に言っといて!!!」
「いやまあそれはいいんだけど・・・、だ、大丈夫か?」
「新山くん絶対こっち向いちゃダメだからね!!絶対だからね!!!私教室に戻るから!!!きょ、今日の放課後にまた!!!」
顔を明後日の方に向けながらシュタタと自分のお弁当箱を目にも留まらぬ速さで片付けた夏宮はそう言ってあっという間に教室からバタバタと出ていってしまう・・・。
「一体なんだったんだ・・・?」
これでもかという程に真っ赤になった顔を押さえながら廊下を走る彼女に気付くはずもなく、俺は呆れながらそして何故だか生暖かいような視線を受けながら残ったパック牛乳を飲み干すのだった。
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