第9話 邂逅

 休みの朝は早い。

 いつもより早く起きて、さっさと着替え部屋を出ると、人形メイドにばったり出くわす。

「おはようございます。」

「おはよう…ございます。」

 今日は、紺のワンピーススタイルで、スカート丈もくるぶしまでと長めのモノを着用し、カチューシャとエプロンもシンプルなモノを選ぶなど、若干ドレスアップ気味の人形メイド

 帰るのだから、相応の身嗜みだしなみをしたのねと、思う僕。

「朝食の準備はまだですが、よろしいでしょうか。」

「うん、任せるよ。」

 そう言って僕は人形メイドと別れた。


 気晴らしの散歩を済ませ帰宅すると、達也と見覚えのない白髪の人形aiDoll、そして、背広姿の二人の男が人形メイドと玄関先で話している。


「ただいまぁ。」

 僕の声に気づき、軽いめまいを起こしたかのように振る舞う達也。

 人形aiDollは僕に背を向けたまま。

 二人の背広が僕に近づいてくる。

「君は、佐々井 隆文くんだね?」

 左側の背広が質問してきた。

 右側の背広は携帯型端末ノートパソコンを開き、画面と僕の顔を比較している。

「はい、そうですが…

 あの、どちら様ですか?」

「失礼、我々はこういうものです。」

 二人の背広は、それぞれのIDカードを僕に示した。

「総務省人口統計管理局2課…

 下園 悟さん?と、田尻 祐也さん?」

「そうです。

 ニ、三、質問が有るのですが、よろしいですか?」

 下園さんに聞かれたので、首を縦に振る僕。


「よろしい。」

 下園さんと田尻さんはお互いに確認するように頷く。

 その奥に控える達也からは、ウィンクが帰ってくる。

 あのウィンクは、『YES』と答えろという合図だ。


 一つ咳ばらいをして下園さんが確認を始める。

「君は、人形しの所有兼管理者マスターですか?」

 達也が頷く。

「はい、そうです。」

 僕が答えると、白髪の人形aiDollが僕に振り向く。

 下園さんは続ける。

「君は、少子化対策に賛同し、協力する気持ちはありますか?」

 達也頷く。

「はい、あります。」

 二人の背広は画面を見ながら確認し、頷きあった後、達也に二言三言告げた後、肩を叩いて去って行った。

 達也の横では、小刻みに体を振るわせている人形aiDoll

 状況が解らずポカーンとしている僕。

 玄関口では、両手を口に当て驚いた表情の人形メイド


 白髪の人形aiDollを従え、達也が僕のところに来た。

「…ったく、自宅待機でかけるなって言っておいたのに…」

「ご、ごめん。」

 小言を言う達也に頭を下げる僕。

「まぁ、いいさ。

 無事手続きも完了したし…

 と、しのさんだよ、隆文くん。」

「坊ちゃま、戻りました。」

 達也に促され、挨拶をした人形aiDoll


 白髪ホワイトパールは、胸元までストレートに伸びており、その髪を左右に分けた顔には、碧眼に小さな鼻と薄い唇。

 こちらもほぼ全身を覆った紺のメイド服に、控えめデザインのエプロンを着けた姿である。


 外見からは判断できなかったが、声色、物腰…白髪をもたげる仕草で『しの』ということが解る。

「お帰り、しの。」

 そう言って、人形しのに手を伸ばしかけたところで、その手を遮る達也。

「その前に、やっておくことが有るんだよ、隆文くん。」

 いつになく真剣にニヤニヤする達也。

「な…なに…何をするんだよ?」

 怪訝そうな僕の前で、俯いてしまう人形しの

「契約の儀式だよ。」

 そう言って、一組の指輪を取り出す達也。

「ま、ま、まさかぁ…」

 僕の背中に冷や汗が流れる。

「そ、結婚だよ。」

 あっけらかんとした達也と、赤面する人形しの

「え?

 結婚?…

 け…結婚…って…

 えぇ?!」

 パニック気味の僕の手をそっと握り、人形しのが僕の顔を覗き込む。

「私では、ご不満ですか?」

 目に飛び込む愛らしい顔立ちと服の上からでも、それとわかる豊満な胸元…僕の心は昇天した。

 頷いた僕の顔を見て、満面の笑みを浮かべるしの。


 ◇ ◇ ◇


 達也から渡された指輪をお互いにはめる、隆文としの。

 その横では、寂しそうに彼らを眺める一体の人形メイド

「どうしました?」

 達也が寄り添って質問すると、人形メイドはふて腐れ気味に

「羨ましいなぁ~っと思って。

 うちも、あんなマスター欲しいです。」

「じゃぁ、行けばいいんじゃない?」

「へっ?」

 達也飼い主の言葉に振り返る人形メイド

「もう一組有るのよねぇ、ゆ・び・わ♪」

「ご主人様、サイコー。」

 差し出された指輪を掴み走りかけた人形メイド

「でも、二人の邪魔をしちゃ…」

「ん?

 大丈夫だよ、しのさんが上手く取り計らってくれるよ。」

 達也の一押しで、人形メイドは隆文達の下に駆けより二人に抱き着く。

「さて、二つの擬似人格は何処まで人工知能に近づくだろうね。」

 不適な笑みを浮かべ立ち去る達也。

 隆文の方はとみれば、二組目の指輪をなんとか阻止しようとする隆文と、必死に指輪をはめさせようとしている家政婦メイド

 そして、コロコロ笑っている婦人しのが幸せオーラ全開ではしゃいでいる。

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