第31話 クロの世界

「ただいまぁ~。

 おかえりなさ~い。」

 独り言のように声を出して帰宅した恵ちゃん、靴を脱ぐと奥に入っていく。


「室温20度 湿度65% 不快指数15% 快適です!」

 住宅aiBotの報告を受け僕は玄関で箱座りをする。


「いっただきまぁ~~~す。」

 奥のキッチンから元気な声が聞こえてくる。


「本日の夕食は、おろしハンバーグにパンプキンスープです。」

 住宅aiBotの報告は続く。


「ご両親マスターは、出張になられたそうです。」

 住宅aiBotの報告完了。


 僕は届いたメールの内容を確認していく。

 帰宅後の日課みたいなものである。

 まぁ、来るわ来るわ中継元役所からの自動返信メールの山。

 一通り目を通しておかないと後々面倒事になるので、ルーチンワークにてキーワード抽出を行いながら、通常から弾けそうなメールを選別し始める。

 …どうやら、本日も定型句のメールで終わってくれそうだ。


 さてさて、ご両親マスターのメールは…と。

 確かに、散歩中にメールが届いていたのは知っていたが、ご両親マスターは揃って出張が増えた気がする。

(まぁ、僕が『気がする』というのは、滑稽ですね。)

 自嘲気味に笑っていると、ほっぺにスープを付けた恵ちゃんが玄関にやって来る。


「ねぇねぇ、クロ。

 お部屋で遊ぼ♪」

 恵ちゃんに促されて、僕は応接間へ移動した。

 さて、床の上にはトランプが敷かれており、どうやら『神経衰弱』をやるつもりなんだろう。


「今日は勝つからね!」

 恵ちゃんは目を輝かせながら僕に語りかけてくる。

 …ちなみに、戦績は僕の負け知らずなのですが。

 痩せても、枯れても、僕って電算機コンピュータなんだよね♪


 ◇ ◇ ◇


「…また負けたぁ~~!」

 恵ちゃんが、頭を掻きむしって悔しがっている。

 まぁ、無理もない。

 僕には、カンというやつは働かないが、四分の一程カードが開けば、後は数学の世界だから、得意分野ということになってくる。


「ねぇ~~、クロぉ~。

 どうしたら、そんなに強くなれるの??」

 恵ちゃんが僕をジト目で見つめてくる。


「そうですね…算数が出来るようになれば、強くなれますよ!」

「さんすうは、きらい!!」

 僕の返答を、速攻で拒否する恵ちゃん。

 まぁ、仕方がない。

 小学生の勉強する算数というのは、ある意味苦行でしかない。


「う~~ん、恵ちゃんが高校生になったら、強くなれるよ。」

「ふ~ん。」

 僕の言葉に、今度の恵ちゃんは思案を廻らし始めた。

 その顔は、どことなく満足気である…恐らく、姉たちの姿を連想しているのだろう。


「さてさて。

 もう、お風呂に入って寝る時間だよ?」

「うん、分かった!」

 僕に促されて、恵ちゃんは立ち上がると服を脱ぎ始める。

 下着姿になると、お風呂に向かう恵ちゃん。

「クロもお風呂に入る?」

「いや、遠慮しておきます。」

 お風呂場から聞こえる、彼女の誘いをお断りし、玄関の定位置に移動することにした。


「ふ♪ ふふ♫ ふふん♬」

 お風呂場から聞こえる幸せそうな歌声。

 その楽しそうな歌声を聞きながら、いつもの場所に箱座りし、充電を兼ねた情報整理を始める。


 ◇ ◇ ◇


 さて、残りのメールをルーチンワークにかけるとしよう。

 本日拾ってきた情報をアンケートに答える様にテンプレートへデータを入力していく。

 終わった端から、入力が完了したアンケートを返信メールに添付、送信していく。


 まぁ、各々aiBot達がきっちり仕事をしているようで、安定の報告レポートが出来ている。

「明日も穏やかな一日だといいねぇ。」

 つい心の声が漏れてしまう…電算機コンピュータなのに。


「残念ですが、明日から天気は下り坂のようです。

 山間部では、もう雨が振り始めているようです。」

 僕の愚痴を聞いて、丁寧に答えてくれる住宅aiBot


「え~!!

 明日の体育はサッカーだったのに…。」

 お風呂場から、楽しそうな歌声は消え、残念そうな悲鳴が聞こえる。


「それは、残念です。」

 気のない返事を返す住宅aiBot


対人返答この部分は、改造の余地有り…と。)

 住宅メーカー向けのアンケートに一筆添えて、メールを返信してやった。

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