私は清野結亜。下から読んだらアユノヨキ。

 ——私、きよ

 今をトキめく女子高生!

 自己紹介は以上!

 キャー今日も遅刻ちこくー! 寝坊しちゃったー!


 ……なんて事はなく、私はただ、街をうろついている。何故なら今日は、休み、だからだ。

 せっかくの土曜日なのに、も彼氏とデート。

 瑞稀にも声かけたけど、あの子は最近親に怒られて、外出禁止だそうである。別に田所くんと付き合って成績が落ちたわけでもないというのに、やっぱり恋愛って、面倒くさそう。

 菜摘ちゃんはアルバイト。

 他の子達はお勉強。

 人生って楽勝だと思ってたけど、退屈を凌ぐというのは結構難しいものだ——。


「——ねえ、ちょっと良い? 俺って……って結亜かよ?」

「ん? あ、だかくん!」

 私はわざとらしく反応する。

「お前、一人で何してんの?」

「何って、なんか買い物しようと思って」


 ——う、そ、だ、よ?


 だって買い物するなら外に出て寒い思いなんて、する必要はない。

 私が降りた駅と、お洋服屋さんが入っているファッションビルは、繋がっている。買い物自体が目的なら、真っ直ぐ中に入って買い物するなり喫茶店でケーキ食べるなり、そういう事をしていれば良いのだ。

 戸高くんの目的はきっと、女の子に声をかける事、、だろう。

「ふーん? まぁ良いや。邪魔して悪かったな。じゃあ俺行くから——」

「待って。戸高くんも、今一人?」

「あ? そうだけど……」

 ——ふふふ。一方的に声かけておいて自分だけさっさと消えるなんて、都合良すぎだよね? ちょっと暇つぶしの相手になってもらおうっと!

「なら一緒にマ○ク行きたいなー? ……ダメ?」

「ええ? もしかしてお前——」

「大丈夫! 戸高くんには全然キョーミないから!」

「なんだよ、ソレ……」

 いつもは梨乃とちえりが一緒にいれば満足、なんだけど、今日はその二人はいない。

 それに最近はあの二人、私がいなくても全然仲が良いから、ちょっとだけ安心している。「私がいないとダメなんだから!」って思う事ができない、一抹の寂しさはあるけれど。 

「——要は暇つぶしって事だろ? 俺、こー見えて忙し——」

「ええー? 女子に声かけといて、セキニンとってくれないんだー?」

「いや言い方! つーか声かけただけじゃん?」

「そうそう。それで今ノルマ達成できたでしょ? まだだいいちかんもん、だけど?」

「お前、なんか違うくね?」

「違わない違わなーい!」

 そう、違わない。

 私は明るくて天然、

 ——大人しいのも、のんびりするのも、そういう役割りだからなの!


 マ○クに入った私達は、ささっと注文を済ませて、店内の椅子に座った。もちろん戸高くんのオゴリだ——誘ったのは私だけど、先に声をかけて来たのは戸高くん。だから当然、でしょ?

 ガラス窓から観える人々の足並みが、心地良い。

「——んで? どーすんだよ、これから」

「え? 知らないけど」

「オイ!」

「だってー? 私ホントはなんにも予定なかったしー? 戸高くんこそ色々プラン、あるんじゃないのー?」

「お前用のプランはねーよ」

「他の人用のプランでも良いよ?」

「マジで言ってんのか、お前……」

「あ、ポテトおいしーい!」

「だからオイ!」

 ——ふふ、戸高くん困ってる! あー楽しい!


「——もしかしてお前、ストレス解消か?」


 ——ストレス解消? ナニ言ってんだろ?

「なんのこと?」

「いや、お前さ。普段からちえりと梨乃に振り回されてんだろ? ストレス溜まりそーだなってな」

「別に振り回されてなんかないよー?」

 本当だ。

 だって情緒がおかしいあの二人を観てると退屈しない。楽しいからいつも、一緒にいるのだ。

「なら、良いけどよ? ホラ、ちょっと前に、お前ら、大変だったっつーハナシ聞いてたから、なんつーか……」

 ——意外! 戸高くんって気遣いとかできるんだ?

「そう思ってくれてたんだ? ありがと! でも菜摘ちゃんのお陰で解決したから!」

「そーかよ」

「ザンネン? 

「は? ち、ちげーよ」

 ——ふふっ、男の子ってこーゆーとこ可愛いよね! 

