第50話 退社の時間

 今日も一日ご苦労様っ!なの。

 終業のチャイムが鳴ると、事務所から飛び出し三々五々帰っていく社員達。

 でも、私のお目当ての彼と、あのブスはなかなか出て来ないの。

 

 やがて残業の開始を告げるチャイムが鳴ると、忙しなく動き始める社員達。

 夜は深まる中、一人、また一人と帰っていく社員。

 でも、彼とあのブスは出て来ないの。


 …そして、深夜勤務を知らせるチャイムが鳴ると、ようやく二人が事務所から出て来るの。

 何かを語り合いながら、私の方に手をかざして二人は事務所を後にするの。

 今日も、あの二人が最終退出者なの。


 さて、報告書を上司に提出する時間なの。

 え~っとぉ、皆さん体調不良もなさそうで、全員帰宅されました。

 備忘録として、いつもの二人が今日も最終退出者…なの。


 ◇ ◇ ◇


「あ~ぁ、たまには定時で上がりたいよなぁ~。」

 わざと聞こえるように愚痴るオレ。

「無理に付き合わなくてもいいのよ、サダノブ。」

 ヘッドセットを被ったままのアキねぇの口元が優しく動く。


 オレの名前は畠山 定信!

 今日も今日とて、システム管理の終端作業にオレは追われ、アキねぇは終業前のトラップ準備に余念が無い。

 まぁ、これだけ準備していても、システム侵入が起こるのだから困ったものである。


 さて、聞き慣れてしまった『深夜勤務を知らせるチャイム』を合図に、オレたちはシステムのシャットダウンを行う。

 システムはタイマー起動になっているので、朝になれば勝手に動き始めてくれる。


 荷物をまとめ、明日の段取りをアキねぇと打ち合わせながら、オレたちは帰路についた。


 ◇ ◇ ◇


「おかえりなさ~い。

 今日もお勤めご苦労さま。」

 帰宅したオレたちを玄関先で出迎えてくれるのは、妹のゆかり。

 エプロン姿も真新しい、可愛い妹の笑顔に答えかけると、アキねぇが後ろからオレを押してくる。


「ただいまぁ~、ゆかりぃ。」

「アキねぇもお疲れ様ぁ~。」

 オレは玄関口で押し倒され、義理の姉妹ユリの世界が手に手を取り合って接吻を…。

「だぁ~~!!

 そんなのは後々!

 さて、ゴハン、ゴハン!」

 オレは二人の邪魔を済ませ奥に入り、姉妹は憮然としてしまう。

「いいでしょ!

 奥さん二人も貰ってるんだからぁ~。」

 姉妹は口を揃えて文句を返してきた。


 アキねぇは、オレの婚約者であり、ゆかりと義理の姉妹になるのはまだ良かった。

 問題はユカリの方、彼女は実の妹なのだがオレの婚約者…いわゆる近親婚というやつだ。

 つまりオレは重婚する上に、一人は兄妹婚という、何をどう考えても問題だらけの男になるはず…だった。


「だって、私男性アレルギーでお兄ちゃん以外受け入れられなぁ~~い!」

「私もユカリちゃん抜きの性活なんて考えられなぁ~~い!」

 ユカリが百合に走ってしまった直接の原因はともかくとして、ユカリがアキねぇを落とした挙げ句、辻褄合わせのように結婚する羽目になったのはどうなのだろうか?


 一見すると問題だらけのオレたち夫婦なのだが、社会的にはノープロブレム処理されている。

 原因は「自国民増産政策しょうしかたいさく」という政策。

 こいつのお陰で、あらゆるタブーはおざなりになってしまい、結果、現在のオレたち夫婦の形が生まれている。

 まぁ、それでも世間体では異常であることに変わりはなく、オレたちは慎ましく日常をおくるようにしている。


 なお、ユカリは現在「学生」身分のため、正式な婚姻は認められていない。

 という訳で、ユカリが学校を卒業したところで、三人揃って婚姻届を提出し、夫婦になる手はずとなっている。

 まぁ、フライング気味の夫婦生活は営まれており、いつアカリかユカリ姉妹が妊娠してもおかしくない状況ではある。

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