第46話 おじいちゃんのドライブ

『結局、コノヨウナ形デ落チ着キマシタカ。』

 久々に表に出てきたプログラムが、運転席のおじいちゃんに話しかけてくる。


「そうじゃな。

 まあ、今度のミッションはコミュニティ交通システムの実証も加わったがな。」

 おじいちゃんが笑顔で答え、笑顔のおばあちゃんも助手席で頷いている。


『デハ、暫クノ間オ世話ニナリマス。

 マア、私ガ表ニ出ルコトハ無イデショウ。』

 しばしの沈黙が流れた。


『それでは、出発しましょうか?』

 聞き慣れたアナウンスが戻ってきた。


「では、行きましょうか?

 おじいちゃん。」

「そうだな。」

 買い物の時間がやって来たのです。


「頼んだぞ、アローナ。」

『了解です。

 それでは、レベル4自動運転を開始します。』

 おじいちゃんがハンドルを握ると、自動車アローナは答えた。

 運転席を中心に車窓には、あらゆる象形模様が表示される。


「進行方向に問題は無いようだな。

 側道の歩行者も無し!

 ヨシッ!

 出発だっ!」

『了解しました。』

 アローナは緩やかに自宅の駐車場を出発した。


 今日の買い物先は、冨永夫妻の住まう町が運営する道の駅である。

『コミュニティ交通システム』の実証と『レベル4自動化運転』の実証を兼ねたお買い物となった。


 ◇ ◇ ◇


 書類手続きを済ませた後、おじいちゃんは改めて役場への招集を受けた。

 そこで提示された事が『レベル4自動化運転』の実証承認とともに、『コミュニティ交通システム』の自動運転実証への参画である。


 役場の商工企画課長と商工会会頭が列席する中、おじいちゃんは話をしている。


「ところで、『コミュニティ交通システムの自動運転実証』とは、何なのですか?」

「これはですねぇ…」

 おじいちゃんの質問に答えて、課長が説明を始める。


「現在、町内を巡回するコミュニティバスの導入を検討している最中です。

 機材のメドは付いてきたのですが、昨今の運転手不足も手伝って、手詰まり状態になっていたのです。」

「それで?」

「今回の相談がきっかけとなって、手詰まりが開放されそうなのです。」

 おじいちゃんの不思議そうな顔に、満面笑みの課長と会頭。


「つまり、冨永さんのご協力を頂ければ、こちらも大助かりなのです。」

 課長が答える

「はぁ…。」

 気のない返事のおじいちゃん。

「くれぐれも、よろしくお願いしますよ。」

 会頭が、そんなおじいちゃんに握手を求めてくる。


 ◇ ◇ ◇


 ここは、くだんの道の駅、その駐車場。

『複雑な心境です。』

 アローナが運転席のおじいちゃんに語りかけてきた。


「そうかい?

 面白いじゃないか。」

『オ・モ・シ・ロ・イ??』

 今日の買い物は、おばあちゃんが単独ひとりで行きたいとのお願いで、おじいちゃんは居残りになってしまった。


「私達はモルモット実験体かもしれないが、私達の通った後に、自動運転化みちが出来てくるのだから、悪い話じゃないだろう。」

『そうですね。』

「それに…。」

『それに?』

 そう言って、おじいちゃんが外を眺めると、買い物袋を下げたおばあちゃんがこちらに向かって歩いてきている。

 ドアを開け、慌てておばあちゃんを迎えに行こうとするおじいちゃん。

「楽しみが増えたからね。」

 そう言い残しておじいちゃんはドアを締めた。


『面白イ…デスカ。』

(そうですね。

 でも、面白いとは、どういう感情なのでしょうか?)

『人ノ感情ハ複雑デス。

 面白イトイウ言葉ハ、特ニ複雑ダ。

 恐ラク、一ツノ言葉ニ256モノ意味…感情ガ含マレテイル。』

(そ…そうなんですか?)

『…冗談ダ。』

(…何だか、人間ぽくなりましたねぇ。)

『照レル。』


 ドアが開き、冨永夫婦がアローナに乗り込んでくる。

 おじいちゃんがハンドルを握るとアローナaiDollは問いかけてきた。

『このまま、帰宅されますか?

 それとも、ドライブを楽しみますか?』

 おばあちゃんは、買い物袋から飲み物を取り出し、ニッコリと微笑む。


『それでは、風光明媚な丘を経由して帰宅しましょう。』

「それじゃ、頼むぞ、相棒!」

 おじいちゃんがハンドルを握る。


『了解しました。』

 運転席を中心に車窓には、あらゆる象形模様が表示される。

 アローナはゆっくりと駐車場を離れ、幹線道路に侵入して行った。

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