僕は秋山真也。色んな人達のソムリエで、フトシくん推しのごくごく普通な男の子。
最初に自分の事に気づいたのは、小学三年生の時。プール学習の時の着替えの時に、ドキドキしてしまった。
誰の、とかは特になく、視線を皆んなに向ける時、その上から下に、ドキドキした。
だから、自分の裸を見られるのも凄く、恥ずかしかった。修学旅行の時のお風呂もそうだし、同じ部屋で寝てる時もそう。
そしていつしか、僕が、皆んなが、服を着ている時も、そうなった。
皆んなと僕は違う。それは良くない事だ。
そう思い込んでも、ただ話してる時でも、鏡で自分を見てる時でも、想像してしまう。
そんな自分が嫌だった。
僕の名前は
皆んなは僕を単に、秋山、だとか真也、だなんて、そう呼ぶよ。
「おーい、真也! 今度の休み、また『手繋ぎゲーム』しに行かね? お前の引っ込み思案なトコ、治しに行こうぜ?」
そう言って僕を誘うのは
たしかに僕は、引っ込み思案。でも、本当はそうじゃない。
ただ周りが怖いだけ。
男子が、そして女子が。
それでもこうして今、僕に友達がいるのは、フトシくんと
ああ、
「ええ? また? もう良いよ。アレってめちゃくちゃ迷惑でしょ?」
「迷惑? 馬鹿言うなよ。あれはアッチも嬉しいから乗ってくれるんだって」
「いや、乗らなかった人には迷惑だよ」
「その場合は、俺らも
なんて
でも、羨ましい。
裕樹くんの云う「手繋ぎゲーム」とはこういうモノ——。
まずゲームの舞台となる場所を選ぶ。大抵は近くにある駅とかショッピングモールとか大通りとか、そういう場所。
そこで女の子に声を掛ける。
声の掛け方は自由だ。裕樹くんの場合は「ねえ? ちょっと良い? 俺の事見てどう思う?」みたいな感じ。それはあくまでも裕樹くんの場合だけどね。自分の見た目に極振りして自信を持ってる裕樹くんの場合。
もちろん拒否する人も多いんだけど、「カッコいい」とか「面白い」だとか言ってくる女の子達もいる。裕樹くんにとっては「変な人」とかも褒め言葉みたいだ。
だから、次に繋がる。
次、とは「じゃあさ、俺と手を繋がない?」という手順。
そういうルール。
その数を競うゲームが「手繋ぎゲーム」。
ちなみにこの手口も、裕樹くんの場合。
この「雑さ」が裕樹くんの持ち味だ。
そうやって裕樹くんは「ノルマ」を達成していく。気に入った子がいれば、そのまま連絡先を交換したり、僕達と別れて「続き」に行ったりする。
僕にはとてもできないやり方だ。だから尊敬している。そのやり口を知る僕は、彼と楽しもうなんて考えはないけれど。
別の意味で、琇くんも、僕のタイプではないかな?
彼も色んな手を使ってノルマをこなしてたけど「その気がないのに」声を掛けるなんて失礼だと思う。それに彼には川越さんもいるし。
でも、感謝してる。
この遊びのお陰で僕は、かなり
かなり自分を、変える事が、できた——。
「だからお互い様じゃないって。それだとどっちの場合も友達にはなれないじゃん。手繋ぎオッケーだった子を断るのも、大変なんだから」
「かぁーっ! 嫌味臭ぇ! 話せばモテる奴は言う事が違うねぇ?」
「そんなんじゃないって。俺はそういう方面で仲良くなりたい訳じゃないの! それに裕樹くんみたいにモテてないでしょ?」
「へへ、やっぱお前もそう思う? やっぱお前は、俺の
「なにそれ? 裕樹くんに言われてもなぁ」
たしかに裕樹くんは
もちろんドキドキする事だってある。だってカッコいいから。
でも、男らしいとは思わない。自分に自信がないからしょっちゅう誰かに、特に琇くんとかに、マウントを取ろうとしてる。いつもやり返されてるけど。
だから、面白いトモダチ。
女の子達にはそれで良いみたいだけどね? でも僕はそこまで単純じゃない。顔だけ、
僕は自分のそういう部分を、裕樹くんと関わる事で、知れた。
フトシくんと比べる事で——。
「うわひっで! 良いじゃん、お前には瑞稀とか
「だから彼女らには今彼氏がいるでしょ? そういう人達は良いんだって。俺を『そういう目』で見ないから」
「はぁ? そういう目で見てもらえる奴にもっと声掛けろよ? まさかお前、マジでゲイ、とか」
「……違う」
違わない。
でも琇くんを見てわかった。何か隠したい事があるならアレコレ多くを語らずにシンプルに否定すれば良いのだ。本当に彼は、参考になる。いけすかない奴、だけどね。
だからこそ僕は彼と「友達のフリ」をしてるのだ。見透かされてそうで気持ち悪いけど、本当に、ためになる。
ああ、最近は川越さんとのやり取りが面白いし、裕樹くんの遊びにも参加しなくなったし、そして何より、男らしくなったから、本当の友達になっても良いかもしれない——。
「ああ良かった! それでこそお前だ! 思う存分、甘えられるぜ!」
「それも迷惑なんだけど……」
裕樹くんの、こういう無神経なトコロが嫌いだ。だからトモダチ、なのだ。
フトシくんとは、違う。
なのに裕樹くんに「抱かれても良い」なんて思う自分が、凄く嫌だ。
川越さん達、つまり女子と一緒にいる時はそんな事を考えなくても良い。だから、そういう友達が、もっと欲しい。
気楽に付き合える、そういう、友達が。
でも女子にも、僕の本当の心は、明かせない。気楽だけど、切ない。
だから僕は女子達には、まだまだオドオドしちゃう時がある。
もっと、強く、ならなければ——。
「ぴえん」
「ソレもう流行ってないよ?」
「知ってるっつーの。だから良いんだよ。女どもにツッコんでもらえっからな?」
なるほど。
フトシくんと話す時の参考にしよう。
彼を堕とす為には準備が必要だ。
フトシくんは「二次元にしか興味ない」とか言っていたけど、川越さんと話す時の様子を見る限り、そうではない。女子を自分から遮断してるから、慣れていないだけなのだ。
それを僕は「ありがたい」と思う。
だって女子達に、フトシくんの「カッコ良い部分」が、隠されるから。
それに「三次元にも興味がある」という事は、僕にも望みがあるという事。
その為に、受け入れてもらえる準備をする必要がある。
フトシくんに拒絶されるのは恐い。
でも、受け入れて貰える日を想像するのは、とても楽しい——。
「おい真也、ニヤついてるぞ? どした?」
「ううん、なんでもないよ」
もっと色んな人達を、観察しよう。
いずれ来る、フトシくんとの「決戦」の為に——————。
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