第21話 技術
論文という書類の山で、今まさに遭難しかけている工藤と桑原。
被害者である助教の論文に、今回の事件の謎を解く鍵があると見た二人が、勇んで訪れた大学院の図書室だったのだが…
「工藤さぁ~~~ん。
わたし、もう無理ぃぃぃぃ~~~。」
書棚を背に、半ベソ状態の桑原嬢。
「俺だって、ちんぷんかんぷんだよ。」
こちらも、通常より小さじ2杯分の愚痴が混ざっている工藤。
田所達が渡してきた資料に載っていた右腕こうの機械。
人間の大脳から信号を取りだし、相手に伝えるための装置という大雑把な説明が書かれており、あとは呪文か何かのような奇々怪々なカタカナとアルファベットのオンパレードだった。
これではダメだと大学院まで乗り込んだ二人だった。
◇ ◇ ◇
論文と格闘すること2時間。
「これも違う…」
そう言って立ち上がった桑原嬢。
椅子に躓き、書棚へダイブ。
大きな音を立てて倒れる棚。
「お~い、大丈夫か?」
工藤も席を立ち、
「いてて…
もう、こんな所に本棚を置くなんて!」
本棚に八つ当たりをしようとした桑原の手元を見て、その手を捕まえる工藤。
「く、工藤さん?」
工藤の手に力がこもる。
「これだ!
あった!あったぞ!
桑原偉い!」
本は取り上げられ、桑原は頭をくしゃくしゃにされる。
「ちょっと、工藤さん!
やめて、やめてぇ!!!」
桑原の叫びで我に返る工藤。
「おう、スマン、スマン。」
必要な本を机に起き、倒れた書棚を立て直す工藤。
「セクハラで訴えようかしら。」
ブツブツ文句を言っている桑原嬢。
◇ ◇ ◇
「さてと、一先ず事件の背景を洗い直していこう。」
工藤の言葉に桑原が頷き、ホワイトボードに背景が時系列で列記される。
1.大脳視覚野からの視聴信号の取り出しに関する研究
2.大脳視覚野から短期記憶へ保管される視覚情報の取り出しに関する研究
3.大脳皮質より、外界へ信号を取り出すための研究
4.大脳皮質から取得された視覚情報を画像として再構築する研究
「何だか、頭が痛くなってきました。」
「同感だ。」
桑原嬢の愚痴に相槌を打つ工藤さん。
5.視覚情報を補完、外部へ送信するためのデバイス研究
6.視覚情報の補完プロトコルと通信の定義に関する研究
7.入出力信号の制御と、情報の補完・補正についての研究
「ようやく、あの機械に近づいたわけだな。」
「ですねぇ。」
大きく深呼吸をする二人。
研究室と研究室付きの
「で、半年後に、自分と助手の腕にデバイスを埋め込み…」
工藤が論文を確認し
「実証実験を始められたわけですね。」
桑原が、
「そして、二ヶ月程で研究成果が実を結び。」
「
お互い得心した顔で頷く。
「さて、そこからどう事件が起きて来るんだ?」
そう言って
因みに、田所達から渡された履歴情報には情報の欠落が有るらしく、ここは、公安課謹製の画像情報で追跡を始めた。
事件から半年、ようやく謎解きはスタート位置に着いたのである。
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