【祝1000pv!!】負けヒロインじゃあダメですか!?

キュータロー

第1話 負けヒロイン 夏宮 瑠奈の場合

夏、それは我ら高校生にとってそれはそれは掛け替えのない大切な季節のひとつである。


ある者は来る長期休暇に心を踊らせ・・・。


またある者は秋の大会に向け部活動に励み。


そして高校生活を堪能する者達とっては、祭りや海といったイベント事が盛り沢山な季節・・・。



そんな青春の1ページに必ずと言っていい程乗るであろうそんな大切なとある夏の日。


7月となったそんな日に俺は異常気象とも取れるこの猛暑の中・・・。ズレ落ちそうになった眼鏡をあげ、どこにでも売っている当たり棒が出てるアイスの代名詞 シャリシャリくんで体内温度をどう下げようかと口に咥え模索していた際にそれを目撃してしまったのである。



「あたしの事は良いからはやく・・、早く真央まおの所に行ってあげてよ・・・!!」

「でもそれじゃあ・・・お前が・・・」

「そんなお情けなんか欲しくない!!私の知ってる古川ふるかわ 界人かいとは陰キャで影が薄くてたまにキモイけど・・・。それでも1度決めたら振り返らなかった・・・・!!わたしを・・・、わたしを失望させないでよ・・・!!」



まるで魂の叫びのような声が通学路に轟き、沈黙が降り注ぐ。

そんな状況に俺は思わず近くにあった電信柱に身を滑り込ませ、咥えていたアイスを1口シャリっと食べると件の俗に言う修羅場とかしている少年、少女達へ目を向けた。


イケメンと言われれば微妙であり、かと言ってブサイクとも行かない俗に言う普通顔、少し灰色がかった髪を目元まで伸ばし身長も平均より少し低いクラスに1人や2人いるであろうそんな容姿の男子生徒と・・・。


方や女子生徒の方は普通という枠組みには到底当てはまらない10人中20人くらいは「はいっ好きです!!」と即答で答えかねないであろう容姿を兼ね備えた小悪魔系いやいや魔性?の美少女・・・。



世間一般的には相容れないような2人が、今こうして目の前で一緒にいると言う光景は何も知らない者が見ればどこか不釣り合いさに違和感を感じてしまうかもしれないが、俺いや俺達の通う『俊成しゅんせい高校』の生徒達が見ればそれは物珍しいモノを見たという目へと変わるだろう・・・。



何故ならこの2人は学校内では相当な有名人なのだから。



「すまん夏宮なつみや・・・。俺は真央が好きなんだ・・・。だからお前の気持ちには答えられない」

「うん・・・」

瑠奈るなありがとう・・・。俺行ってくる」



そう言って古川は夏宮の方へは一切振り返る事などせず、全速力で走り去っていった。


「な・・・んで、こんな時だけ名前で呼ぶかなぁ・・・。うう・・・。うううう・・・・!!!」



おいおいおいおい・・・。こんなこんなものを無料で見れていい物なのか!?

何なんだこのアニメや漫画、小説に出てくる見たいな場面は・・・!!


まさか現実でこの様な事態に遭遇するなど思いもせず、思わずハラハラしながらアワワっ!とまるで乙女のように口元を手で押さえ、未だ泣き続けるふられたであろう美少女の気持ちを思い俺は少し目尻に涙を貯めた。


我が高校には『七姫ななひめ』と呼ばれる芸能人やモデルですら青褪めるような、7人の美少女達が存在している。


それぞれの個性的な性格や容姿にちなみ、2つ名の様な物が付いており、その1人が何を隠そう目の前の少女【黒百合姫】の2つ名を持つ夏宮なつみや 瑠奈るなだ。



そしてあのフツメン古川 界人が校内で有名になったのもこの七姫が関係していたりするのだが、察しのいい読者はそれで分かるとは思うがそれはまあおいおい話すとして・・・。



目元の涙をそっと拭い・・・、今この置かれた状況をどうしようかと考えを巡らせてゆく。


可哀想だからといってここで迂闊に出ていって、彼女を慰めるなんてことは安易にやっては行けないことだろう。


俺はあの古川の様に主人公?見たいな柄ではないし、それに名も知らぬであろう男子生徒に慰められたって相手からしてみれば、『誰だコイツうあひくわぁ・・・』、見たいな視線を送られるのは必然的だろう。


そうなってしまえば、校内に俺の噂が経つ事など早い。


なんせ相手はあの七姫の1人で、しかも小悪魔や男たらしなんて言われている少女である。


『あーしー。ふられたんだけどー。なんかその直後にー。話しかけてきたキモイ男子いたんだよねー』


とか言われてしまえば・・・、立ち待ちその話が校内に広まって、特定された後に後ろ指を指されるに決まっている。



そんな面倒事に巻き込まれるのはごめんだ・・・!!!



