小説。

笹野屋 小太郎

第1話

短大を卒業して、親戚のコネである会社に就職した。

初めての人間関係、触ったこともなかったパソコンの操作、来客の対応、別棟までの道順。

何もかもが初めての事で新鮮で、覚えることは楽しい。

でも家に着いた途端に体が重くなる。気を張っていたんだと。

でも明日も頑張ろう。もっと頑張って褒めてもらいたい。

私の担当の上司はいつも優しい。

文書の打ち間違いに「あの上司の文字、読めないよね~。」とフォローしてくれたり、重い荷物を全部持ってくれたり、残業の後にご飯に連れて行ってくれたり。


そんなふうに張り切って一年。

彼が支社に転勤の辞令が。もう会えなくなるかと思うと泣きそうだけど、精一杯仕事をこなした。

最後に二人きりで送別会をして、帰り際に「好きだったよ。」と言って立ち去った彼。


あれから半年。

こちらに用事で来た彼と再会した。夕食を食べて、彼の予約しているホテルに誘われた。初めて見る彼の寝顔を見れて幸せだった。


まだ眠っている彼を起こさずに帰ろう。なんだか急に恥ずかしくなって、そっと音をたてないようにドアまで行くと、ドアの下に新聞が挟まれていた。ホテルのサービスらしい。

それを拾い近くの机の上に置いてから、ドアを開ける。彼を起こさないように慎重に音を消してドアを閉めた。


家に着いてすぐに眠ってしまった。今日と明日は休日。ゆっくりと目を閉じた。


目が覚めたのは夕方だった。ずいぶん眠ってしまった。

彼はもう帰っただろうか。携帯を見ても連絡は来ていない。

テレビをつけて、昨日のことを反芻しながら、何となく見ていたテレビの画面にうちの会社の名前が。事件か事故か。

彼があのホテルで発見されたと。


え?なに?なんで。

あの時までは生きてた。



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小説。 笹野屋 小太郎 @AotoSorato

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