第17話 事象

 ここは、警視庁 刑事局 捜査第一課 合同会議室。

 定例会の一コマ


 集まった課員が見守る中、最後の登壇で、正面テーブルに座るのは、工藤警部補と桑原巡査。

 二人の背面には、ホワイトボードが掲げられ、事件の構造と現場写真などが記載されている。


「事件のあらましを説明します。」

 桑原がホワイトボードに指し棒をあてながら、今回の事件の説明を始める。

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 被害者 : 野島 昭夫

 某工業大学 大学院 知能情報コース 野島研究室室長 助教(52歳)

 死亡


 被疑者 : アイドルシリーズ 「あやめ」 

 某工業大学 大学院 知能情報コース 野島研究室付きの補助員

 機能停止


 第一発見者 : 大塚 咲

 某工業大学 大学院 知能情報コース 野島研究室 助手(30歳)


 犯行現場

 某工業大学 大学院 知能情報コース 野島研究室内


 殺人事件であるため、犯行を殺害に言い換える。


 殺害動機 不明

 殺害時刻 2084年10月20日金曜日 19:00~22:00

 殺害方法 絞首による窒息死

 殺害場所 研究談話室

 死体遺棄場所 研究実験室

 死体遺棄状態 絞首による殺害の後、頭部を切断

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 ◇ ◇ ◇


 説明が終わると三々五々、自席へ戻る課員。

 書類を取りまとめる桑原。

 ホワイトボードの資料を取り下ろし、文字を消している工藤。

「お嬢、ご苦労さん。」

 工藤は作業を続けたまま、桑原に話しかける。

「これで、情報が降りてくれるといいんだけどなぁ。」

 桑原の揃えた書類の隣に、ホワイトボードから下ろした書類の束を置く工藤。


「そうですね。

 動機を解明するためにも、必要ですからね。」

 桑原が、工藤に視線を送る。


「そう。

 それに、人形aiDollが、何故起こせたのか?

 そのカラクリを知りたいんだ。」

 そう言って、二人分の書類を取りまとめ、桑原に渡す工藤。

 憮然とした顔の桑原を労ることなく、机と椅子を整え、自席へ歩きだす。


 桑原も、大きくため息をつき、工藤の後について行く。


 刑事局 捜査第一課の定例会議では、課としての捜査案件の説明ばかりでなく、各捜査室が抱えている事案や問題点の共有も図られる。

 臨席者には、警視、警視正も含まれており、現場すり合わせから、上長への嘆願などを前倒しできる、良い舞台装置カラクリなのだ。


「これで、真理に近づけると、良いんだけれどな。」

 廊下を歩きながら工藤がつぶやく。


「工藤さん。

 真理って、何ですか?

 動機のことですか?」

 桑原が半目開きの呆れ顔になって歩いている。


「動機…ね。」

 天井をぼんやり眺めて歩く工藤。

「『人形キカイが、』っていうのは、どういうことなんだろうな。」

 工藤のボヤキに、桑原は肩をすくめる。


 やがて、二人のデスクが見えてくる。


 そして、工藤の机の上に置かれている一つのUSBメモリー。

 雑然とした彼の机に置かれているモノとしては、あまりにも不釣り合いなパステルカラーのUSBメモリー。


「何なんです、その悪趣味なUSBメモリー?」

 書類を自席に放り投げ、工藤の机に置かれたUSBメモリーを眺める桑原。


「俺も、大概だが…

 こいつは、初めて見る代物だ。」

 そう言いながら、外観を見回している工藤。


 おもむろに自席のデスクにある引き出しから手袋を取り出す工藤。

 手袋を装着し、USBメモリーを持ち上げる。


「現場じゃないんだから…。」

 半目開きの桑原を横目に、USBメモリーを観察している工藤。

 一通りの観察を済ませ


「こりゃ、中身を見るしかないか…」


 そう言って工藤は資料室へ向かう。

 かぶりを振って工藤の後に桑原も続いた。

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