Himmelstor und Höllentor (天国の門 と 地獄の門)
第16話 起点
秋の曇天は、暑さと寒さが同居する、何とも不快な気分を助長する天気である。
そのような空の下、紺色のセダンが
ドライバーはセミロングの髪をなびかせる二十代後半の女性。
助手席には角刈りの四十手前の男性が、くわえタバコで、端末を眺めている。
「工藤さん、現場でくわえタバコは厳禁ですからね。」
女性が嫌味を言いながら、空気清浄機のスイッチを入れる。
「分かってるよ。」
タバコを灰皿に置き、現場情報の確認に余念のない工藤。
「桑原、今回も難解な事件になりそうだぞ。」
そう言って、タバコを咥え直す。
「どんなヤマなんですか?」
運転に集中している桑原。
「単純な殺人事件じゃないということさ。」
タバコを吹かす工藤。
「でしょうね。
じゃなければ、私達が呼ばれること、ありませんからね。」
不敵に笑みが溢れる桑原。
「…そうだな。」
灰皿にタバコを押し付け、シートに座り直す工藤。
程なくすると、規制線の張られた現場が見えてくる。
規制線の手前でセダンが止まる。
「さぁ~て、仕事だ。」
工藤の掛け声を合図に、セダンを降りる桑原。
工藤は先程まで眺めていた端末を小脇に抱えセダンを降りる。
背広姿の二人が規制線の中央にあるゲート脇のポストに向かう。
IDカードを取り出し、ポストにかざす二人。
「カクニンシマシタ、オハイリクダサイ。」
機械音声が鳴り終わると、ゲートが上がり、二人は規制線の中に入る。
規制線の中にあるのは、20階建ての研究棟。
ここは、都内某所の工業大学の大学院研究棟である。
研究棟入り口で警備にあたっている警察官に敬礼する背広姿の二人組。
二言三言言葉をかわすと、建屋の中に通される。
◇ ◇ ◇
さて、
襟を正し、ネクタイを締め直し研究室のドアを開く。
そこには、数名の検察官と検死官が作業を進めていた。
二人の存在に気づいた上司らしき男性が近づいてくる。
IDカードを提示し、敬礼する背広の二人。
「お疲れ様です。
刑事局 捜査第一課 特殊事件捜査室
工藤 俊春 警部補です。」
「同じく、桑原 涼子 巡査です。」
二人を迎えた男性も敬礼する。
「それで、現場の方は…。」
工藤が訪ね始めると、男性が二人を研究室の中に案内して行く。
◇ ◇ ◇
場面変わって、ここは、警視庁 刑事局 捜査第一課 特殊事件捜査室。
その会議室。
ホワイトボードに張り出された写真。
テーブルに散乱する書類のヤマ。
テーブルの上に足を投げ出し、タバコを咥え、ぼ~~っと座り、天井を眺める工藤。
隣で、複数の写真とにらめっこをしている、桑原嬢。
「何か気づくこと有ったかい?」
タバコを咥えたまま、話しかける工藤。
「犯人が
工藤に見向きもせず、資料にまで手を伸ばし始める、桑原嬢。
「裁判所からの令状は取れそうか?」
タバコを吹かす工藤。
「どの令状ですか?」
書類を揃える桑原。
「
タバコを灰皿で磨りつぶし、起き上がる工藤。
「検察からの連絡待ちですね。
…でも、難しいかもしれません。」
桑原嬢が工藤の方を向く。
「
国交省とデジタル庁の了承も必要ですから、まだまだ時間はかかると思います。」
「ふむぅ。」
後頭部を掻きながら、1枚の写真を手に取る工藤。
写真に映るのは、
その両手には、掲げあげるように持たれた
血の池に倒れ込んでいる
※1 ロボット三原則
SF作家 アイザック・アシモフ が自身の小説で提唱した、ロボットが従うべきとされる原則
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