第26話 殺害の瞬間

「引くわぁ~~。」

 桑原嬢の大変冷たい視線を一身に浴びる工藤警部補中年オヤジ

 向かい合った席で、資料の整理と情報のすり合わせをしている二人。


「その、淫欲性交型グリーンレフトから機械のくだりが、どうすれば被疑者あやめを人間と規定出来るのでしょうか?」

 不愉快極まりない桑原嬢。


「まぁ、逢瀬が激しくなるわけだよな…感度も良くなるし…。」

「下品です、工藤さん。」

「…悪かったな、下品でよ。

 話し続けるぞ。」

 不服そうな桑原嬢を後目に話を進める工藤。


「逢瀬を続けるうちに、彼らの腕に付いていた機械に『記憶』が蓄積されてしまい、そこが起点となって人格が形成されたと思われる。」

「SEXし過ぎて人間になるなんて…淫らね。」

 工藤の解説に呆れ顔の桑原。


「俺もあまり理解できている訳ではないんだがな…。

 人格の形成を人間が生まれたというのであれば、そうなのかもしれないな。

 逢瀬を重ねる度に、お互いの記憶が被疑者あやめの右腕に蓄積される。

 やがて、それが被疑者あやめ被害者野島の特別へと押し上げていった。」


「お互いの意識を共有したことも、一役買ったのかしら?」

「恐らくな…。」

 解説に桑原が相槌を打てば、工藤も答え返す。


「そして、第一発見者大塚が彼らと関わり合う頃には、被疑者あやめの人格も安定していたと思われる。」

第一発見者大塚さんが、二人を意識していたのも頷けるわけだ。」


 そして、被害者野島が絞首される場面の再生が始まる。


 ◇ ◇ ◇


「…」

 首を絞め上げられ、虚ろな瞳で被疑者あやめを見つめる被害者野島


「なぜ?

 なぜ、私を見捨てられるのですか?」

 被疑者あやめ被害者野島に問いかけている。


「これほど、貴方をお慕いしておりますのに!」

 被害者野島の顔が恍惚な笑顔に変わっていく。


「判っていただけますか?

 この身体も心も、全て貴方のもの。

 私の全てを貴方に!」

 被疑者あやめが語り終わる頃、被害者野島は息を引き取る。


「ああ、なんということでしょう…。

 貴方が…貴方が消えてしまう。」

 被疑者あやめが悲鳴をあげると、突然画面に表示される『emergency!』という赤い文字。


 被害者野島を実験室に移動させ、手早く頭部を切り離し右手に繋がるケーブルを脊椎に刺していく被疑者あやめ

 血が滴る頭部を抱えあげる被疑者あやめ


「無い…。

 貴方と私の記憶が…。」

 焦る被疑者あやめの声、画面に表示され続ける『emergency!』という赤い文字。


 そして、被疑者あやめが事切れる直前に画面に表示される。

 被疑者あやめの瞳に映る被害者野島が口づけを交わすべく近づいて行き…。


「ゲームオーバー。」

 工藤の言葉で動画は停止する。


 ◇ ◇ ◇


「普通であれば、首に手をかけようとしたところで停止ハングアップを起こすところだがな。

 逢瀬のいたずらが、そのカセを引き下げてしまったのだろう。」

 工藤が説明を続ける。

「危険な現象ね…対策が必要そうだけど…。」

 桑原が眉間を抑える。


「そうだな。

 …で、絞首に至ると、ここで被害者野島の体内でアドレナリンが溢れかえる。

 死という事態に身体が反応したと思うのだが、これを『快楽』と勘違いした被疑者あやめは、視野の共有を図りながら絞首を続ける。」

 工藤が仮設を進める。

「それが…暴走の原因…。」

 桑原が真剣に思考を始める。


「そして、被害者野島が息を引き取り、ロボット三原則が発動する。」

「ええ。」

 工藤に相槌を打つ桑原。


「しかし、緊急事態emergencyを情報の欠落と勘違いした被疑者あやめは、直接情報を取得すべく…」

被害者野島の首を跳ね、ケーブルを接続し、情報を維持しようとした…。」

 工藤と桑原が頷く。


「きっかけは、助手の登場による痴情の縺れが原因だった。」

 桑原が目を輝かせる。

「猟奇的な遺体損壊の理由は、単純にお互いの繋がりを維持したいという欲望に起因する。」

 工藤も声が上ずっている。


「やはり、これは『人間の手による殺人事件だった』と結論付けられる。」

 同じセリフを吐いて、二人は拳を握り、ガッツポーズをする。

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