第45話 運転免許返上? 真の自動運転へ

「それでは私の指示に従って、コースを走行しましょう!」

 自動車学校の制服姿の女性が、助手席からおじいちゃんにハキハキと明るく声をかける。


「はい!」

 こちらも元気よく返事を返し、ハンドルを握るおじいちゃん。

 馴れた自動車アローナの運転も、自動車学校のコース、おまけに自動車学校の講師が助手席に座っていると、随分勝手が変わるようだ。


 ◇ ◇ ◇


 役所から郵送されてきた書類の内容は、おじいちゃんの発想の斜め上を行っていた。


 冨永 太陽様


 一般社団法人 自動運転推進機構


 ご連絡頂きました「脳梗塞発症」後の自動運転の支援について、ご連絡いたします。

 基本的には、今後も自動運転のサポートの元、自動車の運転を継続頂ければ幸いです。

 が、運転を継続して頂く上での運転の可否を判断すべく、下記の準備をお願い致します。


 1.当該症状「脳梗塞」について、主治医の診断書の提出をお願いします。

 2.近隣の自動車学校にて、運転実務の研修を受けて頂き、最終判定を受ける

 運転実務の判定に際しては「レベル4自動化運転技術プログラム」に対応したものを受講して下さい。

 なお、運転実務を受講される際には、自己所有の自動車を用いて下さい。

 3.免許証の運転事由が変更されますので、運転実務の研修受講後、免許センターにて免許変更の諸手続きを行って下さい。

 4.免許証の変更が終わりましたら、各種書類と同封しました「レベル4自動化運転技術プログラム移行申請書」をお住まいの自治体住民窓口へ提出して下さい。

 』


「もう、免許返上を覚悟していたんだがなぁ。」

 おばあちゃんと書類を眺めながら、首を傾げているおじいちゃん。


「とりあえず、指示に従ってみては、如何ですか?

 私としては、お出かけの度にタクシーを利用するのが、ちょっと悩ましくなってきましたし…。」

 おばあちゃんは、大きくため息をついた。


「分かった。

 やってみよう。」

 席を立つと、おもむろに電話口へ移動するおじいちゃん。


「え~~っとぉ~~、病院は…。」

 電話機横の電話帳をめくり始めるおじいちゃん。


「お茶を入れますね。」

 おばあちゃんは台所に向け、席を立った。


 ◇ ◇ ◇


 さて、自動車学校でも特殊なコースとされる「レベル4自動化運転路」。

 見通しのつかない壁面などは、あたかも市街中心部を彷彿とさせる道路構成だ。

 人形マネキンまでもが路上に配置されており、人の往来も想定した運転技能が要求される。


 アリーナも通常運転モードではなく、「レベル4自動化運転」モードになっている。

「レベル4自動化運転」モードへ移行すると運転席が様変わりしてくる。


 運転席正面ガラス、そしてルームミラーには象形模様が表示される。


「これらの象形模様は、それぞれに意味があります。」

 女性講師がおじいちゃんに事細かく説明を始める。


 一通りの説明が終わると

「それでは私の指示に従って、コースを走行しましょう!」

 女性講師が、助手席からおじいちゃんにハキハキと明るく声をかける。

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