aiDoll
たんぜべ なた。
まえがき
ときに西暦2080年
先進諸国は、人口の自然減少という事態に戦々恐々としていた。
国家としての人口減にどのような問題があったのだろうか?
当初こそ話題となった、労働力や市場の縮小などは些末な問題だった。
発展途上国からの移民の受け入れ、同化政策により、先進諸国の見せかけの人口は増加した。
しかし、純粋な国民の減少は、国家への帰属意識を希薄にし、もって、国家自体の存亡が危ぶまれてきたのだ。
この点に着目した発展途上国は自国民を移民として送り込み、先進国の転覆、帰属を画策し始める。
先進国を奪取できれば、無理なく国力も手に入れられるのだ。
国力とは、国際社会に対する発言力、先進の軍事力、成熟した財政力であり、世界を席巻する力そのものなのだ。
結果、先進諸国においては自国民の人口を増やす事が、最優先課題となる。
人口を増やすためにと、
と上辺の対応はもちろん、倫理的・宗教心情的にもタブー視されてきた、ヒトの人工授精の積極的な推進と、あらゆる障害にも、あえて目をつぶるといった事態まで、まかり通るようになった。
◇ ◇ ◇
時を同じくして、2つの
1つ目のシンギュラリティは、人胚の完全な培養の成功である。
その成果は、
つまり、自国民を都合よく獲得できる道が開かれたのである。
課題としては、人胚となる受精卵、つまり精子と卵子の獲得が必要となった。
なお、精子の獲得は、容易であり、その獲得方法については後述する。
さて、卵子の獲得に当たり、世の情勢は実に好都合だった。
すでに、貧富の格差は、埋め合わせが出来ぬほどの問題となっており、貧民街はもちろん、ホームレスの問題も恒常化していた。
結婚の価値は失われ、離婚者、シングルマザーの人口に占める割合は毎年高い数値を維持していた。
就職に対する性差別も改善することなく、当然のことながら、未婚・離婚女性の生活基盤はギリギリの状態だった。
そこへ、政府が推し進める「
だが、この政策は「性的搾取である」とする意見が宗教界から強く打ち出され、保守的な人々の反発を買うことにもなった。
幾度かの調整会議を経て、「卵巣の摘出は一つまで」という制限事項が設けられることで、一応の解決を見たとされている。
もっとも、シングルマザーや未成年の妊婦などが生活の保証を求め、卵巣を提供する事案が非常に多く、もっと複雑な病巣を孕んだまま
2つ目のシンギュラリティは、エクサバイトの情報をミリ秒という驚異的短時間で処理してしまうコンピューターネットワーク郡(クラウドVer2.0)が一般へ開放され、多種多様なロボット「aiDoll」の誕生を促したことである。
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元々テレビ用として使われていた電波帯域をコンピューターネットワーク向けに利用する事で、広域で高速大容量の通信インフラが生まれ、通信技術も、高度化したサイバー攻撃への対処と通信品質の向上、さらなる情報圧縮技術の登場による「wi-fi 6 rev3.0」なる規格が策定され、いわゆる「6G」と言われた規格から置き換わって行った。
コンピュータも進化を続け、2020年代に出現していたスーパーコンピュータでさえ、手のひらに乗るサイズにまでダウンサイジング化が進んだ。
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aiDollはデータの処理を「クラウド」上で処理させることにより、主人の行動や嗜好を機械学習し、もって「主人の気に合う人」を演じることが可能とする画期的なシステムだった。
aiDoll本体には必要最低の電源と、発電装置。会話をするための目や耳や鼻(インプット)と、口や目などの(アウトプット)の装置。そして「クラウド」とのデータ処理を行うための最低限の電脳を装備してあれば良かった。
結果、ヒト型はもちろん、犬や猫といった愛玩動物、自動車型や住宅型など文字通り多種多様なaiDollが世界を席巻しはじめる。
自家用車の無人運転や住宅の空調制御といった方面では、もはや家電並みの操作感で、ヒト型aiDollの登場前に一般普及している。
当然のことながら、インフラ用のaiDollというものも存在している。
ヒト型、特に女性型aiDollには、性的趣向に対応するユニットも内蔵しており、夜伽などもこなせる。
夜伽が出来るという機能については、行為によって得られた精子を国家に提供するシーケンスが存在しており、これも国家からの補償対象となっている。
なお、報酬を受け取れるのは精子を提供したaiDollであり、購入者でありセックスパートナーである男性には一切渡ることはない。
ちなみに、aiDollに渡る報酬は、システムのバージョンアップであったり、クラウド利用領域の拡張などである。
女性型aiDollの構成モデルは定期的に顔や体型が変わることもあり、これは「当代のアイドル」をモデルにしている影響であると言われている。
◇ ◇ ◇
さて、舞台は整った。
皆の来場を、私はここで待つこととしよう。
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