第49話 お昼ランチと与太話

 お昼のチャイムが鳴りました!なの。

 この会社のみんなは、社内に食堂があるのに、近所の食堂に出かけてしまうの。

 やっぱり食堂のご飯は不味いのかしら?なの。


 そして気になる彼も、あのブスと外食に出かけるの。

 社員証をかざし、楽しそうに談笑する二人は玄関を出ていったの。

 

 どんな話をしてるの?

 私も混ぜてほしいの。


 ◇ ◇ ◇


 オレの名前は畠山 定信!

 オレの務める会社の食堂は、はっきり言って『高尚』過ぎる。

 つまり、味よく・品よく・大人しく、というお作法が必要なところなのだが…オレの性に合わない!

 ってなわけで、昼食は近所の食堂で定食を食べるのが常なのである。

 アキねぇは、始めこそオレに付き合ってくれていたのだが…最近は彼女のほうが熱心なのである。


 いつもの店の暖簾をくぐり、お目当ての席にアキねぇと向かい合って座り、日替わり定食を注文する。

 お冷とお通しを突き始めると、アキねぇが話し始める。

「聞いた話なんだけどね…。

 私たちが使ってる『ID読み取り兼タイムレコーダー』にね『aiDoll』が採用されているんですって。」

「何のために??」

「さぁ~~。」

 彼女が両手を軽くあげて、ワカンナイのジェスチャーをする頃、二人分の日替わり定食がテーブルに並べられていく。


「たぶん、デモンストレーションじゃないかしら?」

「何のために??」

「さぁ~~。」

 今度は食事中のため、利き手じゃない方の手を軽くあげて、ワカンナイのジェスチャーをするアキねぇ


「体調のモニターとか、機嫌のモニターとか…あと、恋愛模様のモニターとか?」

「そうかも知れないわね。」

 オレとアキねぇは苦笑しながら、残りのオカズを平らげた。


「でも、『ID読み取り兼タイムレコーダー』に『aiDoll』を採用するって…何をしたいんだろうね?」

「まぁ、取引先直々のお願いっぽいわね。

 そう考えると、デモンストレーションという線は当たらずとも遠からじって気がするのよねぇ。」

「ふ~~ん。

 まぁ、目的がよく分からないんじゃ、推理のしようもないけどね。」

「そうねぇ…。

 案外、人間観察が主な目的だったりして?」

「そんな馬鹿な…。」

 オレとアキねぇは席を立ち、おアイソを済ませ、事務所への帰途についた。


 ◇ ◇ ◇


 しかし、訳がわからない。

 『ID読み取り兼タイムレコーダー』に『aiDoll』を採用したところで、得るものなんてあるのだろうか?

 これでも一介の技術者、『aiDoll』の何たるかは知っているつもりだが、それを踏まえても…分からない。


 余程、健康管理支援などと言ってもらえると納得できるのだが…。

 『aiDoll』の取り込めるデータの規模と深度は把握することが出来ない…拡張を重ねた結果、設計した人でさえ把握が困難になっているのだ。


 まぁ、考えたところで始まらない。

 取り敢えず、仕事をこなす方が先だ。


 事務所の席に座り、日課のシステム管理、更新の作業に入るオレ。

 アキねぇはヘッドセットを装着すると、二つのキーボードを駆使して防壁の構築に入る。

 そう、俺達の仕事は、自社システムの安定稼働と外部侵入の阻害である。


 便利な世の中にはなったが、便利になったが故の問題も多くなってしまったのである。

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