第39話 束の間の休日

 選抜大会の最中に起きた事件により、大会を続行するか会議が設けられていた。

 壊したのはほとんどレントである手前、レントも再開しようとはいえずに居たのだ。


 大会運営達が仮説小屋にこもり話し合いを続けること30分。

 会議が終わったのかその扉は開かれて、ゾロゾロと人が出てくるとその中にレイスターがいた。


「おう、レント。方針が決まったぞ」

「……どうでしたか?」


 そうレントが聞くとレイスターは内ポケットから1枚の紙を取り出し、開いて掲げるように見せた。


『大会続行』


 この文字だけが書かれた紙を見た人々は騒ぎ、興奮をしていた。

 誰もが中止かと思っていた所にこの知らせだ。

 午後からの試合の予定であった巨人族と龍神族は喜びあっている。


「ただ、会場がこの有様なのと今日も日が暮れる。なので数日猶予をくれ。そうだな、7日貰いたい」

「1週間?」

「あぁ、それだけくれれば会場の再構築ができるだろう。簡易的なもんだがな」


 確かにこのまま瓦礫の山でやるには足場も悪く戦いに影響が出そうだ。

 確かにそれもいいかもしれないが、今回の大会の趣旨から外れるらしい。

 それなら仕方ないと、選手たちはいきなり7日間の猶予を得ることになる。



「……すまんがちょっといいか?」


 そう話すのは巨人族のファイだった。

 チームのみんなと頷いていると決心をしたのか提案をする。


「俺たちは棄権するぜ。あんな力を持つあんちゃんと戦えそうにない」


 そう言って指した指はレントに向かっていた。

 彼らは暴走するレントをその目で見ていたのだ。


「俺たちでは触れることも出来なさそうだ」

「ちょっと待ってください! あんなん気軽に使えないです」


 レントが声を張って呼び止めるがその意思は固いようだ。


「それだとお前は手加減してるって事だろ? 俺たちはそれが仕方なく嫌なんだ」

「おう、相手に手加減されるものほどムカつくものはねぇわな」


 残りのふたりもその意見には同意しているようで、この提案は覆りそうになかった。


「ふむ、儂はこのまま戦うとするかの。久しぶりに滾っておる」

「我ら2人も同意です」

「うむ」


 と、なるとレント達が戦うのは龍神族だろうか。

 3チームはレイスターの指示を仰ぐためにその言葉を待つ。


「そうだな、その棄権は認めよう。こちらとしても試合数が少なくなるのは助かるからな。それでも7日は待ってくれ」


 そこばかりは仕方ないだろう。

「ドラグニティカ」「ギガント」それぞれは了承すると別方向に立ち去っていった。


「もちろん僕達も……」

「そうだね。それは待ってようか」

「当然」


 今日はそこで解散となり、参加者が散っていくとレント達も街へと行き少し早い夕食にする事にした。


 その間も対策と予定の話し合いは忘れない。


「で、龍神族だけれどさ。勝てそう?」

「うーん、正直攻撃自体は思ったほどじゃないかなぁ」

「防御は可能」


 もちろんまだまだ余力を残している可能性はあるので驕ることはしない。

 予定より火力の想定は高く見た方がいいだろう。


「じゃあ、こちらの攻撃は通じるかな?」

「それもどうだろうね。みたところリンシアの火力だけでは不安はぬぐえないかな」

「不服。でも反論はない」


 リンシアもそこは分かっているようで、特に何も言うことは無いみたいだ。

 実際、リンシアは純二重魔術が使えるとは言っても火力は属性魔術の中で1番低いと言われる水魔術だ。

 攻撃力という意味では差程の力は無い。


「でもミラだって」

「僕は防御に全振りしちゃったからなぁ。攻撃力ならそこら辺の子供と変わらないよ」

「そんなになのか……」

「お兄様は貧弱」

「ちょっ、まっ、リンシア!?」


 貧弱と言われてしまったが、その代わり防御に関しては周囲の同学年を見ても群を抜いていた。

 とても貧弱と言うべき人物ではないだろう。


