第25話 カラクリ

彼女あやめから嫉妬されるって、第一発見者大塚さんは答えてましたね。」

 自分達の行った、第一発見者大塚の事情聴取の録画内容を確認している桑原。

「そうだな。

 つまり、第一発見者彼女が野島助教の研究室に務めだした頃には、人形あやめの所作は人間と変わりなかったということかな?」

 桑原の隣に座りタバコを咥えている工藤。

「そうですね…。

 人間臭い一面が存在していると言ったほうが良いかもしれませんね。」

 そう言って、桑原が一束の書類を工藤に手渡す。

「これは?」

「犯罪心理のプロが見立てた、殺害に至るまでの心理プロセスのレポートです。」

「ほうほう。」


 桑原からくだんの書類を受け取り、注意深く内容を眺め始める工藤。

 しばしの沈黙が流れる中、桑原は事情聴取の録画内容の確認を続けている。


「やはり、『痴情の縺れ』が犯行動機と判断されたようだな。」

 工藤がタバコを灰皿に置く。


「ええ、第一発見者彼女の証言とも一致しています。」

 桑原は事情聴取の録画画面を眺めている。


 工藤はゆっくりと席を立つ。

「工藤さんどちらへ?」

「鑑識さんのところさ。」

 桑原は振り返ることはなく、工藤も気にする風もなく鑑識課へ移動して行った。


「いよいよ、核心に踏み込めそうね。」

 桑原嬢は画面を見ながらニヤリと笑った。


 ◇ ◇ ◇


「確かに、この機械は腕の神経節に接続されていますね。

 これは、被害者野島被疑者あやめも同じ状態でした。」

 工藤の前で、鑑識課の職員が解剖画像を見せながら、書類を読み上げている。

 次の頁をめくる鑑識課職員。


「ああ、確認願えますか?」

 そう言って、画面を切り替える鑑識課職員。

 画面に表示されたのは、被疑者あやめの右腕から背後にかけての裸体ヌードである。

 右腕からは機械が取り外され、機械と腕をつなぐケーブルがむき出しになっている。

 指示棒を取り出す鑑識課職員。


「この機械との接続部分はもちろんですが、脊椎のところも確認して下さい。」

 指示棒で首と肩の付け根を示す鑑識課職員。

「ここです。

 手術の跡が確認できると思います。」

 工藤が頷くと、指示棒をしまう鑑識課職員。


被疑者あやめを分解したところ、視覚中枢と腕から通ってきた信号線がここで接続されていたんです。」

 そう言って、略式図面を工藤に見せる鑑識課職員。


 続いて、画面に表示されたのは被害者野島の遺体頭部。

 鑑識課職員が話を続ける。

「先程の事を踏まえたところで、こちらを確認して下さい。」

 切断された首、脊椎部分には多数のケーブルが刺さっている。

「このケーブル達の根本は、被疑者あやめの右腕の機械に接続されていました。」

 鑑識課職員は話を続ける。

「ここからは、犯罪心理からの意見を踏まえた私達の仮設です。

 これは、被疑者あやめ被害者野島の心を覗こうとした形跡ではないかと思うのです。」

 工藤が首をすくめてみせると、鑑識課職員も苦笑いを浮べた。


「私達の鑑識結果は以上ですね。」

「お世話になりました。」

 お互いにお辞儀を済ませ、工藤は自席に戻り始めた。


「…正直、こんな事を真に受けるのは特殊事件捜査室彼らだけだよ。」

 鑑識課職員は目を細め、工藤を見送った。


 ◇ ◇ ◇


 廊下を歩きながら鑑識の資料を確認している工藤。

「この機械が…原則を掻い潜るきっかけになったのか?」

 途中の喫茶コーナーでコーヒーを飲み始める工藤。


「よぉ、工藤!

 お疲れちゃん!」

 声の方に顔を上げる工藤。

 視線の先には安部腐れ縁が、満面の笑顔で立っている。

 工藤が促すと、隣でコーヒーを飲みだす安倍。


「で?

 どんな塩梅あんばいよ?」

 安倍はコーヒーを美味しそうに啜っている。


「ああ、機械の性能もなんだが…何で人形aiDollに自我が生まれたのか…そこが解らなくてなぁ。」

 工藤がコーヒーを啜る。


「機種…と言っても、お前さんの守備範囲外だったな。

 今回の被疑者あやめは、元々、非性交型オレンジライトだったんだよ。

 まぁ、非性交といっても、夜伽は出来るんだけどね。

 …話を戻そう。

 今回の被疑者あやめは、非性交型オレンジライトから淫欲性交型グリーンレフトに改装されたみたいなんだ。」

 コーヒーカップを机に置く安倍。


「所謂、不正改造品を被害者野島は掴まされたのさ。

 もっとも、研究資金の援助がセットになっていたのだから、彼が断る理由はなかっただろうけどね。」

 コーヒーカップを覗き込む安倍。


「どうして、そんな事が…。」

 工藤がコーヒーカップを机に置く。


「映像を見てもらった通りさ。

 性的趣向としては、これ程楽しいものは無いからね…風俗の世界は奥が深いのさ。」

 コーヒーカップをゴミ箱へ捨てる安倍。


「何がどう違うのか、よく解らないんだが…。」

 憮然として、コーヒーカップを振り出す工藤。


「簡単なところで言えば、乳房や生殖器の入り口に感圧センサーが付けられ、そこから信号が届く。

 …あとは、あんたの性知識が答えを埋めてくれるわけさ。」

 そう言って、ウィンクすると安倍は自席に戻っていった。


「性知識…ね。」

 工藤もコーヒーカップをゴミ箱に捨てると自席に向かった。

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