ペットは好きですか?

第28話 クロが行く

 夕陽が赤く染まる黄昏時、犬と少女が河川の堤防に置かれた自転車道を散歩している。

 ランニングをしている人々と会釈を交わし、自転車に乗った女生徒たちに目をキラキラさせている少女。

 目線は、少女の引き連れている黒犬にズームアップする。


 ◇ ◇ ◇


 僕の名前は『クロ』。

 犬型の愛玩人形aiDollで、人間飼い主と対話も出来る優秀な黒柴ペット

 隣を歩いているのは、僕の飼い主、『戸田 恵』ちゃん、小学四年生。

 戸田さんは、ご両親と三人の娘さんが居られます。

 恵ちゃんは、末娘さん。

 二人のお姉さんは、もう大学生で自宅を出ていって…だから、年上の女性とを見ると憧れがあるんだと思う。


 閑話休題

 僕に散歩は必要ない。

 強いて言えば、恵ちゃんを外へ連れ出す口実でしか無い。


 元々引っ込み思案だった恵ちゃん。

 僕が貰われてくるまでは、お姉さん達と三人で公園に行って遊んだり、今歩いている堤防の麓に降りては、花を摘んだり、川まで行って水遊びに興じていたりしていたようだ。

 僕が彼女のところに来た時、お姉さん達は高校進学とともに、自宅から離れた、高校の学生寮に引っ越した後だった。

 ご両親は共働きで、家をあけることが多かったようで、娘の身辺管理と情操教育を兼ねて僕がここにやって来たのだ。


 年の離れた末娘さんという事も有り、ご両親も大変心配されているらしく、定期的に僕宛の通信メールが送られてくる。

 もっとも、恵ちゃんは小学校に通っているので、僕の管理担当は、学校から自宅まで、そして、ご両親が帰宅されるまでの間となっている。


 ◇ ◇ ◇


「ねぇ、クロ。」

 恵ちゃんが、僕に話しかけてくる。


「どうしました?」

 そう言って、彼女の方に顔を向ける、ペットらしい仕草で。


「今日の晩ごはんは何かなぁ?」

 恵ちゃんは立ち止まり、目をキラキラさせている。


「そうですねぇ…。」

 お母様からは、一週間分の献立を承っており、食料宅配業者ウーバーイー○の段取りも滞りなく済ませている。

 考えるように小首を傾げ、少し焦らしてから彼女に答える。


「今日は肉じゃがですね。」

「本当~~!

 じゃぁ、急いで帰ろう♪」

 恵ちゃんは、肉じゃがが大好きだ。

 答えを聞いて、スキップを始める恵ちゃん。

 遅れないように歩幅を併せて、僕も彼女に付いていく。


 住宅aiBotに連絡を入れる。

(お嬢様が15分程で帰りますので、夕食の準備を始めて下さい。)

(了解デス。)

 僕の通信に冷淡に答える住宅aiBot

 まぁ、aiBotは住宅の空調から料理品の準備など、特定の処理を淡々とこなす、人型ではない人形aiDollなのだから、会話も定形になってしまうのだろう。


 堤防を下り、交通量の多い道路で歩道の信号が変わるのを待つ。

 帰路につく車の流れに少々焦らされ気味の恵ちゃん。


 信号が青に変わったところで、急に走り出そうとする恵ちゃんを静止し、車の往来が無くなった事を確認した上で、安全に道路を渡る僕と恵ちゃん。

 道路を渡ると、そこには住宅街が広がり、彼女の自宅もこの中にある。


 路地を曲がると、目的地自宅に到着である。


「ただいまぁ!」

 彼女の声に呼応して玄関の扉が開く。


「お帰りなさいませ。」

「うん!」

 住宅aiBotの音声に頷き、自宅に入っていく恵ちゃん。

 玄関で靴を脱ぎ、食堂に入っていった。


 僕は、充電器に身体をつなぎ、玄関で箱座りをして小休止に入る。

 まぁ、食後に恵ちゃんから呼ばれるだろうから、電源を落とす訳にはいかない。

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