第34話 おはようのクロさん

目を覚ますと、見慣れたリビングとカーペットが視界に入る。

ゆっくりと左右に首を振ると、恵ちゃんとご両親マスターも視界に入る。


「クロっ!!」

恵ちゃんが僕の首に抱きついてきた。


「どこに行ってたの?

避難警報が出てたのに、居なくなったし…。」

大粒の涙をボロボロ溢している恵ちゃん。


「みんな避難しないといけないのに。

クロはどこにも居ない!

…川もすごい濁流で、橋が流されかけてたんだよ!」

しがみついている腕に力が入る。


「怖かった…よ。

もう、何処にも行かないで!!」

わんわん泣き出してしまった恵ちゃん。


彼女が泣き疲れて眠り込むまで、彼女に身を任せることにした。


◇ ◇ ◇


ここは居間。

ご両親マスターの手前、箱座りしている僕。


「まったく、君は無理をする。」

お父さんは不機嫌そうな顔だった。


「そうね、何故あんなムチャをしたの?」

お母さんもいい顔をしていない。


「は…はぁ。

僕はどうなっていたんでしょうか?」

「「!!」」

僕の質問に絶句するご両親マスター


「そうだな…記憶が途切れているかもしれないからな。」

僕の覚えている記憶を確認した上で、僕が目覚めるまでの経緯をお父さんが掻い摘んで教えてくれた。


どうやら、ポンプ室の機能停止を確認したところで、機能を復元するために、電源を投入した上で、僕自身を電源ケーブルとして使ったようなのだ。

地下ダムのポンプを駆動させ、排水が始まったところに役所ボスの使者が地下ダムに駆け着けたらしい。

ポンプ室には、焼け焦げた上、機械がむき出しとなった僕と、駆動を続けるポンプたち。

ポンプが動いているとは言え、地下ダムは危険水位に変わりはなく、上流への降水も予想されたために、僕の指示通り、恵ちゃん達の住む住宅団地を含め、扇状の被害が予想される地域に対して、緊急の避難命令が発令される。

河川には、地下ダムから多量の濁流が流れ込み、避難命令の裏打ちとなっていた。


「本当に、びっくりしたぞ。

まぁ、避難は無事できたのだがな…。

お前のことを除いてな。」

お父さんに凄まれ


「何を考えているの?」

お母さんにも詰問された。


「助けたかったんです…。」

「「助ける?」」

僕の答えに、ご両親マスターが首を傾げる。


「助けたかったんです。

恵ちゃんや、彼女のお友達を…。」

次の言葉で、息を呑んでしまうご両親マスター


「どういうことかしら?

ロボット三原則の問題なのかしら?」

お母さんがお父さんに視線を向ければ、


「そもそも、人助けと言っても、人間の作業を補助することがメインのはず…。

今回の行動は、私達には理解できない。」

お父さんも考え込んでしまう。

お母さんもお父さんの顔を覗き込みながら不安そうな顔をしている。


「僕がが、そんなにおかしい事なんですか?」

僕の声に、ご両親マスターがこちらを見る。


「「そもそも、飼い主を心配する機能は与えていない!」」

そう答え、あれやこれやと専門用語を並べ、僕の前でお互い口論を始めるご両親マスター


とりあえず、充電の心配もあるので、玄関先に移動し、いつものポジションに座った僕。

ちなみに、ご両親マスターは、僕が消えたことに気づくこと無く、喧々諤々の論争を続けている。


「クロ。」

住宅aiBotの無機質な声が、無線越しに語りかけてくる。


「何だい?」

「飼い主を悲しませてはいけません。

恵さん、大泣きしてました。」

住宅aiBotに叱られるとは思ってもみなかったが、素直に答える事にした。


「わかったよ。

ありがとな。」

僕の返事に無言で答える住宅aiBot

どうやら、彼も恵ちゃんの心配をしていたらしい。

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