第19話 来客

 席に戻ると桑原の内線が鳴っている。

 内線の受話器を取る桑原。

 二言三言の会話が終わり、受話器を下ろして工藤の顔を見る桑原。

「私達にお客さんのようです。」

 眉毛がピクッと動き、頷く工藤。

 二人は、内線で指示のあった『応接室』へ向かった。


 二人工藤と桑原が応接室に入ると、既に客人は通されていた。

 お互いが対面に向き合ったところで、名刺の交換が始まる。

 名刺交換を済ませ、着席する四人。


 応接室出口側、向かって右側に工藤、左側に桑原嬢が座る。

 奥側、工藤の正面には『国交省 自動車局 主査 田所 公司』を名乗る、薄いグレーの作業着男が座り、

 桑原嬢の前には『デジタル庁 CA クラウドユニット 脇田 修』を名乗る、グレーの背広男が座っている。


「それで、本日はどのような用向きでしょうか?」

 工藤が白々しく二人に問いかける。


「単刀直入に言う。

 この件は、迷宮入りにしてもらいたい!」

 田所が身を乗り出して答え、脇田は腕を組み、大きく頷いている。


「殺人事件なんですよ。

 そんな事出来るわけ…。」

 桑原嬢が目を見開き、田所に食って掛かろうとする所を、工藤が抑える。


理由わけを伺いましょう。

 御存知の通り、くだんの事案は殺人事件、警察のメンツにも関わります。」

 工藤が抑えめの声で、田所に投げ返す。


「これは、失礼しました。」

 田所はおどけてみせるが、脇田は微動だにしない。

「簡単な話しですよ。

 犯人は特定されず、不慮の事故で死者が出たとしたいのです。」

「頭部切断の猟奇殺人であったとしてもかい?」

「はい、道具の操作ミスによる事故なんです。」

 田所がいやらしい笑みを浮かべている。

 タバコをくわえる工藤。

「工藤さん、ここ禁煙です。」

 桑原が半目開きで工藤を叱る。

「わかってるよ。」

 結局、タバコに火は付いてしまう。


 一服した工藤。

 周りは一様に不愉快そうである。

「田所さん、でしたっけ?」

「はい。」

 いい表情ではない田所が答える。

「あなた、『道具の操作ミス』って、言われたけど。

 どういうことですか?」

 田所と脇田が顔を見合わせ、小声で二言三言交わす。

 田所が工藤に話しかける。

「今回の事故は、被害者が人形をぞんざいに扱った事で、人形側に不具合が生じ、人形の暴走に至っているのです。」

 先程まで見ていた動画を思い返し、田所の話しに相槌を打っている桑原嬢。

 しかし、工藤の次の一言で場の空気が固まる。

「ぞんざいという言葉が分かりません。

 具体的に何がどうだから、ぞんざいなのですか?」


 田所と脇田が再び話し込んでしまう。

 漏れ聞こえる言葉は、人形の履歴情報がどうとか、被害者と人形の関係性など、工藤達が欲している情報のようである。


 5分後、話しが纏まったようで、田所が話しを再開する。

「言葉では説明できませんので、映像情報を提供します。」

「ついでに、被害者と人形の右腕のこうについていた器具おもちゃの説明も付けてもらうと有り難いんだけどね。」

 工藤が、タバコを手に持ち、シレッとをする。

 田所が脇田を見ると、彼は頷く。

「分かりました。」

 田所の答えに工藤が頷いた。


「本日はご苦労様でした。」

 工藤が二人を退室へ誘う。


「くれぐれも、本件の処理をお願いしますよ。

 工藤。」

 念を押して退出する田所。

 そして、脇田は部屋を出る直前に、警官二人を睨む。

「上で話しはついてるはずだ!

 変な捜査で、民間を巻き込まないでくれ!

 こっちにまでクレームが来ているんだ!」

 工藤がすました顔で答える。

「これは、失礼しました。

 以後、注意して参ります。」

 フンッという鼻息を残して脇田も退出した。


「あ~あ、キャリア組に喧嘩売っちゃって。

 どうするんです?

 殿。」

 あきれる桑原嬢。

「任っとけい♪」

 何故か上機嫌の工藤だった。

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