地味な私が天使みたいなあの子に好かれるはずないじゃん⁉(百合)
水色桜
第1話
キンコンカンコン。チャイムが鳴る。私は急いで教科書をバッグにしまい、そそくさと教室を後にする。教室から私が出ると後ろから話し声が聞こえた。
「あの子だれともしゃべらなくてちょっと不気味だよね。」
「ほんとそれ。なんで喋んないんだろう。笑ったところとかも見たことないし、ホント不気味。」
ただコミュ障なだけだ。話しかけられても「あっ…えっと…」しか出てこないのだ。
「多分ちょっと恥ずかしがり屋さんなだけなんじゃないかな。この前、ノート持つの手伝ってくれたし、悪い子じゃないと思うよ。」
この声はクラスの天使こと、望月加恋(もちづきかれん)さんだ。加恋さんが人の悪口を言っているのを聞いたことがない。こんな私のことをフォローしてくれているみたいだ。私はこれ以上話し声を聴きたくなくて、教室から急いで離れた。教室をでて右に進み、階段を4階分降りて、地下の音楽室に向かう。この高校はスポーツ推薦で来る人が大半のため、文化部はほとんど人がいない。私の所属している吹奏楽部もたった二人しか部員がいない。私は地下の一番奥にある音楽室に向かい、鍵で扉を開ける。昔、部員が沢山いたころの名残で、弦楽器やピアノなど楽器はたくさんあり、音楽室独特の楽器の匂いが鼻を撫でた。私は入り口近くにあった水色の容器からヴィオラ(ヴァイオリンより少し大きい弦楽器)を取り出す。本来、オーケストラでヴァイオリンと一緒に用いられる楽器だが、あいにくこの部にはヴァイオリン奏者はいない。弦を松脂で撫で、肩当をヴィオラに取り付ける。今日も最近は待っているJPOPを演奏しようと弓を持つと、音楽室の扉がバタンと勢いよく開けられる。
「もうっ!なんで一人で行っちゃうの?一緒に行こうって言ったのに!」
加恋さんはちょっとむくれたような顔でこちらを見る。
「えっ…あっと…」
てっきりただの社交辞令だと思ったのだ。この部に入ることは昨日聞かされたが、まさか本当に音楽室に来るなんて。
「あの…その…話してたみたいだったから…。」
私はなぜかしどろもどろになりながら答える。
「私、みすずちゃんと一緒に行きたかったのに!」
なぜこんな私しかいない吹奏楽部に入ってくれたのか。心底疑問でしかない。
「えっと…明日からは声を…かけます…。」
「本当⁉やったぁ!」
加恋さんはまるで大輪のヒマワリが咲いたような笑顔で喜ぶ。本当になんでこんなかわいい子がこの部なんかに入ってくれたのだろう。つやつやの黒髪にまん丸な目、おっとりした雰囲気、男女ともに好かれるのも頷ける。
「そうだ!みすずちゃん、カヌレが好きなんだよね。今日家で作ってきたんだぁ!」
「あれ?私そんなこと言いましたっけ…?」
「あっえっとクラスの子に聞いたの!」
クラスにそもそもまともに話したことのある子がいないから、話した覚えがない…。でももしかしたら何かの拍子で言ったのかも。
「はいどうぞ。」
「いっいただきます…。」
加恋さんの作ったカヌレは甘さが上品でとってもおいしかった。
「おっおいしい…。」
「そう?それはよかった!頑張って作った甲斐があったよ。」
加恋さんは私のことを覗き込むように見る。
「どっどうかしました?」
「ううん何でもないよ。」
加恋さんは微笑みながら顔を横に振る。本当に天使の考えはよくわからない。私なんかのためにこんなことしても何にもならないと思うのに…。
「あれっ。動かないで。」
加恋さんは私を静止する。そして次の瞬間、加恋さんの顔が私の顔に近くまで寄せられ、私のほっぺにふわふわの感触が走る。
「なっ!」
私は真っ赤になって動揺する。えっどうして⁉
「口のよこにカヌレのかけらがついてたよ。」
加恋さんはちょっと赤くなりながらそう答える。
「えっ。で…わた…ひと…とれるから…。」
動揺してしまって普段以上に言葉がでない。加恋さん照れを隠すように横を向く。
「その…。私みすずちゃんと仲良くなりたいと思ってて…。だからその…。」
加恋さんはところどころ詰まりそうになりながら言う。
「とにかく!」
突然大きな声を出す加恋さん。
「これからよろしくね。」
この日、私の人生に春の香りがした。
地味な私が天使みたいなあの子に好かれるはずないじゃん⁉(百合) 水色桜 @Mizuiro__sakura
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