第7話 お前に愛は与えない
マリィの初戦闘を終えて夕方を迎えたので、無事にクレアシオン街に戻って来るマリィ達パーティ。
さっそく宿屋兼居酒屋『ドワーフの宴亭』に向かう。
ニガヨモギは「酒だ酒だ」と嬉しそうだ。
今日の酒のつまみはこの酒場特製のスペアリブ、プリエビのケッカソース和え、大皿に盛られた野生豚のチャーハン等、質素だとカーサンは言うがマリィにはかなり豪華に見えた。
さっそく大好物のプリエビを頬張って「美味しー」と喜ぶマリィ。
イツキはふと酒場にいた女性に対し、「お、いい女がいる」と喜んだ。
その女性は化粧が少々キツく見た目が知的で短髪をしていた。
「なによイツキ…あの人と飲みたいの?」とマリィはむくれる。
ニガヨモギは「イツキはあの人と飲みたいんだねえ」と言って「おーい! お姉さん僕たちと飲まない?」と短髪の女性に声を掛け、女性は「いいわよ」とすぐに了承した。
「あ、私まずいこと言っちゃった…」と言って悲しむマリィ。
イツキは「ニガヨモギありがとう!」ととっても嬉しそうにしていた。
女性の名前はコッカと言い、このクレアシオン街で行政の立場で働いているという。
酒の力は恐ろしく、コッカとニガヨモギは打ち解けてベタベタしている。
すでにそれはニガヨモギがコッカを落としたとも言えた。
ニガヨモギが「コッカちゃんは知的で美しいんだね」と言うと、コッカは「ニガヨモギさんたら口が上手いよー」とめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「…コッカちゃん今日の夜は空いてる?」とニガヨモギが吐息混じりでコッカに言うと、コッカは「え、どうしよう。ニガヨモギさんのお誘いなら断れないな…」とご満悦。
それを間近で聞いて終始顔が引きつっているイツキを見て、マリィは苦笑いを隠せなかった。
その日の深夜、皆が寝静まった頃…。
ニガヨモギはいつもの悪夢を見ていた。
「ニガヨモギ、またテストがたかが満点なのか」
「まったくこの子は出来ない息子ね。テストなんて教師の裁量で200点くらい取れ るでしょうが」
父さん母さん…無理だよ、ぼくには無理だよ…。
「今日は400点を取ってきたぼくちゃんのためにヒキガエルの肉詰めを作るわよ!」
「ああ、ニガヨモギの好物だからな」
母さん…ぼくそれ嫌いだって言ってるじゃないか。
父さんもなんで無理矢理食べさせようとするの?
ぼく今日のテストも頑張ったよ。
何で愛してくれないの…。
ニガヨモギの父と母は声を合わせて言った。
『ニガヨモギ、料理を落としてごまかすんじゃないわよ! これは罰なんだから』
はっ!と目が覚めるニガヨモギ。
あまりの悪夢に今日も汗だくになっていた。
ニガヨモギはよく自分の一族に愛されなかった夢を見ていた。
「あんなに必死に勉強したのになあ」とニガヨモギは言い涙がぽろりと一滴流れた。
ニガヨモギは一族の中でも勉強は出来ても要領は悪い方で、テストは満点以外取った事は無いが他の兄弟達のように教師や学校の諸先輩方に好かれる事は無かった。
今日の夜ふたりで飲んだコッカを思い出したニガヨモギは「ぼくに与えられる愛はいつも上っ面だけだ」と自重気味に笑う。
そして隣のベッドで寝ているイツキを見ると、ニガヨモギは『お前みたいな普通に愛されるやつは嫌いなんだよ』と思い睨み付ける。
「お前が好きになった女は全部ぼくが取ってやる…」
ニガヨモギは寝ているイツキに向かって小声で吐き捨てるように言った。
次の日目が覚めたイツキは、通勤途中のコッカとニガヨモギが外で偶然話しているのを見て、話を聞いてしまう。
コッカはイツキの事を「あの焼き海苔眉毛ってイツキって言うの? タイプじゃないです~」とニガヨモギに言ってふたりで笑っていた。
それを聞いて愕然としたイツキは思わず膝から崩れ落ちた。
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