第14話 押しかけられました

 ゆかりさんのご両親に挨拶を済ませ帰宅すると…パーティーが始まっていた。

「おめでとうございます、隆文さん。」

 満面の笑みでしのが出迎えてくれる。

 挨拶直後に姿をくらましたゆいさんも、ちゃっかりパーティー準備に参加している。

「たかふみ、お疲れ様。」

 ゆいも上機嫌のようであるが…


「僕…明後日から、一次試験なんだけど。」

 泣く子も黙る進学一次試験。

 高校三年に進級する前に行われる、一種の適性検査試験であり、進路はもちろん、高校三年進級後学校生活を左右する重要な試験を明後日に控えている。

 まぁ、そんな最中にゆかりさんを貰ってしまう算段がついてしまい、いよいよ心中穏やかではない僕。


「そうですね。」

 しのはケロッとした顔で答え。

「たかふみなら大丈夫!」

 根拠のない言葉でさらりと切り返すゆい。


「でもねぇ…僕…自信が…」

 すると、勢いよく玄関が開く音がする。

 ゆいが悪い顔でニヤッと笑う。

 大きな荷物が引っ張られる音とともに食堂パーティー会場に登場したのは、制服姿のゆかりさん。

「私が居るから、大・丈・夫!」

 二段のスーツケースを左手に、右手は目元でピースサインを決めている。

 ウィンクした顔も愛らしく、キラキラのエフェクトも決まっている。


 あまりの事態に僕は固まってしまった。

「お帰りなさい、ゆかり。」

 そう言って、二人しのとゆいは駆け寄る。

 ゆいは、ゆかりの荷物を持って奥に消え、しのはゆかりをパーティー席に座らせる。


 一連の動作が終わったところで我に返る僕。


「ゆ…ゆかり…さん?

 何故、ゆかりさんがここに??」

 しのと挨拶を済ませたゆかりが僕の方に振り返る。


「だって、んだもの。

 に居るのは当然でしょ?」

 凄い言葉に、目が点になる僕。


「たかふみさん、ちゃんと責任は取りなさい。」

 しのが、厳しい顔で僕を諭してきた。

「は…はいぃ…」

 僕の返事にホッとしたのか、先ほどまでの笑顔に戻るしの。

 ゆいも戻ってきた。


「たかふみ、結婚おめでとう。」

 ゆいがさらりと爆弾を投下する。


「ゆいさん…どういうことかなぁ。」

 釈然としない気持ちを抑えてゆいに問いかける僕。

「え?

 どういうって?」

 あっけらかんと答えるゆい。

 次の言葉に期待の眼差しを向ける僕。

 頷いてゆいが続ける。

「もう、ご両親に挨拶も済んだし、本人達も納得してるんだから…

 を依頼しただけよ。」

 そう言って、婚姻届のコピーを僕の前にかざすゆい。

「はいぃ…」

 驚く僕。

 窺い知れないところで、話は完結していたのである。


「というわけで、今日からはゆかりも家族の一員なの。

 そこんとこ、!」

「どこで覚えたその言葉!!」

 最後のゆいの言葉で、心のケジメが着いた僕は笑うしかなかった。


 ◇ ◇ ◇


 パーティーは無事終わり、試験に備え一緒に勉強している僕とゆかり。

「ゆかりは、本当によかったの?」

「どうして?」

「だって、僕…ニンゲンじゃないし、君以外にもおaiDollさんが二人居るし…」

「ええ、それでもいいのよ。」

 ゆかりは、笑顔で僕の方に向いてくれた。


「謝らないといけないのは、私…」

 そう言って、今回の騒動の顛末を語りはじめるゆかり。


 ゆかりが僕のことを好きになったのは、去年の暮れにあった進級試験での一幕だったそうだ。


 試験中に筆記用具一式を床に落としてしまったゆかり。

 教室に響き渡る音に聞き耳を立てるが、誰も相手は出来ない状況。

 試験官の教師は教室を離れていた。

 試験時間はいよいよ締め切りを迎えるが、半分も解答が記入出来ていないゆかり。

 その時、僕が席を立って教師を呼びに行き、筆記用具の回収と試験の再開を手助けしてくれたというのだ。

 正直、そんなことを覚えていなかった僕。

「あなたのお陰で、無事進級出来たんです。」

「ゆかりは、優秀だったから、大丈夫だったんじゃないの?」

「いえ、進級より重要な進学に影響するところだったんです。」

「そうだったんだ…って、イテテ…」

 気のない返事の僕の頬をつねりあげるゆかり。

「ええ、そうよ!」


 そして、達也が絡んできて、紆余曲折が始まり…

「僕の素性を知った…」

 こくりと頷くゆかり。


 達也から

「金輪際、隆文と会うことはかなわなくなる。」

 と告げられた事で、最後の枷が外れ、恋の大車輪が転がりはじめたらしい。

 と同時に、そこでゆいと知り合いになったようだ。


 そして、立ちはだかる結婚かべ

 未成年である以上、両親の説得は避けられない。

 …はずだったが、ゆいの機転で話はトントン拍子に進んで行った。


「そうか…金銭的後ろ盾が決め手になったんだね。」

「私が嫁げば、両親も妹達も幸せに暮らせる…そう思って…」


 二人の筆はすでに止まってしまい、向き合って語り合っていた。

「ごめんなさい。

 怒られると思って、黙っているつもりだったけど…

 私の心に嘘はつけないから…」

 大粒の涙を流すゆかり。

「来てくれて、ありがとう。

 ゆかり。」


 こうして僕らは一つのベッドに入り、文字通り夫婦として一つになった。

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