第20話 違和感

 ここは、刑事課専用の会議室。

 視聴用の機材を持ち込み、田所達から提供された資料と動画の確認を行っている工藤と桑原。


「これと…これと…これ。」

 動画をコマ送りで帯状に表示された所をへチェックを入れる工藤。

「何かあるんですか?」

 不思議そうな桑原嬢。

「よし、この前後を再生してくれ。」

「はあ…」

 工藤の指示に従い動画を再生する桑原。


 二人の逢瀬の場面である。

 お互いの乱れる顔が交互に映っている。

「工藤さん、悪趣味ですよ!」

 桑原が怒り出すが、工藤は画面を見ながら説明する。


「桑原、今の場面で気付いたことは?」

「工藤さんが、他人の行為をジト見する変態さんだという事です。」

 そう言って軽蔑の眼差しを工藤に向ける桑原。


「俺の性癖は関係ない!

 もう一度確認するぞ。」

 二人ともモニターを覗き直す。


 再び二人の逢瀬画面が表示され、二人の顔が交互に…

「ここだ!」

 画面を止める工藤。


「何です?

 どこがおかしいのですか?」

 桑原がまた、工藤を睨む。

「何で、お互いの顔が交互に出るんだ?」

 工藤が桑原の目を見て問いかける。


「それは、うまくカメラを操作して撮ったんじゃないですか?

 画像の加工技術も進歩してるから…」

 桑原が返答していると、工藤が首を横に振る。


「この画像は、加工されていないということは、確認したよな?」

「はい…」

「あと、こんな密着状態でカメラを挟み込むのは難しくないか?」

「マイクロカメラなら…」

 人形あやめの目が開いた状態の画像を拡大する工藤。

「確認してみてくれ。

 ここに、カメラらしきものは映っていない。」

 人形あやめの目に反射しているのは、被害者野島の満足そうな笑顔。


 桑原が震え始める。

「く、く、くど、工藤、さ、さ、さん。

 こ、こ、これって…」


 工藤も真剣な面持ちになっている。

「ああ、被害者野島の網膜に映った画像が、人形あやめの履歴情報として登録されているのさ。」


 しばらく呆けていた桑原嬢。

 我に返ると、工藤の指示した画面を片っ端から確認していく。

「これも…そう。

 これも…そう。

 これも…」


 やがて工藤の顔を見る桑原。

「これって、おかしくないですか?」

「そうだろう?」

 ニヤっと笑う工藤に、桑原嬢も引きつった笑顔で頷く。


「こいつは、機械の故障や暴走といったたぐいの話しじゃないかもしれない。

 俺のカンがそう言ってるのさ。」

 工藤の言葉を皮切りに、画像の違和感を確認し始める二人。


 ◇ ◇ ◇


「よかったんですか?

 脇田さん。」


 ここは、都内の某料亭。

 酒を酌み交わす田所と脇田。

 周りには花魁おいらん姿の人形達をはべらしている。

「構わないさ。

 彼らに何がわかるというんだ?」

「しかし、事件にされると面倒ですよ。」

「大丈夫ですよ。

 企業側メーカーサイドにも、原因究明と再発防止を打診している。

 それよりも…」


 手短な花魁おいらんを抱き寄せ、乳房をもみあげる脇田。

 その所作に呼応するように、頬を赤らめる花魁おいらん

「こんな芸当を人形が身につけてくれたのだ。

 これで、風俗産業も生娘を使う必要もなければ、人形おんなの手立ては思いのままだ。」

 そう言って、いよいよおいらんを弄びはじめる脇田。


「喧嘩と風俗だけは、不景気を知りませんからねぇ。」

 つられて田所も手近な花魁おいらんを抱き寄せ、遊びはじめるのだった。

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