僕のaiDollが壊れてしまった件

第1話 自己紹介

「お帰りなさいませ、坊ちゃま。」

 うち家政婦aiDollが僕を出迎えてくれる。


 彼女の名前は「しの」、古風な名前を持っている。

 全身は黒いカーボンファイバからなっており、廃熱用の白髪と、額と目元を隠すような深い青のバイザーが印象的である。

 口元は動かず、マスクの裏にあるスピーカーから声が出ている。


「ただいま、しの。」

 かばんを持ったまま、自室に向かおうとすると、玄関の呼び鈴が鳴る。

「僕が見てくるから、しのは夕飯の準備を。」

 しのは僕からかばんを受け取り、会釈をすると、奥に戻って行った。


 さて、玄関の扉を開けると

「よぉ、隆文。

 新型の玩具aiDollの展示会やってるんだ。

 見に行こうぜ。」

 陽気な悪友幼馴染みが制服のネクタイを緩め、扉に手をかけ立っている。

「達也...僕、お人形aiDollさんに興味は...」

「うるさいなぁ~。

 とっとと付き合え!」

 そういうと、達也は僕の首を捕まえると、僕を引きずったまま歩き出した。


 自己紹介がすっかり遅くなってしまった。

 僕は、佐々井 隆文。

 公立高校に通う、平凡高校二年生ぱんぴーだ。


 で、僕の首根っこを捕まえてる男。

 松下 達也

 優良大企業の御曹子にして、有名私立高校に通う、男前高校二年生イケメンだ。


 僕らの腐れ縁は、中学生から始まっている。

 いや、もっと言ってしまえば、奴は『しの』に傾倒しており、その飼い主たる僕を如何に籠絡させるか?というただその一点のみで、腐れ縁を演じている。


 というわけで、今日も僕を籠絡させるべく、美人娘aiDollを散策しに行くのである。


「なぁ、達也~。

 いい加減諦めたらどうだ?

 お前んなら、いくらでもお嬢様方aiDollを収集出来るじゃないか?

 なんでしのがいいんだよ?」


「僕の希望が、しのさんには、見事に結実されているんだ!

 そして、...」

 首から手を離し、恍惚な表情で語り出す達也わるい奴

 この熱弁は30分コースが確定なので、左から聞いて右に聞き流す作業を始めなければならない。


 ◇ ◇ ◇


 さて目的のショッピングモールに来てみると、まぁ男共やろうどもが大挙しており、美人娘aiDollを堪能するどころのさわぎではない。

 美人娘aiDollが来ているだろうことは、男共やろうどもの頭上に、商品名と顔写真の載った看板が掲げられている事から推測できる。


 しかし、人にあたったのか、僕も達也もすっかり気分が悪くなる。

「帰ろうか、達也。」

「そ、そうだな…。」


 もと来た道を引き返すと、達也にはお迎えが来ていた。

「悪い、親父が呼んでるようだ。」

 軽く頭を下げ車上の人となる達也。


 達也と別れ、自宅に戻る道すがら『しの』に出会う。

「今夜は、お刺身です。」

 と言って、ショッピングモールに歩いていく、しの。


 不思議な光景である。

 コンピュータであるはずの『しの』が、夕食の買い出しをしているのだ。

 物忘れをしないはずのコンピュータが、何故居るのか。

(故障かな?)

 そう思うと、僕は不安になり、『しの』の後について行った。

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