第15話 僕らはモルモットじゃない!

 僕達は無事、高校三年生になった。

「とりあえず、高校を卒業するまでは、ちゃんと避妊してくださいね。」

 パーティー後の一件で、しのにとお叱りを受けた僕とゆかり。

 以降は、節度を守っている。

 もちろん、しのやゆいとの関係も良好で、こちらも節度を守って…


「ほら、あんた達。

 早くしないと遅刻するわよ!」

 僕達と同じ制服を着たゆいが、巻くし立ててくる。

「じゃぁ、しの。

 行ってくるよ。」

「行ってきます。」

 ゆいに促され玄関を出る僕とゆかり。

「いってらっしゃい。」

 いつものメイド姿で、僕達を送り出すしの。


「私も高校生やる!

 青春やる!

 たかふみ達と同じ学校に行く!」

 そう言って、さっさと手続きを済ませ、僕達の学校へ編入してきたゆい。

 彼女のモデルとなった『ゆいちゃん』は、行動派でお転婆なお嬢さんだったようだ。


「よぅ、今日も仲良くご登校かい?」

 達也がニコニコしながら絡んで来る。

「達也さん、おはようございます。」

「やぁ、マスター。」

 ゆかりは、お辞儀をし、ゆいは、軽やかに手を振っている。

 ゆかりとゆいを先に歩かせる。

 僕と達也は、彼女達と少し距離をおいて歩き始めた。


「結局、達也は進学するのかい?」

「いや、親父の会社に就職するよ。

 研究設備とか完備されてるし…」

 不意に達也が僕に振り向く。

「面白い、研究対象も見つかったしな!」

「そいつは、よかった。」

「文句は…言わないのかい?」

 達也が真剣な顔になる。

「文句を言っても、研究は止まらないんだろう。」

「確かに…って、何がおかしいんだよ。」

 日頃の言動から、あまりにも真剣な顔が似つかわしくない達也の顔に思わず僕は拭き出していた。

 達也も釣られて笑い出す。

 すると、前を歩いていた二人が振り返る。


 僕が何でもないよとジェスチャーすると、小首を傾げながら前を向き、二人の世界に戻るゆかりとゆい。


「で、お前はどうしたんだ、隆文。」

「うん、僕も研究することにしたよ。

 AI…人工知能の分野をね。」

 呆れたような顔をする達也。

「どこから、人工知能に攻め入ろうっていうんだい?」

「そうだねぇ…」

 そう言って、僕は達也に前の二人を見るように促す。

 僕達の前を歩いているのは、ゆかり人形ゆい

「人間との営みの中で産まれる人格…かな。

 そこが、僕の人工知能研究の原点になるよ。」

 大きく目を見開き僕の方に向き直る達也。

「面白いねぇ。

 データの海、仮想の世界で起こる事象ことわりから人工知能を見出だそうとする僕と、人の営み、現実の事象ことわりから人工知能を観察しようという君。

 何だか面白い事になりそうだ。」

 達也は満足そうに頷いて前を向く。

「まだまだ、腐れ縁が続くのかなぁ僕達。」

「まぁ、墓穴までは勘弁してあげるよ。」

 半目開きの僕に、全力てへぺろの達也。

 二人が顔を付き合わせたところで、再び大笑いする。


 ◇ ◇ ◇


「じゃ、ぼくはここで。」

 軽く手を振って、達也は自分の学校へ走って行った。

「僕達も行こう。」

 達也を見送って僕達も自分達の学校へ向き直る。

「はいっ!!」

 そう言って、ゆかりが僕の左腕に絡み付いた。

「…」

 無言のまま、ゆいは僕の右腕を掴む。

「あ…歩き辛い。」

 二人を従えて、僕達は歩きはじめた。


「ねぇ、たかふみ。」

 猫なで声をあげるゆい。

「な…なんですか?」

「たまには、私達しのさんとあたしにもゆかりさんを抱かせてよね。」

 ゆいの爆弾発言は、いつもメガトン級だ。

 俯いたゆかりの顔が見る見る紅潮してくる。

「ゆ、ゆ、ゆゆ、ゆいさん。」

 思わず声が上擦る僕。

 登校中の生徒方も立ち止まり、何だかとんでもない空気が流れはじめる。

 チラッチラッと周りの様子を確認するゆい。


「やだなぁ~。

 ジョーダンよ、ジョーダン!」

 ゆいが、一際大きな声で答えると、緊迫した空気は緩み、生徒さん方は再び歩きはじめる。


「ゆいさん、勘弁してくださいよ。

 …本当は人間なんじゃないですか?」

 僕の質問にコロコロ笑うゆい。

 ゆかりは、もうしばらく話せる状況ではない。


「でも、半分は本気。

 だって、私達は夫婦であり、お互い大切なパートナーなんだもん。」

(僕の研究…先が長そうだなぁ。)

 ため息をつくしかなかった。


 やがて、学校の正門が見えてくる。

「ゆい、あんまり変なこと言わないでね!」

「りょーかい。」

 僕を挟んで、やいのやいのと話しているゆかりとゆい。


 そして、僕達は正門をくぐった。

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