第2話 負けヒロイン 夏宮 瑠奈の場合Part2
「それでさあ私は思う訳ですよ!!私の方が可愛いじゃん!!てね!!」
少し怒り気味の口調でそう言いながら、冷房の効いた店内にてダブルでチーズなハンバーガーを口いっぱい頬張る美少女が1人と・・・。
「へ、へえー。そうなんですね。はははは!!」
どうもこんにちは。ただいま大人気ファストフード店『ワクドナルド』にて絶賛拘束中の私こと 新山 陸 である。
ことの顛末は前の話を見てくれればある程度把握出来るだろう・・・、だが俺のメンタルの維持のためにあえて説明しよう・・・!!
前回。猛暑の中ぐったりとした様子で帰る最中、修羅場と思わしき同じ学校の制服を着た男女を見つけたため面白がって覗いたのが運の尽き。
何とその男女は学校内でも有名な2人で、しかも1人は全生徒を魅了してしまうような美少女。「七姫」の1人である夏宮 瑠奈だったのである!
そして件の男子生徒 古川 界人 は彼女のことを選ばず、他の女子生徒の元へ走り去ってしまったことで、見事なまでに振られてしまった彼女こと夏宮 瑠奈は泣きじゃくり・・・、その一部始終を覗いていた事がバレた俺は只今彼女の刑執行宣告を待つ状態となっているのだ!! 以上ー!
「聞いてるの!?新山くん!!」
「あ、はい」
ついうっかり彼女の話そっちのけで、回想を挟んでしまった俺にギロリと鋭い視線を向ける。
「はい。じゃないんだよ!」
貴方は俺の上司か何かなんですかね!?
「だからね私は仮にも・・・、仮にも中学校からの幼馴染でもあった訳だよ!?それなのにあいつと来たら!名前呼びなんて今日まで一切してこなかったのに・・・!なのになんで別れ際にあんな・・・!ううぅぅ・・・」
夏宮の目から何度目か分からない涙が流れ出す。
「ああもう!!めんどくさい!!夏宮さん泣き止んでくれ!!これ以上泣かれると周りの目が痛すぎる!!」
いつも何個かは常備しているポケットティッシュなのだが彼女に渡したのモノが最後の1つ・・・。
「いまめんどぐざいっていっだああああ!!!」
更に目から涙を流す夏宮に、周囲の人々からなんだなんだ??まさか修羅場!?などと言った囁き声と視線が突き刺さる。
そんな事も露知らずヒグッ。ヒッグッ。と胸がつかえたように何度も肩を動かす彼女に。
どんだけ泣いてんだこの人・・・。
と心の中で苦言を物申すが、それをこんな状態の彼女に口を出す勇気などある筈もなく。
ズビビッー。
と容赦なくティッシュで鼻をかむ夏宮に仕方ないと、俺はおろしたてのハンカチを取り出してその目元に溜め込んだ涙を拭き取った。
「ほらほら夏宮さんの可愛い顔が台無しになっちゃうよ・・・?さあ深く深呼吸してー」
そっとそばに駆け寄った俺は子供をあやす様に優しく慰めながら背中をさする。
「うう〜っ」
少し落ち着いて来たのかハンカチを手に取り、涙を拭いた彼女はまたポツリポツリと続ける。
「わたぢだっでさあ!色々と頑張ってた訳ですよ!」
「うんそうだね」
「それなのに高校の2年から知り合った女に負けるってどういうことなのがな!!」
「うん・・・、それは気の毒だったね」
「やっぱり胸なのかな!?」
「うん??」
「胸が好きなんか・・・・!?」
「ちょっと夏宮さん??」
「男の人は胸がやっぱり好きなのかなあ!!!」
「落ち着け夏宮さん!!ここはワックで人が周りにいるから!!現実に戻って!!!これ我に返ったら滅茶苦茶恥ずかしくなっちゃうやつだから!!」
俺の襟元を掴み、オラオラと押したり引いたり繰り返す夏宮さん。
頭がガクンガクンと揺さぶられる中。
あ、この人俺の話きいちゃいねえーやと遠い目で天井を見上げる。
「これでも私Eくらいはあるし何だったら形だっていいほうなんだよ!?!?みんな私の胸に目がいっちゃうくらいなのに!!」
ようやく襟元を離してくれたと思いきや、今度は自分の胸を掴みあげ、まるでどこぞのセールスマンが商品を売り付けるが如く胸を見せつける彼女・・・。
そしてやはり夢と希望を詰め込んだものを見たいがための男のサガなのか、男性客の視線が一気に集中的に集まって行く・・・。
いやいや。流石に露骨に見すぎだって!
