第52話 畠山 定信 出張に出る

彼が出社しませんっ!なの。

もう今週も終わるのに…何か有ったのかしら?


あのブスは毎日出勤して、帰宅して…。

ん?

そういえば、あのブス…今週は毎日定時で帰宅していたの。


 ひょっとして、彼は流行病に罹って、あのブスが看病しているの?

 …なぜかしら、私イライラしているの。


 ◇ ◇ ◇


~アカリ視点~


 今週の私は忙しい。

 サダノブが出張したのは、今週はじめの日曜日。

 サダノブの抱えている本社業務支援とシステムガードを定時までに事務所で片付けるのが、私の仕事その1。

 

 帰宅後はサダノブが入っている作業の支援プログラムを走らせないといけない。

 外部に居るサダノブでは、本社へのアクセスは容認されないため、自宅から社外共有サーバーへアクセスすることで業務サポートに入る、私の仕事その2。


 家事はユカリちゃんに頼みっぱなしになってしまうんだけど…たぶん大丈夫…かしら?


 さてさて、今日もそろそろ連絡が入ってくる頃ね。

 自室のワークステーションを起動させると、早速サダノブから諸々の情報がてきている。

 ヘッドセットを被り、データの閲覧に入ります。

 相も変わらず海外からの攻撃が賑やかなものです…いつもの事ながら、その大半が近所からというのが、どうにも笑えてしょうがありません。

 ただ、気掛かりなことが一つ見えてきています。

 それは、攻撃者の手口が複雑化していること…Aiを利用しているとは言え、手の込んだ仕業はAiの使用を勘案しても、ちょっと複雑です。

 揺動作戦、並列変則など、およそAiを用いるにしては、無駄に手間のかかる手段さえ取ってきています。


「いよいよ、本腰入れて人海戦術に傾倒したのかしら?

 でも、Aiのような振る舞いも見え隠れしてるのよねぇ…。」

 独りごちっていると、謎のEメール一通が目に入ってきます。


『From 桂子

 To 定信さん


 お元気ですか?

 最近お見受けしてませんので、心配になりメールを差し上げた次第です。

 ご自愛頂き、一日も早く復帰されることを心から願っています。』


 私とサダノブ、二人揃って発した言葉は一つ

「桂子って、誰?」


 他のトラブル処理を優先しなければなりませんので、この一件は保留というゴミ箱へ直行です。


 そして、日々は流れ、ようやく明日 (金曜日)にサダノブは帰ってきます。

 連日カンヅメ状態だったでしょうから、帰ってきたらユカリと一緒に甘やかさないといけませんね。


~サダノブ視点~


 一日が…終わらない。

 片付けた筈の仕事がゾンビのように蘇ってくる。

 事の発端は、一つのウィルスファイルトロイの木馬を開封してしまったアホな事務次官の話である。

 文句を言えばキリが無いので、途中の話は端折る事として、このウィルスが潜り込んだ先が事務次官アホのメーラー。

 アホであっても、事務次官という役職だから、やり取りをする部署は半端ではない!

 官庁内は勿論、国会議員に政府・内閣官房…はては、地方の料亭まで、まぁまぁ手広い連絡先を誇っている。

 そこに向かってのウィルスファイルトロイの木馬付きのメールの拡散をやりやがったのだ…勿論ウィルス自身が。

 このウィルスファイルトロイの木馬の面倒くさいところは、経路上に自分の分身を置いていくのだ。

 ご丁寧に、ゲートを通過する度に自己複製を置いた挙げ句に、そこを通るメールに勝手に引っ付いてまわるというオプション付きだ。


 この一週間は、ひたすらコイツを潰すだけの日々となり、それこそを繰り広げていたのだ…勿論人海戦術は出来ないので、助っ人aiDollたちを動員して…そして、この助っ人aiDoll動員が混乱に拍車をかけることとなった。

 そう、一部の助っ人aiDollがこのウィルスファイルトロイの木馬に感染してしまい、止む無く機能停止に追い込まれたのだ。

 お陰様で睡眠時間は削られるわ、アキラの応援に頼りまくるわ…本当に最悪・最低の一週間になってしまいそうだ。


 追伸

 事務次官アホが更迭されました。

 原因はくだんウィルスファイルトロイの木馬付きのメール。

 オレが作成した報告書が官庁内で広く流布された挙げ句、大臣の目にも留まったのである。

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