第2話 私が冒険に出る前に

冒険に旅立つ日、マリィはひとりの女性に時間を空けてもらった。

「マリィ、ついに冒険にでかけるのね」少々痩身の優しそうな老婆がマリィに話しかける。

「はい、マム。私はついに冒険に出かけます!」マリィはマムと言われた女性に子供のような表情を見せた。

「…マリィの夢だったものねえ」

女性は愛おしげにマリィの頭をなでる。

「マリィ、モロコシスープ以外のレシピも持って行くのよ」

「はいマム!」

マリィが嬉しそうに返事をする。

「いいことマリィ忘れないで」とマムが言う。

するとマムとマリィが声を合わせてこう言った。

『健全な心身も魔力も源は食べること』

ふたりは合い言葉のようにそう言って笑った。

「…ごめんマム。私最近モロコシスープしか作ってない…」

マリィは自重気味にこう言うと、マムは「大丈夫よマリィ、一回作れば手が覚えてるから」と言って笑った。

そしてマムはこう言った。

「何があっても帰ってくるのよ、マリィ…」


次にマリィは寺院にある墓地に花を手向けていた。

亡くなった育ての親である寺院の諸先輩方と兄弟達に旅立ちの挨拶をしにきたのだ。

この時代、寺院に捨てられる子供はマリィだけではなく何人もいた。

捨てられた子供の中には拾うのが遅かっただけで命を落とす者もいた。

「お兄様、お姉様、兄弟達…行ってきます」

マリィは墓石に祈りを捧げる。

「…私は死にません。必ずまた皆さんに祈りを捧げに帰ります」

強い瞳だった。

それは何者も揺るがない精神を持つものの瞳だった。


「みなさん、後は寺院の諸先輩方に挨拶したら出れます!」とイツキ達に声を掛ける。

イツキは「寺院は大変なんだなあ。俺は冒険に出ろって言われた口だから」と驚いていた。

「イツキも冒険に出たかったんじゃないの?」

マリィはイツキにそう問う。

「俺は修行のために道場を出されたんだよ。もっと楽したかったのに」

そう言ったイツキをニガヨモギが頭をはたく。

「もっと勉強しろイツキ」と怒ったニガヨモギをカーサンがまあまあとなだめた。

「マリィ行くんだな」

寺院の上級神官達がマリィに話しかける。

「お前のモロコシスープが飲めなくなるなんて残念だよ」

マリィは「大丈夫、必ず帰って来ますから」と上級神官達に微笑みながら言う。

上級神官達は「これはプレゼントだ」と幾ばくかの金貨を渡す。

「そんな! 受け取れません!」とマリィは断ろうとするが、上級神官達は「とはいえお前、あんまり位が高く無いんだから給料低いし貯金も無いだろう」と笑う。

マリィは「え、えへへ…と」下を出して笑い、上級神官達も笑った。

それを見てカーサンも「この寺院はみんな仲が良いのね」と言ってイツキもニガヨモギも笑う。

「さあ行っといでマリィ。たまには帰って来るんだぞ」そう言って上級神官達はマリィを送り出した。


 なんて美しい精神なんだマリィ。

 ホシイホシイホシイ…。

 なんでぼくを好きじゃ無いんだ…。


寺院の外に出てカーサンはマリィに伝える。

「今日はマリィの歓迎会よ! マリィとお酒が飲たいわー」

そう言ってうふふと笑うカーサン。

マリィは「お酒って聖体拝領の時しか飲んだことがないの! 楽しみ‼」と言って大喜び。

「え、マリィって酒飲むの初めてなの?」

マリィに微笑みかけるニガヨモギ。

「美味しいよーぼくは酒が無いと生きて行けないな」

イツキは「マリィ、酔っぱらいになるなよーw」と笑っている。

「今日はパーティリーダーとして、責任持って豪華絢爛料理を酒場に注文しておいたからね! これから冒険に出るんだから栄養つけて頑張ろうマリィ!」とイツキも笑った。

マリィはわーいわーいとお日様のように嬉しそうに笑うと

「豪華絢爛料理! お酒! 楽しみ!」と元気に言った。

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