私は手塚菜摘。誰から見ても手塚菜摘。

「んでねー? タツキの野郎がまたこんな事するのよ——」

? あんた、あたしにキレてた内容忘れたの?」


 てんどうちゃんに食い気味に不満を漏らすのは、こうさかちゃんよ。

「覚えてるって。だから最近はちえりの話も真面目に聞くよーになったじゃん?」

「へえ? やっぱ今まではテキトーだったのな?」

「良いじゃん良いじゃん。最近はちえりもスマホしまってくれてんじゃん! だから前は悪い意味の! 今は良い意味で、、よ?」

「梨乃、あんた最近、みずに似て来たわね?」

「瑞稀? 違う違う。わたしに影響与えたのはタツキ! 彼氏ってやっぱ、そういうトコが良いのよねー? 病みつきになるわ!」

 二人は今日も、互いの彼氏の愚痴を披露しているわ。今日の私はきよちゃんの代わり。二人の愚痴の、聞き役よ。

 最近は音楽を聴きながらの予習もそこまで必要無くなったし、丁度いい暇つぶし。

 楽しいお昼休みの過ごし方ってやっぱり、楽しいわ。ふふっ。


「なら愚痴は言わないほうが良いでしょ?」

「おおっと! ちえりからそんな言葉が出ちゃうとは! 上から目線のアキトくんの悪口は、愚痴とは違うんですかねー?」

「そ、それは、そう、だけど……。てかあんた、最近ちょーし乗ってんな? あたし、まだ根に持ってっから」

「うっせーうっせー。あはははは——それでタツキがね?」

「まったく……!」

 本当にどっちもどっち。

 お互いの話したい事をお互いに、一方的に話してる。少しだけ、羨ましい。

 でも、だからこそ、するのよね?


 私の名前はづかつみ

 私と親しい人は菜摘と呼ぶし、それ以外は、手塚さん。

 私は親しい人には「ちゃん付け」するけど、呼び捨てするのは特別な人。

 今のところは瑞稀とそら、この二人だけよ。


「やっぱり二人はお互い様よね?」

「えー菜摘、どこが?」

「だって、お互いの彼氏くんを自慢したいんでしょう? でもマウントは取りたくないから悪口ばっかりでのろ合ってる。ふふっ、本当に二人は瑞稀みたい」

 私に彼氏みたいな人がいたとして、その彼氏の良い部分は言いたくない。でも話したい。なら、悪口を言って自慢したい。それに、外で悪口を言ったなら、二人っきりの時には「それ以外」が残るでしょう?

 うふふ、とても簡単なロジックよ?


「うわ。ちょっと菜摘ちゃん! やめて! 途端に恥ずかしくなってくっから!」

「今ごろかよ? でも菜摘、良い線いってるわー。瑞稀にあたしが似てるってトコ以外はね? 梨乃は確かにそうかもだけど」

「うふふ。話し方だけ見たら、ちえりちゃん、あなたの方が似てるわよ?」

「ええー?」

 瑞稀に、私の知る琇くんを話したのは、私がマウントを取りたかったから。常に「琇くんの彼女」っていう立場でいる瑞稀のマウントに、対抗したかったから、なの。

 瑞稀は私を自分よりも大人って言ってたけど、本当は、違うのよ。私の方が子供。

 だから私は羨ましかった。

 それは、だけれどね?

 ああ、もう琇くんは完全に諦めた。だから別の部分で羨ましいって事かしら?


「菜摘ちゃん、はさ? なんか浮いたハナシとか、ないわけ?」

「おお梨乃。それはあたしも聞きたい。グッジョブ!」

 ふふ、二人とも興味深々ね? 

 わかってるくせに。


「あるにはあるけど、失恋、よ?」

「うわ。ごめーん」

「ええ? マジ? 菜摘をフるなんて、よっぽど良い男なんでしょーね? くそ……どんな奴?」

 ほら、やっぱり食いついて来た。

 皆んなのその残酷で無邪気な好奇心、羨ましいわ。


「それは——ふふふ、ナイショ。そうね、二人がそれぞれの彼氏と別れたらお話する、かもね」

「いじわるー。わかった! じゃあわたし、タツキと別れる! マジで自分勝手なんだから!」

「おいおい、そんな事言って良いの? あたしがとっちゃうぞー?」

「ちえり! マジでそーゆーのやめろよー。トモダチ失くすぞー?」

「うっせーって。お前よりはマトモ」

「言ったな? やってやんよ!」

「おーおー、かかって来やがれって——やめっ……! あはははっ!」

 梨乃ちゃんが、ちえりちゃんの胸を揉んだりしながら脇腹をくすぐったりしてる。

 ふふ、あの時の二人とは、全然違うわ。


 どうして私達は、男の子の事を好き、に、なるのかしら。

 だって、そうでしょう? 

 誰かと楽しく過ごすなら、今の私達のように、友達同士でじゃれ合ってれば良いのに。戯れ合わなくても近くに居るだけで、楽しいのに。

 男の人よりも身体的な強さで劣る女の人は、男の人に守ってもらう事で、生き残って来たってハナシ、よく聞くわよね?

 恐らく男の人よりも強い女の人も居たのだろうけど、子供を育てるには自分で全てをこなすよりも、守って貰いながらの方が都合が良い。 

 そういう役割り分担のお陰で、力が強くて頭の良い男性が生き残り、そんな男性に甘えて気心を察する事のできる、私達「女」が生き残った。

 そう考えるのが自然、だし、私もそう思うのよ。

 でもね?

 だけど私達、女は強いわ。

 力では男の人に敵わないけど、男の人よりも頭の良い人達は大勢いる。

 でも、男の人に好かれたいから、多くの人達は頭の悪いフリをして、甘え上手になる事を目指してる。

 何も考えないようにして、身の回りの事を色々と考えて生きている。

 何故?

 今の時代、女性でも一人で生きていける。

 なのに何故、好きなヒトに好かれる為に、好かれようとするのかしら。

 何故そもそも、好きなヒトができるのかしら。

 ああ、そんな事を考えるから、私はモテないんだわ。

 そんな自分を隠さないから、周りの人に、甘えられないのよ。

 

「はぁはぁ……! 梨乃お前ー! どうせなら菜摘の胸揉めって! 菜摘のほうがデッカいぞー!」

「ちょっ! ちえりちゃん!?」


 ……とても原始的な遊び。

 でも、こんなやり取り、今までなかった。

 それをとっても楽しく感じる私、やっぱりどこまで行っても子供、なのかも。


 考え過ぎも良くないわ。


 何も考えてなさそうに見える人達を羨ましがるだけじゃなくて、私ももっと、シンプルに、そうやって生きていこう。


 最近は、そう思うの——————。


「ちっ……! ちえりちゃ——! ! ちょっと! やめなさい!」

 

 

 

 

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