と流石にその視線が五月蝿すぎた俺はそっとその視線から夏宮さんを守る様に、体を横にし壁役を引き受けた。
そして男性客達の行動に、周りの女性客らが訝しげに彼らを見ることで男性たちの視線が少し弱まる。
まあしょうが無いのだろう。
相手は超が付くほどの美少女で、しかも自称Eカップ。
見るなという方が酷な話かもしれない。
俺としてはこんな事で彼女のバストサイズと胸の形など知りたくはなかったが・・・。
まあそれはそれとして。この子は大丈夫なのだろうか?俺と初対面の筈なのにそんな話していいの??
「新山くんはどうなの!?!?やっぱり胸はあった方がいいのかな!?」
なんでその話を俺に振るの!?!?
「・・・。そうなんだねー。ほら大切なのは性格とか言いますしぃ?」
「新山くん・・・。そういう事は相手の顔をよく見て言った方がいいんだよ?」
いやもうね。お兄ちゃん疲れちゃったのよ・・・!そしてなんだろうお腹一杯だし、哀れすぎて見られません!!
そして昂ったナニかを収めるためなのか、別途で頼んでおいた俺のコーラを勝手に取った彼女はそのままズズッーと全て飲み干してしまう・・・。
もう何も言うまい・・・。
「確かにね?私と真央は親友ですとも!!しかも?あっちはめっちゃ可愛いし?私より胸でっかいし?料理もできてさり気ない気遣いもできて・・・、しかも私よりも胸がでっかい!!(なんで2回言った??)私いが勝つとこなんてあんまり無いけれど!!それでもさあ!?人の好きな人を取っちゃうのは如何なものかと思うの!!そういうのは絶対良くないよ・・・!!」
恋愛とは自由なものだ・・・!とは誰が言った言葉だっただろうか??
「それを・・・!それをあの・・・!!あのIカップ巨乳ビッチガアアァァ・・・!!!」
目に怪しい光を宿らせて、きえええええっと今度はビックなワックのハンバーガーを喰らう夏宮。
親友??何それ美味しいの・・・??
てかその枠組みで言うと夏宮もその中に入っている気がするのだが・・・。
それ以下の女子達にナチュラルに喧嘩売って行くスタイル、俺は嫌いじゃないぞ?
「は・・・・!!で、でも今から追いかければわ、ワンチャン一発逆転ならぬ、一打サヨナラで界人が私を好きになるかもしれない・・・・!」
夏宮は焦点が合わ無い目でふえっ。ふへへへ・・・!!とまるで何処ぞの中毒者の如く笑い始める。
「いやそれは無いて」
首を横に振りながら、俺は秒でそれを否定する。
傍から見ても彼女の恋は終わったのは確実だ。大体の物語上でもそれは証明されているのだから、負けヒロインらしくここは潔く負けを認めた方が懸命だろうに・・・。
「そ、そんなのわかんないじゃん!!!」
「いやそれ俺のオレの・・・!!」
自身も頼んだパックに入った黒い烏龍茶を飲みながら、人のポテトをうおー!!と泣きべそを掻きながら、モリモリと口に放り込んで行く夏宮に対し、
さっきから食べてばかりいるぞこの子うわあ!!太りそー!!
なんて呆れながら。
そういえばふと思い出したことを彼女へ聞いてみることにした。
「てか・・・。夏宮さん俺の事知ってんだ?記憶違いじゃ無ければ1度も同じクラスはおろか、同じ委員会になったこともないよね?」
「ゴクリ・・・・?まあそうだね。でも新山くんて結構女子の間じゃあ噂になってるよ?」
今度は俺のナゲットに手を伸ばそうとしているのをパシッと叩き落とす。
えっ・・・?なにそれめっちゃ怖いんだけど・・・!
あと人のナゲット取ろうとすんな!!
「だって新山くん。1年からテストの成績いつもトップだったよね?しかもスポーツ大会とかもMVPとかにも選ばれてるし・・・。文武両道でオマケに高身長、それに何よりイケメンだからね!!そりゃ女子の間でも人気は高い訳だよ!」
「前半はまあ納得できるとして最後のだけはちょっと意味がわからんのだが?」
いや俺がイケメンと言うのは納得が行かん・・・!イケメンってえのはド○ェインかステイ○ム見たいな奴のことだろう・・・!!