「——でもよ? ホントにそーか? 後から瑞稀に聞いたんだけどよ、お前そん時、なんかいたばさみだったって、言ってたぜ?」

「戸高くん? それは余計なお世話! 聞かなくて良い事もあるんだよ?」

 ——マジで余計なお世話。ちょっとイラッとしちゃった。……人の内面にいちいち踏み込んでくんじゃねーよ。

「あ? ただ言ってみただけだって。めんどくせぇ女!」

「そうそう、それで良いよ! 一言余計だけど! 私のコト堕とす気ある?」

「ねーから言ってんだっつーの」

「あははっ!」

 

 ……本当に楽しい。、本当に、気楽だ。


 あの時私は、本当にどうして良いのか、わからなかった。いつもなら「ハイハイ、うんうん、わかるー、そうだよねー」で済む事ばっかりだったのに、本当の喧嘩になっただなんて。

 もちろん「そのうち爆発するんだろーな」みたいに、考えてはいた。いつも一緒にいたから、二人の不満は手に取るようにわかっていた。

 でも、実際にそうなってみると、体も口も、そして、動いてくれないものだ。結局私には、心の準備が足りなかったのである。

 私は、中立、なんてモノを気取っておいて、その心構えができていなかった。

 二人の親友ではなかったのだ。

 菜摘ちゃんの手助けとフォローがなければ、本当にどうなっていたのか、わからない。

 だから、悔しい。

 友達でもなかったのに、平気な顔をしてよこやりを入れる事ができた、菜摘ちゃんが。

 友達というモノを気楽に考えていた、私が。


「お前はさー? なんで男、作らねーの?」


 ——は? また余計なお世話だ。

「……なんでそんなこと訊くのかなー?」

「いや、俺が無理だから。男とツルむのも悪くはねーけど、やっぱが欲しーじゃん? 勉強勉強つったって、最後に必要なのはオンナかな、ってね。ちえりとか梨乃もそうなんじゃねーの? なんでお前だけ我慢してあいつらののろばなしに付き合ってんだろーなって、思うワケ」

「今が、楽しいから。……それじゃ、ダメなワケ?」

「別に良いけどよー? 逆につまんなくね? 退屈っつーか、きゅうくつだろ。そんなんじゃ」

「きゅうくつ?」

「そーそー。俺はさ、さっき無理とは言ったけど、別にオンナがいなくても良いと思ってる。それなりに楽しいからな。でもさ、やっぱオンナが欲しーから、やっぱその為のリョクってヤツを、すんだよなー? 。でもいた方がゼッテー楽しいし、『いない方が楽しい』なんて決めつけ、かなりダリーっつーかよ?」

「いつ、『いない方が良い』なんて言った? 私が。別に決めつけてないよー? もしかして『だから俺と楽しもーぜ?』っていうサンダン?」

 ——マジでうぜーな、コイツ。

「はっ! そのつもりなら、こんなめんどくせぇコト言わねーって。ほいほいテキトーな事言って、おだててりゃ良いからな。それでチョロい女はイチコロ」

「じゃあ、なんで、そんな事言うの?」

「……お前、オトコはチョロそうで頭悪そう、とか、思ってんだろ? 特に俺みたいな奴とかな。だから、そうじゃねーってトコ、わからせようとしただけ。ま、わかんねーだろうけどな? そろそろ行こうぜ?」

「一方的に、自分の言いたい事言って、それで『行こうぜ?』って、かなり自分勝手じゃない?」

「お互い様だろーがよ? 、マジで楽だわー」

 ——コノヤロウ。


「オイ、今なんつった?」

「言葉通りだぜ? お前はせいぜい、、相手にしてろよ? その方が楽しいんだろ?」


「あんたに、そんなこと、言われたくない! いっつも人目ばっか気にして、女子だけじゃなくて男子にも! チラチラ顔色んじゃねーか!」


「お前は違うのか? ああ、ちげーな? だってお前、ちえりと梨乃にしか、興味ねーからな? 見てりゃわかんだよ。菜摘に嫌がらせとか、すんじゃねーぞ? アイツも最近は頑張ってんだからな」


「私が頑張ってないって言いたいの!?」

「ちげーちげー、それもちげーよ。お前は頑張り過ぎなんだよ、あの二人の為に。もっと気楽に行こうぜ?」

「あんたに、何がわかんのよ!」

「ハイ出ましたー、そのセリフ。だから俺も言うぜ?『』ってな」

「……!」

 ——くそ、何なのよ!? なんで休みの日に、こんな奴の、こんなハナシを聞かなきゃなんないのよ!?


「……悪かったよ。ちょっとお前にムカついてな。お前のせいで、今日の予定がかなり狂っちゃったからな。そういうシンプルな理由の、シンプルな、意地悪だ」

 そう言って戸高くんは、立ち上がった。


「——トレイ」

「は?」

「トレイせよ? 帰るだろ?」

「……戸高くん、は?」

「あー、俺は『さっきの続き』かな? まだ時間も早えし、一人くらいは捕まんだろ」

「……チャラいね」


「ああ、そうだな? それが俺の、だ——」


 その後私は帰路につかずに、買い物なんかして、持て余した時間を潰すのだった。

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