第43話 結婚記念日

 牧歌的な田園風景の中、のんびりと走るアローナ。


『目的地まで、約一時間です。

 しかし、運転持続時間が、やがて二時間に到達します。

 宜しければ、この先十分程度の所にある、道の駅での休憩をお勧めします。』

 アローナがラジオの音量ボリュウムを落とし、運転支援のアナウンスを行う。


「おじいさん、アローナの言う通りにしましょう。」

 おばあちゃんが、ニコニコしながらアローナの勧めに乗る。


「そうだな、手洗いにも行きたいしな。」

 おじいちゃんも、アローナの勧めに従い、進路を道の駅に設定した。


 若干足を早め、目的地道の駅に向かう、アローナだった。


 ◇ ◇ ◇


 先日の交通事故騒動で、行きそびれた買い物への道中。

 冨永夫婦は、或ることで悩んでいた。


「さてさて、今度の結婚記念日は何処に行こうかなぁ…。」

 ハンドルを握るおじいちゃんは、少々悩んでいる。

「そうですねぇ…。」

 おばあちゃんも、顎に手を置き首を傾けている。


『何かご要望などありますか?

 色々ありますよぉ。

 国立公園、アミューズメントテーマパーク、高級ホテルにレストラン、観光地から近所の公園まで…。』

 まぁ、漫談士よろしく流暢な言葉で、案内場所の概要を説明していく、何故かノリノリのアローナさん。


「アローナは物知りねぇ。」

 おばあちゃんが顎から手を話し、微笑む。

『照れます。』

 戯けてみせるアローナ。

 その反応に、一瞬驚いた後、吹き出してしまう夫婦。


 さて、ショッピングセンター目的地の駐車場が眼前に広がり始めた。


「とりあえず、買い物中に色々と考えてみるよ。」

 おじいちゃんが答える


『分かりました。』

 アローナが答える頃、ショッピングセンターの入口が見えてきた。


 ◇ ◇ ◇


 道の駅で、用を済ませ、ついでに土産物を購入したご夫婦。

 道の駅店舗の前まで来ると、アローナが二人を出迎えてくれる。


「「では、出発進行っ!」」

『はい。』

 二人の掛け声に合わせ、ゆっくりと動き出し、やがて道路本線に乗ったアローナ。


「しかし、温泉は久しぶりだなぁ。」

 窓を開け、窓枠に腕を置くおじいちゃん。

「ええ、」

 そんなおじいちゃんをニコニコと眺めるおばあちゃん。


『はい、今回の温泉宿は個室を準備しております。

 大浴場とは別に、個室にも温泉が引かれているようです。

 ご夫妻で存分にお楽しみ頂けます。』

 自慢気なアローナ。


「まあまあ、アローナちゃんは優秀ですね。」

 おばあちゃんが猫なで声で答えれば


『照れます。』

 本当にアローナは照れている、声色でそれと判るのだ。


 懐メロを背景BGMに、すっかり上機嫌の夫婦を乗せ、アローナは牧歌的な田園風景の中、温泉宿終点に向かって走っている。


「ところで、このラジオの選曲…。

 誰の趣味なのかしら?」

 おばあちゃんが不思議そうな顔をする。


「そうだなぁ…。

 何だか、昔デートしていた頃を思い出してしまうな。」

 苦笑いするおじいちゃん。


『…』

 アローナは誘導尋問には引っ掛からなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る