第44話 緊急事態
~冨永
一月前の事ですが、主人が脳梗塞で倒れました。
幸い、主人の友人達が一緒に居てくれたおかげで、直ぐに病院ヘ向かい、処置も良かったので、大事にはなりませんでした。
ですが…。
「車の運転は、控えるのがよろしいでしょう。」
治療を担当された先生からの言葉に、主人はションボリしてしまいました。
そうです、私達の移動の足は、全て主人の運転にかかっていたのです。
近所にはコンビニさえ無く、ちょっとの買い出しも車が必要なのです。
「すまんな…。」
謝る主人の頭を撫でることしか、私には出来ませんでした。
アローナ君にも相談してみたのだけれど…。
『すいません、私にも良案が出てきません。』
まぁ、仕方有りませんね。
彼は運転のサポートをすることが主な仕事なのだから…。
通院中のある日、主人の通院に使っていたタクシーの運転手さんから提案を頂いた。
「もし良かったら、これから役場に向かいませんか?
ご主人の通院の手続きもそうですが、うまくすれば、タクシー券とかの受給も出来ますよ。」
その日のうちに役場で手続きを済ませると、即日タクシー券を頂けました。
主人の方も、タクシーの運転手さんとすっかり打ち解けたのか、私が役場で手続きをしている間、車内で盛り上がっていたようです。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、またのご利用をお待ちしております。」
私がお礼を言うと、タクシー運転手もにこやかに手を振ってくれました。
主人は何か収穫があったのか、アローナの方に行くと、早速乗り込んで、色々作業をしていました。
何をしていたか、よく分かりませんが、あんなに明るい顔の主人は久しぶりに見ました。
~冨永 太陽視点~
友人達と楽しく昼食を摂っていた最中、急な目眩とともに私は倒れてしまった。
だんだん意識が暗い淵に沈んでいくような奇妙な感覚の中、私の記憶はあやふやになり…。
遠くから聞こえる声に気がつくと、病院のベッドに寝かされており、隣には家内が嬉しそうな顔で私の顔を見ていた。
主治医から『脳梗塞』と言われ、運転は控えるように進められた。
覚悟していたこととはいえ、いざ、自分の身に降りかかると、いろいろと考えさせられてしまう。
幸い、タクシー券の発行を頂ける事にはなったが、それも利用回数には限度がある。
ちょうどタクシー券を紹介してくれたタクシードライバーが、障害者の運転支援プログラムが有るようなことを教えてくれたので、アローナに問い合わせてもらうことにした。
『分かりました。
主の要望に即した支援があるか、確認します。』
しばし、沈黙するアローナ。
待つこと10分ほど。
『確認できました。
しかし、いろいろと手続きが必要になります。』
「そうかい。」
とりあえず、答えがあったことに安堵した私。
『手続きの資料を取り寄せますので、ニ、三日お待ち下さい。』
「それって、郵送で書類が届くのかい?」
『はいっ!』
答えの中身を確認できるのは、もう少し先になりそうだ。
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