第41話 避難訓練
冨永家の住む町内会では年に一度の避難訓練が開催される。
さて、避難訓練の集合場所では、年配の方同士が集まり、三々五々に世間話に花を咲かせていた。
そして、この世間話しの俎上に上っている事こそ、冨永家の夫婦が目撃してしまった
交差点に侵入してしまったセダンに安全装備が積まれていなかった事も問題視されていたが、それよりも深刻に受け止められたのは、実は速度超過で交差点に進行してきたスポーツカーの方だったのである。
このスポーツカーには先進の自動運転機能が搭載されていた。
にも関わらず、これだけの事故を起こしている。
しかも、パトカーの追跡行動に疑問を呈する専門家も現れ、警察に対する疑念も生まれ始めていた。
そして、セダン側の
「あのスポーツカーのドライバーって、有名な方だったんでしょ?」
「そうなの?
それは知らなかったけど…。
むしろ問題なのは、彼が何かプラスチックゴーグルのようなものを着けて運転してたことでしょ?」
「ええ、私も見ましたわ、事故画像。
でも、外も見えない状態で、どうやって運転してたのかしら?」
「何でも、公道試験運転中の事故が起こったらしいわ。
事故調査委員会というところが、報告したんですって。」
井戸端会議というものは、虚構と迷言が溢れるばかりで、無用な不安を煽るばかりである。
まぁ、無理もない。
政府は真実を伝える事はなく、マスコミは適当な人間を神輿に担ぎ、それっぽい虚構を流しては、視聴率を稼いでいた。
ただ、事実は一つである。
速度超過を起こしたスポーツカーの
◇ ◇ ◇
さて、避難訓練に話を戻そう。
今回の避難訓練は「地震」から身を守る事を想定したものであり、避難先の広場には起震車もやって来ており、実際の揺れを体験することもできる。
そして、今回の起震車にはVRゴーグルも準備されている。
「今回は、地震の揺れを体験頂くとともに、視覚的、聴覚的にもどのような事が展開されるのかを体験頂きます。」
消防署職員がにこやかに話している。
さて、起震車を体験する人々。
最初は遊園地のアトラクションでも楽しもうとするかのように、人々は家族単位で起震車に乗り込む…のだが、VRゴーグルを掛け、実際に揺られるて下車する頃には、誰もが無言で顔が青ざめていた。
まぁ、大きなリアクションだと笑う豪傑達も居たのだが、そんな彼らこそ、顔は青ざめ、千鳥足で起震車から降りてくるのだった。
いよいよ、冨永夫妻も搭乗することとなったが、VRゴーグルを着けた瞬間、不思議な違和感に襲われる夫婦。
ゴーグルを着けたにも関わらず、見える風景がメガネを掛けていた時と同じ状態だった。
そこには、存在しない家具が設置されており、その錯覚に違和感を感じたのかもしれない。
いよいよ地震が始まり、震度は徐々に上昇を始める。
揺れる身体と風景を見ている中、フラッシュバックする
二人は揺れが終わった後も、しばらく起震車に佇んでいた。
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