「冗談」

「まぁ、僕もそういう事だからさ。頼みはやっぱり」

「僕だよなぁ」


 リンシアの火力だけでは足りない、でもミラは攻撃手段としては使えない。

 そうなると必然的にレントに矛先は向くのだ。


「とはいえ僕も影魔術メインだからなぁ」

「ほら、あれだよあれ」

「星影魔術」

「あぁ、あれね。やっぱないときついかなぁ」


 内心では使いたくない気持ちが強い。

 なんせ火力の面だけで見るなら、レントの他の魔術にあれに勝るものは無いだろう。

 なんか卑怯なのではないかというのがどうしても引っかかるのだ。


「大丈夫だって、むしろ巨人族みたいに手加減は嫌いかもしれないしさ」

「こちらが手を抜いている余裕はない」


 確かにそれもそうだ。

 間違いなく格上だ、おそらく今大会において全てのチームから見ても格上に違いないだろう。

 そんな相手に卑怯とか言ってられないのもその通りなのかもしれない。

 そう思ったレントは持てる手段は惜しみなく使う方針で行くことにした。


「ちょっと想定外の攻撃しても許してね……」

「それは……どうだろうね」

「真実と虚実は使い分け」


 これからの予定も立てていく。

 残り日数は7日もあるのだ。訓練にだけを精を出していては勿体ないだろう。

 となるとやることはひとつしかない。


「あ、ちょっと待って。僕はちょっと里帰りしてくるよ」

「ミラは家に戻るのか? 街の外だろ?」

「ちょっとね。大丈夫、許可は貰ってるから」

「ならいいけど」


 それならリンシアも同行するのだろうか?

 こう見えて兄妹であるし、そうなってもおかしくないというかそうあるべきとも思う。


「私は行かない」


 その言葉だけ出すとリンシアは席をたち店を出ていった。


「まぁ、リンシアは元々本の虫だからね。多分ずっと図書館にでもいるつもりなんじゃないかな」

「協調性……欲しいかな」

「は、はは……諦めたよ僕は」


 リンシアのいた席を2人は眺めながら予定を立てながら夕食を腹に収めていく。


 そうして食べ終わるとミラと別れてレントは自室へと戻っていく。


 考えていることはアビスの事だ。

 あれからたまに何故かアビスの声が聞こえてくる時がある。

 こちらから話しかけても帰ってくることもあるし幻覚ではなさそうだ。


「何か考え事か?」

「ん? あぁ、アビスの声が今みたいに……!?」


 聞き覚えのある声がすぐ側から聞こえ、そたらをびっくりして見る。

 そこには高さ30cmくらいのぬいぐるみが手を振っていた。

 みたところ2本の角を生やした赤い悪魔みたいな見た目をしている。


「おう、やっと力が戻ってきて姿を見せられるようになったぜ」

「んな……っ」

「俺はアビス……って驚きすぎだぜ? レント」


 今までこうして話す機会というか、目で見ることすら少なかった相手が今まさに目の前にいる訳だ。

 脳の処理が間に合うわけが無い。




 ────数分後。


「落ち着いたか?」

「あ、ああ。大丈夫だよ」

「でだ、俺もこうして現界できるようになったわけだしよ」

「なにかするのかい?」


 アビスは溜めに溜めてその言葉を勢いよく口から飛び出させる。


「飯が食いてぇ!」


 さっきまで食べてたんだからその時に出てくれよ、とは思ったがそのぬいぐるみから思いもよらない剣幕を感じてすんでのところで引き止めた。


「食堂でも行く?」

「おう、さっさと食うぞ」



(まぁ、僕も甘いものを食べに行くのもいいかもな)





 食堂ではアビスが主に女の子達に人気が出ていたが、本人はそれを意にもせずひたすらに食べていた。

 ぬいぐるみのどこに食べるところと消化するところがあるのかいまいまわからないが、消えていくのだからそういう事なのだろう。



 レントはパフェを食べながらそう思うのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る