第22話 捜査

 被疑者あやめ被害者野島の首を締め上げる映像を繰り返し眺めている工藤。

「工藤さん、気分悪くならないんですか?」

 第一発見者大塚の供述調書と睨めっこをしている桑原がボヤく。

「ん?刑事ドラマの殺害シーンだと思えば、それほどでもないぞ。」

「不謹慎だと言っているんです!」

 桑原が工藤の方に振り向く、画面には何回目かの絞殺瞬間が流れている。

「…ちょっと、失礼します。」

 いきなり飛び込んできた画像が、首を折られアブクを吹き出す被害者野島の顔がアップで映っている。

 桑原は用を足しに席を立ち、口を抑えながらお手洗いに行った。


「しかし、妙な話だ…。」

 工藤は、画面を静止させ、被害者野島の顔をまじまじと眺める。

「首を絞め上げられるているんだよなぁ…。

 なんで、この男の顔は恍惚な表情になっているんだ?」

 確かに、画面に映っている被害者野島の顔は、苦痛で歪んでいることはなく、むしろ、ある種の喜びを称えるようなになっている。

「大体、笑顔で泡吹くヤツなんて見たことも、聞いたこともないぞ!」

 画面から顔を離し、椅子に座り直し、腕を組み直す工藤。


「殺害の瞬間から、もう少し前後の会話を拾ってみるか?」

 履歴情報の画面操作を手動で行いながら、会話の確認を試みる工藤。


 その頃、お手洗いでは…。

「もぉ~、何で絞殺場面に執着してるのかしら、あの中年ヘンタイ

 もう少し他の場面とかを眺めてみても良いと思うんだけど…。」

 眼前の扉を見ながらため息をつく桑原。


「そもそも、人が事故に会わないように機械aiDollには、いくつもの安全装置が在るはずよね。

 …ひょっとして、工藤さん。

 その安全装置の穴を見つけようとしているのかしら?」

 少し首を傾げる桑原。


「じゃぁ、安全装置をすり抜けるようなトラブルって、偶然出来たの?

 それとも必然的に出来たの?

 もし、後者なら、その必然性って何?」

 さらに首を傾げる桑原。


「やっぱり、あのシーン…絞殺場面を読み解くしか無いのかしら…。」

 俯いてしまう桑原嬢。


 ◇ ◇ ◇


 桑原嬢が席に戻って来るも、相変わらず被疑者あやめの履歴情報と睨めっこをしている工藤。

 桑原はため息をついて、工藤の眺めている画面に視線を送る。

 そこでは、今まさに絞殺直前の口論が展開されているところだった。

 桑原が戻ってきたことに気付いた工藤さん。

「桑原!

 第一発見者大塚の供述調書をこっちに!」

「はぁ~~い。」

 差し出された工藤の手に、第一発見者大塚の供述調書を手渡す桑原。

「で、何か気になる事でも見つかりましたか?

 工藤さん。」

 工藤はおもむろに動画を止めると、悪い笑顔で桑原の方に向く。

「気になるかい?」

「趣味悪いですよ!

 工藤先輩!」

 そう言って、桑原嬢は工藤の側に椅子を移動させた。


 ◇ ◇ ◇


 工藤が口論画面を再生し、桑原に確認を促す。

「お前さん、この口論をどう思う?」

「どう思うって…。」


 再生された画面で飛び交う会話は、所謂痴話喧嘩の世界だ。


 被疑者あやめ第一発見者大塚の名前を引き合いに、浮気しただの、自分を捨てるのかだのとまくし立てれば、被害者野島も売り言葉に買い言葉で、人間と機械の恋慕はあり得ない旨で被疑者あやめに対抗している。

 被疑者あやめは、自分に生殖能力が有り、第一発見者大塚と大差ないと食い下がれば、被害者野島は、第一発見者大塚以外は生理的に受け付けないと切り捨てる。

 すると、被疑者あやめの口からは、被疑者あやめ第一発見者大塚のあられもない情事の話が溢れ出し、しまいには、第一発見者大塚と同じことをするのかと問い詰めていく。

 一瞬固まる被害者野島


 ここで、画面を一旦止める工藤。

「やっぱりかなぁ。」

ですねぇ。」

 真剣な面持ちで、間の抜けた会話をする二人。


 しばらくして、はっと口元に手を当てる桑原嬢。

 工藤さんも何か思い当たる所が出てきたようで、桑原の顔を覗き込みニヤリと笑う。

 桑原嬢も工藤の顔を見て頷く。

「これは、痴情の縺れが原因の立派な殺人事件ですよ。」

「そうだな。

 人間同士が起こした殺人事件だな。」

「私、犯罪心理の方面から、この動画を洗い直してもらいます。」

 関連資料をかき集め、桑原嬢は颯爽と席を離れた。


「それじゃ、俺は被疑者あやめという根拠を探さなければな…」

 そう言って第一発見者大塚の供述調書を眺め始める工藤だった。

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