「新山くんの判断基準がおかしいのは理解したけど・・・(聞かれてた!?!?!?てか知ってんの??)。まあそれだけではないんだけどね・・・。まあそのほら私達ってよく冬篠会長とご飯食べてるから」
「あああー・・・」
その言葉を聞き思わず納得したように俺は頷いた。
俊成高校きっての秀才にしてスポーツに対しても万能。そして何より皆がたじろぐ様な麗人とは誰か?と聞かれれば皆がこぞって名前を挙げる位には有名な生徒会長は『七姫』の1人。
何故そんな彼女が俺の事を知っているのか、それは俺がその生徒会の一員である事・・・、しかも副会長と言う立場なのだから嫌でも関わってしまうのだ。
まあそれだけでは無いのだが・・・。
「因みに聞くけど、変なこと聞いてないよね・・・?」
「うーん・・・。尊厳のために何も言わないでおくよ!」
一体何を聞かされてるの!?!?
「まあいいやそれは会長に後で聞くとして・・・。真面目な話夏宮さんはこれからどうするんだい?」
ズズーっと追加のドリンクの中身が丁度無くなった夏宮は、カップをそっとテーブルに置くと涙を静かに溜めて悲しそうな顔を浮かべた。
「うん分かってはいるんだよ?私がもっと早くに界人へアプローチしてれば結果は違ってたんじゃないかなって・・・。でもさもうしょうがないし、結果は変わらないじゃん・・・?だからさ諦められるかどうか分からないけど界人・・・、うんうん古川くんの事は諦めて、これからは寄り良い幼馴染として接して行くつもり・・・」
痛々しいような笑みを浮かべながら腕を摩る夏宮。その姿は見事なまでの負けヒロインなのだろうが・・・、その哀愁漂う姿がとても気の毒に見えてしまう。
「偉そうな事なんか言えた義理じゃないけど・・・。こんなに可愛い夏宮さんが本気で心から好きでいてくれたんだ。それを蹴った男ははっきり言ってみる目がないと俺は思う。
まあ月並みだけど・・・、この世界の約半分の人口は男の人らしいからさ。だからね夏宮さんをちゃんと理解して寄り添ってくれる人が見つかるかもしれないよ??そう・・・。例えばその相手は意外と近くにいるかもしれないし・・・」
そう言って窓へと視線を向ける俺を、少し大きくなった目で見て来る夏宮。
「そ、それってさあ?案外わ、私の目の前にいたりして・・・。なーんて・・・」
夏宮は夕日に照らされ少し紅くなった顔で、こちらから視線を外さない・・・。
微かに流れる沈黙・・・。
そして・・・。
「んやそれは無いね!!」
それを俺はいい笑顔で即刻否定した!!
いやだって知り合って間も無いのに好きも嫌いも分かるはずなかろう・・・!!
そして俺の今の夏宮の印象は、ハチャメチャに面倒臭い女の子となっているから余計に無理かもしれない!!
その俺の返答に夏宮は余程ムカついたのか、テーブルを両手でバンバン!と叩き始める。
「は、はああああ!!!に、新山くんが近くに居るとか言ってたからじゃん!!!」
「それで俺って言うのも早計すぎるだろ・・・。まだ知り合って2時間くらいなんだぞ??」
「それでもあんな即答で答えなくてもいいじゃん!!」
「いや実際めんどそうだから・・・」
め、めんどそう・・・!!と何度もその言葉を呟いた夏宮さんはプクーっと頬を膨らませるとそっぽを向いてしまう。
「フンッだ!どうせ私は未だに失恋を引き摺る趣味も特になければ、好きな人と撮った写真も消せないめんどくさい女ですよー!!」
「いやそこまで言ってないし・・・。自分で言ってて虚しくなんない?」
呆れ気味にそう彼女へ返すが未だ膨れる頬。
全くもって面倒臭い・・・。
面倒臭い・・・・が、案外その面倒くささも悪くないなと思ってしまう自分もいるのも事実である。
これが七姫の1人、夏宮 瑠奈の魅力なのかな・・・?
俺はやれやれと徐に立ち上がるとにやりと笑みを浮かべた。
今までの傾向を見れば彼女はこの一言で機嫌を直してしまうだろう・・・。
「ふふふ・・・!夏宮さん知っているか??この時期に食べるアップルパイとアイスクリームの組み合わせは最強だということを・・・!!」
その言葉を聞き・・・、今まで頬を膨らませていた夏宮は速攻で目を輝かせて俺を見上げる。
いや予想はしていたが機嫌治るの早すぎだろ!!
「新山くん!!この傷付いた心は甘い物でしか治りません!!私はアイスクリームとアップルパイを所望します!!そしたら今までの無礼を許しましょー!!」
やっぱりデザートも俺が払わなければならないのね・・・。
と喉から出かかった言葉を飲み込み。
仕方ないと苦笑を浮かべた俺はやれやれと財布からなけなしの5000円札を取り出す。
「おおお!!新山くん太っ腹あ!!」
なおこの後も他の店へと何故だが付き合わされ、俺の財布のライフはゼロになったのだった・・・。
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