第5話 みんなのことが知りたいっ!

マリィが二日酔いから目が覚めた時には朝を迎えていた。

「あれ? カーサンがいない」

そう言って同室で寝ているはずのカーサンを探すマリィ。

すると外からぶぅん…と何かを振るうような音がした。

マリィが外を見ると、外でカーサンが剣を持ち剣術の基礎訓練をしている音だった。

「カーサンおはよう!」マリィが声を掛ける。

「おはようマリィ、二日酔いはもう良いの?」カーサンは腕で汗を拭いながらマリィの挨拶を返した。

カーサンはマリィに言う。

「今日はマリィの装備を買いに行かなきゃね」

そうカーサンから聞くと「装備! 私の装備を買うんだ!」とマリィは目を輝かせた。

カーサンは「私は盾を持たずに長剣と短剣で戦うのよ。盾は煩わしくってねえ」とマリィに話した。


朝食を終えたマリィはカーサンと街に買い物に出かけた。

ニガヨモギとイツキはそれぞれやる事があるからとここから別行動になる。

カーサンは「マリィね、この街クレアシオンには私たちパーティの馴染みの古道具屋があるの」と話す。

マリィは「古道具屋さんかあ、ワクワクするね!」と嬉しそうだ。

カーサンが「ごめんね新品を買ってあげられなくて」とマリィに言うと、マリィはいやそんな! と申し訳なさそうにカーサンに返した。


古道具屋に着くと「ああ、カーサンいらっしゃい! 今日も家の商品を見て行ってくれよ!」と気前が良さそうな古道具屋の店主が威勢良く声を掛けた。

店内には中古とはいえ良く磨かれた武器防具が並ぶ。

メーテルは「マリィあのね、私は戦士だから武器防具にはちょっと詳しいつもりなの」

と言うと「…マリィの筋力ならロングソードとバックラーかな」と言い、ちょっと持ってみてとマリィにロングソードを渡す。

ロングソードはマリィの手にしっくり来た。

古道具の店主は「そのロングソードは軽量化されてるからね! 型落ち品だけど品はいいよ~!」と嬉しそうだ。

「カーサン! ロングソードってよく聖職者が冒険に出るときの武器だよね!」とマリィも嬉しそう。

カーサンは「そうよマリィ。マリィは女性にしては良い筋肉をしているからね」と言ってマリィと調子を合わせる。

「よし、名前を付けるわ! このロングソードは『マリィ一号』!」そうマリィが目を煌めかせながら言うと、カーサンと古道具の店主はマリィのあまりのネーミングセンスにズコッとずっこけた。


お会計は元々安いのにカーサンが値切って更に安くなった。

何でもこの古道具屋はチェーン店で、パーティは店の会員カードまで持っていると言う。

申し訳無いと言うマリィに「これが買い物の仕方だからね」とカーサンと古道具の店主までマリィに突っ込んだ。

カーサンは「明日は野営せずに宿屋にすぐに帰る予定だけど、一応携帯食料を買ってくるからマリィはニガヨモギのところに帰ってて」とマリィに促す。

ニガヨモギは宿屋で台所を借りて冒険用の道具を作っているという。


マリィが宿屋の台所にある作業スペースを覗くと、「お、マリィお帰り」ニガヨモギが薬草や毒消し草を作っているためか、少し軟膏の独特な匂いがする。

ニガヨモギはこれから聖水を作るという。

「ニガヨモギって何でもつくれちゃうのね! 聖水なら私も作れるから手伝うよ!」とマリィは目を煌めかせた。

「マリィは聖職者だからなあ。こちらも助かるよ」となんだか感慨深げなニガヨモギ。

「やっぱりぼくが何でも作るって大変なんだよね…」

マリィは水桶に汲まれた水の前に手を差し出して「神よ私に清めの水をお与えください」と詠唱した。

すると水桶の周りにポワポワと光が現れ、精霊達が水を清め始めた。

「おお、聖職者とぼくの聖水の作り方は違うんだなあ。ぼくは大学で習ったやり方でしか出来ないから」と興味深げに言う。

「大学ってお金がたくさん掛かるところだ!」と驚くマリィ

「そうそうお金がたくさん掛かるはずのところw」とニガヨモギは笑う。

「でもぼくは国から奨学金を貰って何校か大学に行ったから、お金で苦労して行けない人には申し訳ないかな…」

「すごいすごい! ニガヨモギすごいよ!!」マリィは驚く。

ニガヨモギは「寺院でもそれなりに勉強できるよー」と笑った。

「奢らないって大切だよマリィは哲学者について知ってるかな」ニガヨモギはマリィに聞く。

「ううん? 何が??」とマリィ。

「哲学の本は寺院で読んだよね?」とニガヨモギが聞くと、マリィは「難しくて解らなかったー」と笑った。

「マリィ、人は謙虚であることで初めて幸福を受ける事が出来るんだよ」とニガヨモギは言い、「なんて、ぼくの読んでいる本の受け売りだし、ぼく自身出来てないけどねー」と笑った。

マリィは「そっかあ深い言葉だねえ」と深く考え始めた。

するとイツキが「ただいまー」と帰って来て、マリィはすっかり忘れて「イツキお帰り!」と目がハートになったのをニガヨモギは見た。

だめだこりゃ。

ニガヨモギは思った。


「実は冒険の前に古本を3冊買うのか習慣でね」

イツキが「古本なら読んだらいつでも捨てられるからね」そう言うと「イツキかあっこいい!」とマリィ。

でもそう言われて実は「そうかなあ」と苦笑する。

「実はあんまり馴れ馴れしい態度を取るのが苦痛でね」とイツキ。

マリィは「え、イツキどうしたの?」と答えた。

イツキは「俺さ、性格が堅いんだよ」と言ってこう話した。

「実は冒険者になったのは古武道合気の修行の為なんだよ。ほら冒険者としてやっていく為には相手といわゆる馴れ馴れしい態度をとらないとやっていけないからねえ…」そう言ってイツキはため息を付く。

イツキは「いつも思う。俺は道場で修行していたいって。でも道場は追い出されちゃったからね」と少し苦笑した。

マリィは「そっかあ。冒険に出たくてたまらなかった私とは違うんだね」とイツキを慰めようとする。

「でもいいんだ。故郷は遠くなっちゃったけども街に古武道合気の道場があれば素泊まりはさせて貰えるからね」とイツキは言って「道場にはいつでも帰れるから」と言ってちょっと辛そうに笑った。

そうこうしているうちにカーサンが買い物から帰って来て、午後はマリィの鍛錬のためにコボルトと戦いに行こうとカーサンが言い出した。


それを見ていたニガヨモギはイツキを睨み付けていた。

ニガヨモギは「どうか、神よぼくにマリィを…」と呟いたが誰の耳にも入らなかった。

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