ならばここは心を鬼にするしかないだろう。

まあ人生なんて山あり谷あり・・・。

現日本では一夫多妻制や一妻多夫制なんてものは無いのだから、誰か一人を選ばなければならないのだ。

失恋の1つや2つなんてしょうがない事だろうそれがあの百戦錬磨の七姫であってもそれは変わらない事なのだから・・・。



こうして俺はうむうむ、とひとり勝手に納得すると見なかった事にしようと踵を返す。




が・・・、そこには1匹の猫がこちらをキラキラとした表情で見つめる姿があるではないか・・・!!!



何だっってこんなところに猫ちゃんが・・・!



その可愛さに思わず頬を染め、猫の視線の先を辿るとそこにはいつの間にか溶けて棒から完全に抜け出したシャリシャリくんの本体が、俺の足元へ落ちている姿があった。


こころなしか・・・、猫の口元からはヨダレがじゅるりと垂れているようにも見える。


まてまてまてまて!!!こんなん食ったら腹壊すやろ・・・!



食べさせない様に何とかシッシッ!と小声で身振り手振りで追っ払おうとするが1歩また1歩とジリジリと迫る猫・・・。



このままでは埒があかん・・・!!ええいままよ!!と猫を抱えてその場を離脱しようとした時だった。



「ズビッ・・・。ひっく・・・あ・・・・、ま・・さか新山にいやまくん?なんで・・・こんなとこにいるのかな?」



猫を持ったままびくりと肩を震わせ、ゆっくりと後ろを振り向く。


そこには予想どおりの人物が、目元を赤く腫らして鼻をズビッと啜る姿があるではないか・・・!


「い、いやあ。き、奇遇だなあ。夏宮さんこそどうしたの?そんなに目と鼻赤くなちゃってもしかして季節外れの花粉症・・・??」



うっほほおおおおい!!!バレちゃったじゃねえかああ!!!


全力の笑み(苦笑の類だが)を浮かべて、HAHAHAと冷や汗なのか猛暑なのか分からない汗をかく俺を手元で涙を拭う夏宮はジッと観察するように見つめてくる。



「ふーん・・・。ねえ?新山くん。正直に答えて欲しいんだけどここでのやり取り見てたでしょ?」

「いや何を言ってるかさっぱりワカリマセンネェボクァ」

「へえ・・・。しらを切る気なんだ?そうなんだ・・・・」


ネットリとした視線が向けられるが、このまま彼女を見ているとボロを出しそうになるので、スッと視線を外し視線攻めから逃れていると彼女は自虐的の様にふふふと笑みを浮かべる。


「私ね古川くんと今日から付き合うことになったんだぁ・・・♪」

「いやいやいや!!いまさっき振られて泣いてただろ!!どんなメンタルしてんだよ!!」


その言葉に条件反射なみの速度で、そう答えてしまった俺はしまったっと思わず額に手を置く。


「あはははははは。やっぱりみてたんじゃあん・・・・!!」


ああやってしまった。


日頃からある人の影響でツッコミばかりしていたおかげか、ボケに関するツッコミを無条件に発動してしまった自分が憎い・・・・!


てかこっわあああ!夏宮さん目のハイライト消えてるよぉ!!そんなゆらゆら近づいて来ないでぇぇぇぇ!!!


まるで幽鬼の様な立ち姿で、口元に大きな笑みを浮かべるその姿は都市伝説に登場しても可笑しくないくらいに怖い。



「キシャアアアアアアアアア!!!」



その恐ろしさは今まで大人しく小脇に抱えられていた猫様が大きく威嚇して、その場から逃走するくらいなのだから相当だろう。


「ひいいいいい・・・!!!」



いつの間にか手の届く距離にまで近付かれ思わずヒステリックな叫び声をあげると、夏宮は俺のネクタイをギュッと握って黒百合の咲くような笑みを浮かべた。



「折角だし近くのワックでも言ってお話しようかあ??」



嫌なんて答えはそこに存在せず・・・。ただただ頷く事しか出来なかった俺こと新山にいやま りく 17歳は・・・、まるで首輪に繋がれた犬の如く、夏宮に引っ張られる形で足を進める。



そういえば最近・・・、読んでるライトノベルに彼女の様に恋のライバルに破れた乙女達の事を表している描写があったな・・・。



そう彼女らは総称としてこう呼ばれていた筈だ・・・。


【負けヒロイン】と・・・・。

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